YUBANAの夢日記
ホラーです。
とある歌が生き甲斐の少女の末路。
ぴちょん......ぴちょん。
耳に水滴の音が聞こえる。
身体の感覚がない。
自分の身体の痛みがなくなったことに安堵するのと同時に、もう時間がないことを悟る。
どうして......こんなことに。
何が悪かったのだろう。
確か、あれは......そう。
オーディションの為に綺麗になりたかったのだ。
綺麗に、なりたかった。
ーーーー
数時間前。
私は地下アイドルのオーディションの為に控室に来ていた。
見目はそこまでいいとは思っていないけど、歌には自信がある。
私の人生は歌しかなかった。
でも、歌だけで渡り歩けるほどこの世界は優しくない。
だから、オプションでメイクをプロの人にしてもらえるの教えられて少し高いけど、お願いすることにした。
どんな感じにやってくれるのだろう。
そう思うと、ワクワクするのと、不安でドキドキした。
すると、まだ時間には早いけれど、控えている部屋に綺麗な女性がノックをして入ってきた。
女性は自分が依頼されたプロのメイク師だと名乗り、メイクの為に場所を移動しようと伝えてきた。
赤いアイシャドウの似合う、どこか鋭い目をした美人な女性だった。
気の強そうな顔の人だが、顔には朗らかな笑顔を浮かべている。
「あっ、あの!今日は、よろしくお願いします。」
「ええ。緊張しているの?かわいいのね。だーいじょうぶよ!私に任せてちょーだい?」
明るくそう言ってもらえて、思わず強張っていた肩が下がる。
よかった。良い人そうだ。
私は彼女に着いて行くことにした。
彼女はオーディション会場に使っていた小さなスタジオ内を歩き回り、そのまま建物の外へ出てしまった。
「え?」
「あぁ、気にしないで!また戻るから。実は部屋押さえられなかったのよ。でも、隣の建物に空きがあるから。心配しないでー?」
「あ、あぁ。そうなんですね。」
そんなこともあるのか。
オーディションなんて初めてだから知らなかった。
そういえば、オーディションの他の人はどうしたんだろう。別の部屋なのかな。
あれ?でも、普通オーディションとか控室ってみんな同室なんじゃ?
友達から聞いていたのと様子が違う。
「さっ、ここよ。階段登って?」
そう言われて見たのは、古い、アパートのような建物。
階段は登るたびにキィーキィー音がなるし、壁もところどころがトタン。
アパートの横には今時珍しいプロパンガスが置いてある。
「ほんとに、ここなんですか?」
「ここにメイク道具置いてるのよ。」
そうは言うが、スタジオに関係ない気がする。この建物。
でも、見た目はアパートだけど、人の気配は一切感じない。
名前札はどこの部屋も外され、郵便受けには全部テープが貼られている。
女性は2階のとある部屋の前で足を止めた。
鍵を回し、扉を開けて私を誘う。
すごく、嫌だった。
何が嫌だったのかは明確にはわからない。
こんな今にも崩れそうな建物の中に足を踏み入れるのが嫌だったのか、
はたまた、目の前の人物の顔を歪めたような笑みに気味が悪く感じたのか。
なんにせよ、ここで引き返せば良かった。
そうすれば......あんなことにはならなかった。
中に入った私は小さなちゃぶ台の前に案内されて座った。
部屋は意外にも綺麗にされていて、埃も見当たらない。
よく利用しているのだろうか。
もしかしたらスタジオ用に部屋を借りているのかも知れない。
そう考えて、あぁなるほどと思い。
安堵した。
女性はまず、ヒアリングをすると言い、私にお茶を差し出してくれた。
お礼を伝えて受け取ると、ペットボトルのお茶で、蓋を捻るとカチッと音が鳴った。
私は緊張していたのもあって喉の渇きを感じていたので、そのままお茶を飲んだ。
多分、半分くらい飲んでたと思う。
私は女性に聞かれた質問にいくつか答えた。
歳とか、誕生日とか、好きな男性のタイプとか。
そんなことを。
メイクに関係あるのかなって事も聞かれてた。
例えば、家族構成とか、一人暮らしなのかとか。
自分のコンプレックスに感じるところはあるかとかは、メイクでいい感じにしてくれるのかなって思って、実は全部大事な事なのかもしれないって、真面目に答えたつもり。
そうやっていくつか質問に答えていた時に、急に眠気を感じた。
そういえば昨日は夜更かしをしてしまってあんまり寝れてはいなかった。
オーディションの為に準備をしていたから......。
でも、大事なオーディション前に寝るわけにはいかない。
私が欠伸を押し殺して、口を固く結んでいると、女性がそれに気づいて気遣ってくれる。
「あら?もしかして、眠たい?じゃあ寝てもいいよ?昨日は遅かったのかしら?寝てる人にメイク施す事もよくあるし。誰にも言ったりしないから、安心して?」
「え、でも......。」
「大丈夫、大丈夫!任せてちょーだい?」
女性は半ば強引に私を寝かせる。
女性の気遣いに押されて、申し訳なさを感じつつも側にあった座布団を枕に目を閉じて強烈な眠気に身を任せてしまう。
次に気づいたとき、意識はぼんやりとしていて、どうしても目を開けることができない。
だけど、感覚は伝わってくる。
口をなぞられる感覚。
でも、口紅を塗ってくれてるというより、口の横をペンで引かれているような......。
その次に、お腹を撫でられる感覚。
どういう状態か、見ることができないが、私は今お腹を出されているらしい。
明らかにおかしい。
ただのメイクにそんなとこを触られるなんて。
時より女性の楽しそうな声が聞こえる。
何度か「綺麗になーれ。綺麗になーれ。」
と言っているようだ。
どうしよう。私、変な人に捕まったのかもしれない。
そう思うと不安になって、必死に声を出す。
「あの、メイク。終わりました?そろそろ戻った方が......。」
「あら?お目覚め?ざーんねん。もう少しで終わりだったのに。」
「え?」
その時、まるで強い力で押されていたように感じていた瞼がぱっと軽くなり、目を開く。
すると、女性の満面の笑顔が目に入る。
屈託のない。まるで少女が遊んでいるかのようなそんな笑顔。
ふと私のお腹に目をやると、私のお腹に縦に一筋の赤い線が入っている。
その奥に、蠢く白い何かがある。
それは......私の腸だ。
「はっ!きゃああああ!」
咄嗟に顔に手を当てると指が私の頬を通り歯に当たる。
私の顔はまるで口裂け女のように口が大きく裂けてしまっていた。
「あ'あ"っああ!!」
今まで忘れていた痛みが急に思い出したかのように身体を走る。
裂かれているところが炎に焼かれているかのように熱い。
私はたまらず、床に倒れ込んだ。
女は私を見下ろして嗤う。
「綺麗?綺麗でしょ?嬉しい?」
嬉しいわけがあるか。こんなの、私じゃない。
私はあまりの痛みに耐えきれなくなり、意識を手放した。
ーーーー
ぴちゃん......ぴちゃん。
変わらず、部屋には水滴の音だけが響く。
もう涙でぼんやりしている目では何も見れない。
どんどん身体の温度が冷たくなっていくのがわかる。
だけど......私には身体を丸めることさえできない。
あぁ、もう痛いのは嫌だ。
このまませめて......眠りたい。
私の最後に聞いた声は私にとって絶望の言葉だった。
「もっと、綺麗になりましょうね?」




