表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

07 悪代官もといクソ生意気皇子様の登場

「その娘に教えてやったらどうだ、魔術師リーア・オヴィネン」


 つかつかと足音を立てて、歩み寄ってくる。その足音はやっぱり軽く、手が届く距離まで近付いた彼の姿は……うん、小さい。

 四歳か五歳かくらいかな?

 十歳上の従姉のところの男の子が、今年年長さんだ。背丈もぷにっとした頬っぺたも、ちようどこんな感じ。

 青みがかった黒髪はさらさら。白くてすべすべの頬っぺたは……お餅、ううんマシュマロみたいだ。ほんのりピンク色に染まっているから、イチゴマシュマロだな。

 ぱっちりとした二重の瞳は光を透かしたような群青色。まだ幼児体型ではあるけれど、足長いなーこの子。目鼻立ちもくっきりしていて、幼児のくせに美少年への道を確実に歩んでいる。


「……なんだ、娘」

 チビっこ、もといレーヴィット殿下は不快そうに目を細める。ずいぶん機嫌が悪そうだ。ふと、隣にいたリーアさんが跪き頭を垂れているところだった。

 あれ、わたしも頭くらい下げた方がいいのかな? なんて考えていたら、立ち上がったリーアさんに思いっきり腕を引かれていた。


「頭が高い!」

 一瞬、時代劇のワンシーンが頭をよぎる。反論する前にそのまま頭を床にねじ伏せられた。

「失礼致しました」

「よい」


 頭の上では異世界版時代劇が繰り広げられている。なんだ、これ。わけがわからない。

 まあつまりは、チビっこといえども、この子はかしずかなければならないような相手というわけか。薄ら腹立たしけど、郷に入っては郷に従えっていうもんね。

 ここは身の安全のために、わたしも時代劇のキャストに加わったつもりになってみようか。

 リーアさんの力が緩んだ隙に手を振り払い、改めて「ははーっ」って感じに額づいてみせる。


「先ほどは失礼つかまつりました。して、リーア殿に教えて貰えとは、如何なことでございましょうか?」

 どうだ! これで文句は言えまい!

 と胸を……張れないが、殿に使える家臣になったつもりで厳かに言ってみる。なのに。


「娘、殿下に直接口をきこうとは失礼ですよ」

 ちょっとリーアさん……じゃあ、どうすればいいわけ?

「かまわん。娘、名は?」

 お、殿下の方が理解があるな。

「はっ! 拙者、名はカヅキ、姓はクスモト。カヅキ・クスモトと申します」

「ではカヅキ・クスモト。教えてやろう、我が身に呪いを掛けたのは、リーア・オヴィネンである」


 リーア・オヴィネン?

 一瞬、殿、じゃなかった殿下の言葉が理解できなかった。

「リーア・オヴィネンって、あの……」

 ちらり、とリーアさんを見る。すると、ものすごく気まずそうに目を逸らされた。

「そう、この女こそが呪いを掛けた張本人だ」

「ええーっ! ホントですか、リーアさん!?」

「娘! 殿下の前で……」

「その殿下に呪いを掛けた方がどうかと思いますけど!」

「……くっ!」


 悔しそうに歯噛みをするリーアさん。

 うわ、殿下に呪いを掛けたって本当なんだ。

 ふと、湧き上がった疑問を解消すべく、小さく手を挙げて訊ねる。


「質問がありま……殿下にお尋ねしたいことがございます」

「構わん。続けよ」

 リーアさんに再び非難の視線を向けられるが、幼い声に促される。

「この国では王族である御身に呪いを掛けても、罪に問われないのでありましょうか?」

「通常なら死罪だな」

「リーアさんは、通常ではないと?」

「まあ……そんなところだ」


 一瞬、言葉を詰まらせたものの、偉そうな物言いは健在だ。

 通常なら死罪であるところを、なぜリーアさんは赦されているのだろう?

 考えれるのは二つ。

 その一、殿下に非がある。

 その二、殿下が望んだ。


 ってところかな?

 どうみてもリーアさんは殿下に害意があるようには思えないし、こうして呪いを解こうと尽力しているのだから、原因は殿下が握っているに違いない。

 理由を二人が話してくれる様子は……無い。リーアさんは決まり悪そうにだんまりを決め込んでいるし、殿下は殿下で、どこ吹く風って他人事の様子だし。


「……リーアさん、どうして殿下に呪いなんか掛けたんですか?」

「得体の知れない貴様に教えるわけにはいかない」

「でも、呼び出したのリーアさんですよ? それに呪いを掛けたのもリーアさんですよね? 自分で解けないからわたしを呼び出したわけですし」

 険しい目で睨まれる。ちょっと言い過ぎたかなとは思う。でも、ここで負けるわけにはいかない。

 役立たずと排除なんか、されて堪るか!

「わたし、魔法は使えませんが、王家に仕えるような優秀な魔術師であるリーアさんが呼び出したのです。魔法を使えないわたしだからこそ、殿下の呪いを解くカギを持っているって思いませんか?」


 にっこり、と余裕をかませた笑みなんて浮かべてみせる。脳内イメージは魔法少女ピンキーポップの悪役キャラ、レディ・ブルー。クールビューティなキャラになり切ってみる。ま、わたしはクールもビューティも程遠いけれど、イメージって大事じゃない?

 もちろん、呪いを解くカギなんて持っていません。王子さまの呪いを解くのは、姫君のキス……あれ、反対だったかな……くらいしか思いつかないし。


「お前から話にくいのなら、私から話そう」

 にやり、と殿下が笑う。なんか幼児の表情じゃないのが怖い。

「レーヴィット様」

「よい。一応俺が原因でもあるのだからな」

 あ、俺って言ってる。でもその顔はやっぱり幼児のものじゃない。殿下、王族だからって理由もあるのかもしれないけれど、なんか得体が知れないチビッ子だ。


「まあ、大したことじゃない」

 小さく肩を竦めると、苦笑交じりに溜息を吐いた。

「リーアの逆鱗に触れてしまった結果がこれだ」

 腕を広げて、自分の姿を指し示した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ