1枚目 はかない魔女のお願い
筆先の絵具が、目の前にあるキャンバスを彩る。
絵を描くこと。
それが絵描きの青年、アグル・バレンダの生業だ。
真っ白な紙はもちろん、木材や路地の壁など、この世に存在するありとあらゆる対象をキャンバスにして、己が見てきた世界を、あるいは思い描く幻想を描く。
当然、その対象は物言わぬ物体に限ることなく――
「や、んん……ッ」
アグルの目の前にあるキャンバスがわずかに身じろぎした。
キャンバスの色は肌色。
それも白磁のような艶を備えた美しい少女だった。
ドレスのスカートをたくし上げたその柔肌をアグルの筆が慎重に彩っていく。
はたから見ればとんでもない光景だろう。その事実から目を逸らすように、アグルは視界に映るモノをただのキャンバスと意識して黙々と筆を動かす。
……ありていに表現すれば。
アグルは今、年下の少女に絵を描いているのだ。
「ん、ちょっと、くすぐったい……」
「……我慢してくれ。これはアンタの注文だ」
煌びやかな調度品で飾られた豪奢な部屋。
その中央でスカートをたくし上げる少女の前で膝を突き、アグルはパレットと筆を両手に備えて可能な限り己を律して依頼された絵を彼女の身体に描いてく。
アグルは黙々と作業を続けながら内心で思う。
――どうして、こんなことになったんだ……