第6章
嫁を背負って鍬を二つ腰にぶら下げてなおかつしろが逃げないようにリードを握って山を下りるのはめちゃくちゃ苦行だった。途中から日も暮れてくるし。
今はストーブをつけて(1月にして今冬初!)倒れてぐったりしてる嫁を温めているところだ。ちなみに、しろは何気なくストーブの前というベストポジションを維持している。
起きたら怒るだろうな。「ストーブをつけるなんて!どんだけ金がかかると思ってんの!?」とか。言われそうだ。でもさすがにこの季節、暖房器具なしに部屋で過ごすのは辛すぎる。特に、普通より2割増し寒い日暮れ時の山から帰ってきたときは。さて、しばらく嫁の寝顔を見つめるとするか。起きてる時は常に眉間のシワがよっている感じがするが、寝てる時はそこまででもないようだ。可愛いな・・・。
「ぅ・・・。多、恵・・・・。」
寝言はぜひとも俺の名前を呼んでほしい所なんだが。
「多・・・・・恵・・・・。」
だから、俺の名前も呼んでくれって。・・・てか、眉間にシワよってきたぞ。折角かわいい寝顔だったのに。ま、寝言が出てきたってことはそろそろ起きるかな。水の用意でもしておこう。
「清志・・・・。」
い、今呼ぶのは反則だ!!
水をコップに注いで寝室に戻ってみると、その扉の音でかのろのろと嫁が起きた。
珍しくとろんとした眼をしている。俺はかいがいしく目覚めの水を差し出した。嫁は珍しく素直に水を飲み干した。そして意識が冴えたのか、小さく呟いた。
「ストーブをつけるなんて・・・。どんだけ金がかかると思ってんの・・・?」
強く言われるより悲しそうに言われる方が心にくるな。
「沙世。こんな時ぐらい金の心配するなよ。」
「清志・・・。ストーブ消して。」
俺の言葉は心に響くどころか皮膚すら通り抜けれなかったようだ。プツンとストーブを消した瞬間急に寒くなったような気がした。
「ウゥ・・・」
冷えてくる感触に気付いたか静かだったしろが不満そうにうなった。でも、それ以上そこに居たらお前の白い毛が焦げるぞ。たぶん。
「・・・あなた。明日も、山に行くわよ。今日は途中で終わっちゃったからね。」
お前のせいだよッ!