10 魔術師リーア・オヴィネンの自宅をご訪問
ノリと勢いで、レーヴィット殿下の教育係に任命されたカヅキ・クスモトです。
表向き、殿下は国外へ長期留学のため不在ということになっているようです。なので、わたしと殿下は宮廷付魔術師であるリーアさんのお屋敷に滞在することになりました。
「わあ!」
城下のお屋敷町の一角に建つリーアさんのお屋敷は、周囲のお屋敷よりはこじんまりとしているものの、緑溢れる庭園を構えた趣のあるお屋敷だった。以前テレビで観た、古い貴族の別荘に似ている。どこから見ても絵になるようなお屋敷だ。
「さあ、どうぞ……あら?」
ドアが半分しか開かないようだ。最初は古いから立て付けが悪くなったのかなって。でも、ドアの隙間から漂ってきた匂いに「あれ?」って、おかしいなって思ったんだけど、気のせいだと思いたかった。
「少しだけ待って」
リーアさんは隙間に身を滑り込ませる。しばらく物音がした後、ドアが大きく開いた。途端、むわっと異臭が襲いかかってきた。
「うわぁ!」
ドアが開かない理由。それは床が見えないほど堆積したゴミと生活用品のせいだった。広い空間がゴミに埋め尽くされている光景。ただただ広がるゴミの山に「うわぁ……」としか言葉がでない。
隣にいる殿下を盗み見ると……うん、やっぱり硬直している。
だよねー、王子様はゴミ屋敷とは無縁な生活だろうし。一般庶民だって汚部屋と遭遇することはなかなかないし、あったらあったでかなりの衝撃だしね。そんな一般庶民も、初めて遭遇するゴミ屋敷に圧倒されていますが。
「ちょっと散らかっておりますが」
「ちょっとどころじゃないですよ!」
すかさず突っ込むと、リーアさんはムッとした顔になる。
「最近研究所に泊まり込んでいたから、片付けられなかっただけよ。事前にわかっていれば……」
「事前にわかって片付くレベルを超えています」
「うるさいわね」
「事実を述べたまでです」
わたしとリーアさんの間に火花が散る。
「確かに! この広間は散らかっているわ。客間は片付いているの。だから、わたしの生活圏を通りすぎれば問題ないわ」
「問題あり過ぎです!」