12 呪いを解く方法
どうやって呪いを解くかなんていわれても……。
そもそも、リーアさんがうっかりかけた呪いだ。とはいえ、かけた本人が心の底から解きたいと思えば解ける……なんて単純なものじゃないよね?
うん、わかっています。ハッタリです。
あ、それにしても、どうして殿下はわたしが魔法を使えないって知っているのだろう?
「お前、自分で言っていたぞ」
「ほんとにでございますか?!」
殿下、無言で頷く。どうやら無意識に口を滑らせてしまったようでした。
「……うう」
結構上手くやっていたつもりだったのに。我ながら迂闊過ぎる。情けないのと恥ずかしいのが相まって、頭を抱える。ああ、穴があったら入りたい。
「お前は策士には向いていないようだな。聞かれてもいないことをペラペラと。お前の国に呪いがあるなんて、どうせ嘘だろう」
何ぃ!
「あります! ありとあらゆる呪いも、ございまする!」
「ほう、どんなものだ」
殿下は「言えるものなら言ってみろ」という態度がまるわかりで腹が立つ。
「では、教えてさしあげましょう」
メジャーな丑の刻参りとか、犬を使ったエグいやつとか、黒く塗りつぶした部屋で百回だか千回だか呪文を唱えるやつとか、知っているなかでもえげつない呪いをピックアップしてあげました。
ところが殿下ときたら、青ざめるどころか物知顔で「どこも似たようなものだな」ときたもんだ。
「わかった。お前の世界にも呪いがあるということにしよう」
「……ご納得いただけて何よりでございまする」
一応納得してくれたようですが、こっちは脅かす気で満々だったのに、心の底からがっかりだ。でもまあ、嘘ではないとわかってくれたのはよかったのだけれども。
「それで、お前のところでの解呪の方法は?」
「……あー、解呪の方法ですね」
しまった。実はよくわからない。
「どうせ知らないのだろう?」
「ひとつだけ、知っています。殿下の呪いに有効かは、わかりませんが」
あれです。童話的処置。眠り姫の眠りを解くあれ。王子様のキスです。あ、でもこの方王子様でした。じゃあお姫様の、かな。
「……殿下は、好きな人とかいらっしゃいますか?」
「解呪と関係があるのか」
「一応あります」
確かな解呪の方法とは言いにくいけど、可能性はある。でも見ず知らずの相手よりも、どうせなら好きな相手との方がいいかなって思ったわけです。
しかし、殿下のお答えは残念なものでした。
「いない」
興味関心もなさそうに、素っ気なく言い放つ。
「ですよね……まだ異性に興味かないお年頃ですもんね」
十四歳ということは、中学生だもんね。周囲の中坊男子を思い返してみれば、アホなことと下ネタで盛り上がってて、女子より精神年齢低めだった。
彼氏彼女を作っていたのは、ほんの一部だったし。わたしも当然その一部に入れるわけもなく、女子同士でつるんでドラマやBLの話して盛り上がっていたから、人のことはとやかく言えません。
「だか、婚約者はいる」
おお! 流石は王族。次期王位継承者!
「どんなお方でございますか?」
興味深々に訊ねると、またもや興味なさそうに「隣国の第二だか、第三王女だ」と、どうでもよさそうな返事だった。
「お会いしたりは」
「ない」
「一度も?」
「ああ、ない」
「いわゆる政略結婚というものですか?」
「王族の婚姻に、それ以外の何がある」
「確かにその通りかと」
「それで? 婚約者と呪いに何の関係があるというんだ?」
「いえ、お姫様であれば婚約者じゃなくてもいいのですが、せっかくなら好意を持った相手の方がいいかなと思いまして」
「どういう意味だ?」
殿下の眉間に皺が刻まれる。幼児の顔なのに、せっかく可愛い顔立ちなのに。十四歳の殿下はいつもこんな顔をしていたのだろうか。
「おい」
「あ、はい。意味ですが……お姫様との口付けが呪いを解く可能性があるのです」
すると、ますます眉間の皺が深くなる。そして、口の端で「ふっ」と、バカにするような……いえ、バカにした笑いを投げつけてきた。
「バカは休み休み言え」