8. 光神塔
自分の使命を知って8日後の夜、俺は〔光神塔〕の前に立っていた。
(セリーは怒っているだろうな)
そんなことを考えながら、警備員に推薦状を見せる。
「“ウェルグラード”のギルドマスターからの推薦状ですね。…確かに確認いたしました。〔光神塔〕へは初めての挑戦ですか?」
「あぁ」
「でしたら、ワープゲートをご説明させていただきます。ワープゲートとはその名の通り、ワープができる場所です。各階層に存在し、そのすべてがこの入場門に繋がっています。」
「ふむ」
「そしてこの入場門のワープゲートは前回のワープ元に繋がっているのです。」
…つまり、攻略途中に何度でも帰ってこれられるということか。そして次はその階層からスタートできる。
便利だな。あえて攻略しやすいシステムが作られているようだ。まるで、この遺跡を攻略してほしい人物が設計したような…そんな感じがする。
「説明は以上となります。お気をつけて!」
そんな言葉で見送られながら、俺は〔光神塔〕の攻略を開始する。
さすがは世界最高の迷宮といったところか。低層の敵ですらかなり高ランクの魔獣が出現する。初日は23層まで到達したところでワープゲートをくぐった。
攻略開始から3週間。俺は人類の最高到達点である66層を超えた。非常に強い魔獣もいたが、それでもあの深淵咆鬼《グロル=ザヴァ》には遠く及ばない。
ここまでの魔獣は情報があった。それ相応の対策もしてきたからこそ、ここまでスムーズに進むことができたのだ。しかし、ここからは俺が先駆者となる。一切の情報がない。
(より、気を引き締めなければな)
そんなことを考えながら67層へ踏み込む。
はじめのうちは特に変わることなく攻略を進めていった。
――異変が見えたのは91階層からだ。
ここからは各階層にボス魔獣のような存在が確認できた。ボス魔獣は本来遺跡に一体のはずなので、おかしい。この遺跡特有のモノなのか、神の力が弱まったことによる異常なのか、定かではないが、ボス魔獣を倒さないと次の階層に進めない。それが厄介であった。
91、92、93層のボス魔獣は虫の魔獣だった。91層は蜂、92層はアリ、93層はカブトムシのような見た目だ。蜂は空間を埋め尽くす毒針の雨を放ち、アリは軍勢で襲いかかってきた。だが一番厄介だったのは、あの鉄甲に身を包んだカブトムシだ。
あの深淵咆鬼《グロル=ザヴァ》とも肩を並べるような強さだったと思える。…だが正直あまり苦戦はしなかった。あれから1か月ほど遺跡に通っている俺は、さらなる強さを手に入れていたからだ。
94,95、96層はそれぞれ、サル、狼、ライオンの動物をモチーフにした魔獣だった。が、これも正直余裕のある戦いであった。動物をモチーフにした魔獣は多いため、慣れていたこともある。
――厳しいのはここからだった。
97層はユニコーン。角から強力な魔法を連撃してくる他、自身が光っているため影がない。【影踏み】を効果的に使うことができなかったのだ。
かなり苦戦したが、【殺迅】でスピードをあげ距離を縮めて、首を切り落とした。
98層はフェニックス。極端に強い炎系の魔法と、何度殺しても生き返ってくる特性を持っている。炎魔法は一度くらったが、地獄のような体験だった。回復ポーションを用いてもなお、腹部と左腕に派手なやけど痕が残る。
50回ほど殺したところで、炎が尽きたようだ。次に殺したら生き返ることはなかった。
そして99層はドラゴン。こいつは本当に強かった。俺の双剣でもかすり傷程度で済んでしまう強靭な肌とこの世のすべてを破壊するであろう威力のブレス。何度攻撃しても効いている様子がない。三日三晩戦い続けても勝てる未来が見えないので、捨て身の勝負に出ることにした。
まず相手がブレスを使うタイミングで【影踏み】で口内に移動。素早く体内に滑り込んで【殺迅】を用いた状態で暴れまわる。これはさすがに堪えたようで、しばらくしたら動かなくなった。
そして今、ついに――最深部、100層。
(最後はどんな魔獣だ…)
そう考えていた俺は驚愕する。
「…俺?」
そう。そこに立っていたのは俺、シオンであった。驚く間もなく、偽シオンは姿を消す。
(これはっ!?)
――ズバッ!!
俺の襟が破られる。【影踏み】だ。偽シオンは俺のユニークスキルも所持しているようだった。
(…ということは【殺迅】もか)
予想通り、偽シオンは【殺迅】を使ったようであった。異常な身体能力を見せる偽シオンを前に、俺は頭の中を整理していた。相手は自分自身。力は全く同じである。本来勝てるはずがなく思える……が、俺はそうは思えない。
“この迷宮は攻略されたがっている”。ワープゲートの話を聞いたときに抱いた仮説を、攻略を勧めるうちに確証したからだ。
(何か、……何かあるはずだ)
刃が交差したその瞬間、彼の口元が微かに揺れていることに気づいた。
「…ころ…したく…な…い」
そうか。つまり、このシオンはそういうことなのだ。
俺は撃ち合いながら、彼にあることを耳打ちする。
「ほん…と?」
彼は俺の言葉を聞くと攻撃を止めた。
「なら、や…く…そく」
偽シオンは静かに微笑むと、自らの双剣を胸元に突き立てた。血の代わりに、光が弾ける。
残されたのは、わずかに温もりの残る黒いマントだけだった――
「…」
何とも言えない気持ちが沸き上がる中、大きな扉が現れた。
――この先に…
俺は扉に近づいた。
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