第9章
犬に対する弁明の方が骨の話より長いってどうだろう。とか思いながら語り続けること1時間。嫁は渋々了承してくれた。
次の日はさすがに嫁が荒らして、ほっといた畑を整えることに1日費やした。嫁は意外とどじっ子だしなぁ。初期のころの料理は酷かったもんな・・・。最近は節約のために凄い険しい顔で料理してるけど。
でも、意外としろが器用に手伝ってくれて嬉しかった。うんうん。犬もいいな。
ジジィの家を見るたびにイライラする。
どうしてくれようか。警察?それも考えたけど、俺の中で整理をつけてからにしたい。だって警察真相を教えてくれ無さそうだし。
ジジィめ。今に見てろコラ。
その次の日嫁は遠くにあるスーパーに買出しに、俺は一回ジジィと話すことになった。しろはお留守番。
ずいぶん前から気になっていたんだが、たくあんだけの昼ごはんで何が買出しなんだろうか。
さておき。
ピーンポーン
インターホンが間抜けな音を立てる。出てきたのは、多恵さんだった。
「あら。清君。珍しいわね。うちに来るなんて。」
え?俺、つい一昨日もここに来たぞ?うーん。ま、疲れでも溜まってるんだろ。
「何言ってるんだよ。多恵さん。つい最近来たばっかりだぞ。」
「そうだったかしら。ごめんなさいね。」
相変わらず花が咲くような笑顔で謝る多恵さんは、可愛い。可愛い・・・けど、なんか違和感がある。
「あー。ま、ど忘れぐらいよくあるさ。それより、ジ・・・じゃなくて。朔也さんいない?」
「ああ、朔也は・・・病院よ。たぶん。」
「病院?ジジ・・・じゃなくて、朔也さんなんか悪いところあるの?」
「ううん。朔也じゃないわ。里枝よ。・・・あら嫌。玄関先で話し込んじゃったわね?」
上目づかいに覗き込まれて、少しドキッとした。うう・・・妻がいるのに!
「う、うん。でも。ジジィ・・・じゃなくて朔也さんに用事があったから。今日はもう帰るよ・・・。」
「えー・・・。帰っちゃうの?まだいてもいいじゃない?」
顔が火照っているのが分かる。そんな言葉誘ってるとしか聞こえない・・・ッ!なまじ好きな女から言われたらホイホイついて行ってしまうのが男の性だぁっ!
「じゃあ、お邪魔するね。」
「それにしても、朔ちゃん遅いわねぇ。」
それまで楽しく話していたが、急に多恵さんが呟いた言葉で、少しイライラする。
朔ちゃんってあのジジィの事かッ!ジジィのくせに、そんな呼び方されてんのかよ!キモ・・・羨ましい!くそぅ、やっぱり誘ってる訳じゃなかったのか。
「そうなのか?」
ま、無難に答えておくけど。それに俺、落ちつけよ。夫の話をし始めたとしても何も不思議じゃないだろう。
「うん。最近帰りが遅いのよ。何処に行ってるのかしら?」
「・・・病院じゃなかったのか?」
「あー。違うのよ。今日の話じゃないの。今日は、そう。病院へ行ってるけど。それ以外は何処に行ってるのかしらって話よ。」
「ふーん。」
多恵さんは話しながらもササッとお茶を入れてくれたりする。それにしても、殺風景な部屋だな。帰国したばっかりだからかな?
「・・・ええと、何の話してたかしら。」
「ジ・・・朔也さんの話だよ。」
「そう、そうだったわねぇ。まあ、朔也の話なんてどうでもいいわ。」
俺もそう思う!
「そう?」
いや、流石に人の夫の話はどうでもいい!なんて言えないだろう。てか、お茶がおいしい・・・ッ!
「そんなことより、清君の話してよ。」
誘ってる?誘ってるの?だいたい、幼馴染なんだから俺の事ほとんど知ってるだろ!
「話って・・・。俺の話なんか。つまんないよ?」
「そんなことないわ。面白いわよ。・・・ねぇ。清君。里枝可愛いと思う?」
「里枝?そういえば、さっきも里枝って言ってたな。朔也さんの友達かなんかと思ったけど。里枝って誰?」
「ふふっ、やっぱり清君は面白いよ?またそんな冗談言っちゃって。」
冗談?俺は必死に昔の事を思い出す。里枝なんて友人いたかな?多恵さんの方にはいたかもしれない・・・。でも、そんなこと俺知らないし。
「面白いわ。ねぇ。清君。朔ちゃん遅いわねぇ?」
ええ、待って待って。理解が追い付かない。里枝の話は!?ジジィは病院だろ!?
「あれ、清君。そろそろ帰らなくていいの?沙世ちゃん怒ってるかもよ?」
あ・・・。時計を見たらかれこれ30分も経ってた。ジジィと喋ってたならまだしも。人妻とペチャクチャやってたなんてばれたら飯がっ!草になる!草に!しろのご飯の方が多くなる!
「ごめん!多恵さん。俺、もう帰るね!」
「うん。バイバイ。」
色々疑問が残ったけど。ドイツから帰ったばかりで日本語の表現が曖昧なだけかもしれない。そう自分に言い聞かせながら帰った。まあ、隣なんだけど。
ドアを開けたら。嫁が、玄関先で倒れてた。