第2章
せっせと畑を耕していると、隣の家のジジィが来やがった。多恵さんを、俺の初恋で初めての彼女を颯爽と奪い去った、男。多恵さんを返せ!
でも、もう多恵さんを巡っての戦いで敗れてから幾層月。流石にそんなに恨んでない。
「やあ、久しぶりじゃないか。松下君。あれ、珍しいね。耕してるのかい。」
他に何をしているように見えますか。土に怒りをぶつける孤独な男にでも見えますか。だいたいいつまでも松下君って、俺を何歳だと思ってんだ。恥ずかしいだろう。松下さんと呼べ。てか近づくな。キモいんだよ。多恵さんを返せ!
「そんなに珍しいですかね?桜井さん。あれ、後ろにいる犬は噂のしろですか?」
・・・人付き合いって大切なんだぞ。別に、俺がヘタレだからとかじゃねーんだぞ。
「あはは。噂って、多恵が言いふらしてるだけだろう。そうだよ、しろだよ。可愛いだろう?なんか、山に行きたいと駄々をこねるのでね。行ってきてやるところだよ。松下君も、大変だろうが頑張りなさいね。こんなに早く耕し始めるなんて、勤勉だね。」
そんなに可愛くないですよ、犬なんて。だいたい折角の純白の毛が泥だらけじゃないですか。どんな扱いしてるんだジジィ。それに山行きたいって喋ってんのかその犬。袋くわえてハァハァ言ってる感じはあんまり山なんか行きたく無さそうだぜ?頑張りなさいって上から目線で言ってんじゃねーよ。そろそろ耕さねぇと間に合わねンだよ。これだから坊ちゃんは困るぜ。・・・多恵さんを返せ!
「・・・ありがとうございます。」
・・・人付き合いって大切なんだぞ。別に、後が怖いからとか思ってねーからな!
「じゃあね。」
さわやかに手を振るジジィによそよそしく目礼して、俺は畑を耕す作業に戻った。
ザクザクと鍬を振る下す手に力がこもる。前言撤回。俺は今も全力で恨んでいる。恨んでいる以上に嫌っている。多恵さんを返してほしい。・・・今返されても少し困る。
ザクザクザクザク・・・
今『耕しているのかい。』と言われたら『いえ、土に怒りをぶつけています。』と答えるかもしれない。
桜井さんはその日、大判小判を掘り当てた。
桜井さんは、イケメンの設定です。
もちろんまだ若い方です。