エピローグ
「一年ね」
「早いな」
いつもの図書館の一室で、黒髪の青年アシュレイと、萌木色の髪をもつナーシャはのんびりと話していた。
一年前のあの日、ナーシャが魔力を再び開花させたあの日から、二人の関係は少しずつだが変わった。
ナーシャが努力を忌避しないようになったこともあるかもしれない。
アシュレイはナーシャの前世の記憶に関しても魔力に関しても口をつぐんだ。キャロルもまたナーシャが口止めをしたため、魔力に関して黙ってくれている。
そのためナーシャの周辺が騒がしくなることもなかった。
ただ変わったのは、アシュレイが積極的に未解読言語の資料をナーシャに読ませてくれるようになったことだ。
しかし彼はナーシャに読ませてはくれるが、翻訳作業を手伝わせることは決してしなかった。
アシュレイは、自力でひとつの言語を解読したいらしい。
その手助けになるようにと、ナーシャは部屋の文献をすべてきれいに並べかえた。そしてそれぞれの言語で書かれた本に、それが使われていた国名を書いた。
アシュレイはどうやらエルアドルの文字を解読する気のようだ。
そのエルアドルの本たちを一番手前に持ってきて、毎日のように解読作業にせいをだしている。
「これ、昨日入ってきたやつ」
アシュレイはいつものようにしぜんに書類を渡して、ナーシャはそれを当たり前のように読んだ。
そして、一ページ目をめくった瞬間に、ナーシャは目を大きく見開いた。
「ナーシャ?」
「これ」
その先はナーシャはただ本を読むことに没頭していた。そのただならぬ様子に、アシュレイはそれがどうやらあたりなのだと察した。
そして、一時間ほど、彼女が読み終えるのを待つ。
本を閉じた彼女の手は震えていた。
閉じた彼女の目からは暖かい涙があふれている。
「ばか……」
「……見つけて、よかったか?」
答えはわかっていたが、アシュレイはあえてそうやって問いかける。
ナーシャはふっと笑った。
花がほころぶように笑う彼女はとても美しかった。
「君の選択が君から何かを奪っても、絶望しないでほしい。僕の心だけは、君が何をしても失われることはないから」
震える声で、ナーシャはセリフの一部を読み上げた。
そして、表紙の言葉を読み上げる。
「この脚本をアリア、君に、捧げる」




