41枚目 復讐者の末路
返す叫びは、吐き捨てるように。
クライがたった一瞬に絞り出した訴えを踏みにじるかのように。
アネイヤの振った炎大剣を弾き飛ばしながら、アグルは言葉を叫ぶ。
「悪いが、オレが果たすモノは復讐だ! お前の望みを叶えてやる義理なんてない。それにな――お前を、世界を守るための尊い犠牲になど、してやるものかッ!」
「――だったら、どうするつもりだい?」
真紅色の眼光がアグルに降り注いだ。
上空から飛来した炎大剣に追撃を阻まれて後方へ飛び下がるアグル。
同じく飛び下がって間合いを開けたアネイヤが真紅色に煌めく瞳をアグルに向ける。
「《滅却樹》の呪いはすでに起動した。ボクがいる限り――この子が生きている限り、コレが止まることはない。この子を殺さずして、キミはいったいどうやって世界の滅亡を止めようというのかな?」
「決まっている。助けるんだ」
「…………何だって?」
「お前を止めて、クライを助ける」
真紅色の瞳を見開かせるアネイヤ。
対し、アグルは姿勢を低く構える。
「復讐は、その相手を絶望の淵へ叩き落とすものだ。もしもアイツがすでにそこへいたのなら、引っ張り上げてからオレの手でもう一度そこに叩き落とすまで」
それが、それこそが、アグル・バレンダの復讐だ。
「二度と死にたいだなんて言えないように、オレが幸せにしてやる! そうした上で、アイツが抱いた希望を一つ残らず踏み躙るッ!」
どうしようもなく歪んでいて。
どうしようもなくぐちゃぐちゃで。
それでもなお力強く色付けした――アグルの決意なのだ。
「……アハハ、アハハハハハッ! いやはや、とんだマッチポンプだ! まさかそこまで熱烈に説得しておいて、わざわざ突き離すのか! キミほどの鬼畜野郎――いいや、キミのような復讐は見たことがないよ!」
「当たり前だ。これは他の誰でもない、オレの復讐だ」
「ハハハッ……人がいいのも大概にしろッ!」
真紅色の爆発。
大きく膨れ上がった真紅色の火炎がアグルを取り囲むように渦を巻き、灼熱に乗って炎大剣の群れが一斉にアグルへその剣先を突き付けてくる。
「だったら、ボクはキミの復讐を踏みにじって、ボクの復讐を叶えよう」
「復讐を果たすのは、オレだ」
金剣を握り締める手の力が強まる。
スゥと息を吸うごとに全身へ活力が巡り、アグルの決意に呼応するかの如く純白の鎧がその輝きを増す。
「気張れよ、《色の悪魔》。オレとお前で世界を――クライを助けるぞ!」
「できるモノならやってみるといい。偽物風情がァッ!」
決意のアグルに対するは、アネイヤが統べる真紅色の火炎嵐。
降り注ぐ真紅と黄金の豪雨に、アグルは真っ向から飛び込んだ。
アグルの纏う《白の誓約》が人間の膂力を超越させ、アグルは白い閃光と化す。
炸裂する爆音を置き去りにし、真紅色の煌めきすらも制止して見えるほどの加速。
およそ生命の次元を超越したチカラをもってしてアグルはアネイヤの火炎嵐をかいくぐる。
床に突き立った炎大剣を足場にして空中へ跳躍し、降り注ぐ炎大剣の雨をさらに蹴ってアネイヤの上空をとる。アネイヤは頭上に躍り出たアグルを捉えるや否やそれを防ごうとその手を掲げるが――わずかに遅い。
眼下のアネイヤを目指し、アグルは最後の炎大剣を蹴って金剣を振う。
「これでええぇぇぇええ――――ッッ!」
「ああ。終わりさ」
寸前。
真紅に煌めく黄金の刃が、アグルの前に現れていた。
――目測を見誤ったつもりはなかった。
アグルは間違いなく炎大剣を蹴り、その勢いに乗ってアネイヤへ突貫し、振り上げた金剣をもって彼女を断ち切る。
そのはずだった。
――虚空から突き出した炎大剣に、その身を穿たれていなければ。
別の炎大剣によって足を切られ、アグルの膝から下が床に落ちていく。
嵐の如く飛び交う炎大剣を避ける足はもうない。
アグルに成せる術はなく、炎大剣が容赦なく彼の左腕を斬り落とし、無数の刃がアグルの肉体を容赦なく穿ち抜いていく。
逃れられぬ死の気配が、アグルの意識を黒く塗りつぶしていく。
きっと、あの時アルトネイアも感じていたであろう、逃れられぬ絶望の予感。
それがアグルの意思を、決意を、全てを黒く染め上げる。
痛みはもうなかった。
逃れる術はなかった。
アグル・バレンダという人間の命が、ゆっくりとその黒へ――
「――――おおおぉぉぉぉおおぉぉおッッ!」
だが。それでも。
アグルの瞳に灯る復讐の業火は、また消えてはいない。
まだ、意識はある。
まだ、金剣を握る腕は残っている。
振り上げていた金剣を逆手に持ちかえ、残った全身の力をもって回転。
文字通り全身と全霊を振り絞って、アグルは金剣を撃ち放った。
真紅の火炎嵐を穿ちぬく、金色が迸る一条の煌めき。
それは飛来する流星のように少女へと一直線に目指し――
彼女の頬を、わずかに斬り裂いた。
少女の頬をかすめ、金剣が彼女の背後の床へと突き刺さる。
その身を硬直させ、大きく見開かれた少女の瞳には安堵と絶望の色が交互に移り変わっていた。
紙一重で避けられたのではない。
……アグルが、狙いを外した。
アグルの放った最後の一撃は、少女の胸を撃ち抜くことはなかった。
「最後の最後で、バチでもあたったのか、よ……」
なんて、ぼやくような悪態を最後にして。
アグル・バレンダの命は、ここに燃え尽きた。




