7. 使命②
「古文書か…」
かなり古いが、文字は読めそうだ。表紙には『世界の再生』と書かれている。ふと、女神の言葉が脳裏に浮かぶ。
――自らの使命を知ることになる
俺は古文書を開いた。
「シオンっ!!」
ギルドに戻ると、セリーが飛びついてきた。
「っ!?」
勘弁してくれ。まだ【殺迅】のせいで体がボロボロだというのに。
少し時間が経ち、セリーが離れる。
「…なんで一人で残ったの?どれだけ心配したか…」
「すまなかった。どうしても倒したくなって」
女神の言う使命というモノを知るために残ったのだが、彼女に心配をかけたなら本当に申し訳なかったと思う。
「ばかっ……っ! もう……もう二度と、無茶しないで……」
彼女の声はかすかに震えていた。涙を堪えるように唇を噛みしめている。
「…」
ここで『あぁ』だとか、『うん』だとか言えたらどんなに楽か。だが、言えない。約束できないのだ。あの古文書を読んでしまったから。
「シオン、何かあったの?」
鋭い。が、今、彼女に伝えることはできない。俺がもっと危険な場所に飛び込もうとしていることなど…。
「…何もない。少し疲れたから早く休みたい。とっととマスター室に報告に行くとするよ」
「シオン…」
後ろから聞こえる彼女の声。その声を背に、俺はその場を後にした。
おっさんに遺跡のことを報告した。
「…古文書か。中身は読んだか?」
「あぁ」
「何が書いてあった?」
少しの静寂の後、俺は答えた。
「俺の使命についてだ」
「…使命?使命とは何だ」
おっさんなら信用できる。教えた方が都合がいい。
「……俺の使命は、」
一瞬、口を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
「――神を殺すことだ。」
一瞬の沈黙が走った。おっさんの手がぴくりと止まる。
「……今、何を?」
俺は静かに、古文書に記されたすべてを語った。
――神の力の衰え。それがこの世界の異常の原因である。
創造神ルミナリエは約20億年前からこの世界の神を務めてきた。神というものにも、限界はあり、今、ルミナリエはその力をほとんど使い果たした状態にある。
神がその力をすべて失ったとき、この世界は終末を迎える。
だが、世界を救う方法が一つだけあるようだ。古文書にはこう示されていた。
――異世界より召喚されし者、神を穿ち、そして新たな神となる
…そう。俺はルミナリエを殺し、新たな神となるのだ。
そして古文書にはこんなことも書かれていた。
――神は〔光神塔〕にある
「だから、俺は〔光神塔〕を攻略する」
説明を聞いていたおっさんは、思ったよりもずっと冷静であった。そしてどこか納得したように声を発した。
「…異世界、なるほどな」
「疑わないのか」
「普通なら信じるわけもない。だが、お前のその眼が嘘じゃないと、そう言っている」
「ふっ。俺の眼か」
「あぁ」
おっさんは続けて口を開く。
「〔光神塔〕は危険な遺跡だ。低層でも、何人もの高ランク冒険者たちが命を落とした。これまで人類が到達したのは66階まで。それ以降は情報も何もない」
「うむ」
「それでも行くんだな?」
「あぁ、行くさ」
「…セリーナはどうするつもりだ?」
「彼女には秘密にしておいてくれ。危険すぎるのでな」
そう。今回、彼女は置いていく。確かに彼女の魔法はとても頼りになる。連れていけば攻略の可能性も上がるだろう。
…しかし今回の攻略で気づいたのだ。彼女は俺にとって大切な存在であることに。俺には、彼女を危険な場所に連れ出すことはできない。
「そうか…」
おっさんは少し考えた後、静かに口を開いた。
「…よしわかった。〔光神塔〕に入るための推薦状を書いてやる」
「ありがとう」
おっさんは推薦状を書き、俺に手渡す。
「シオン、この世界を頼むぞ」
「あぁ、任せてくれ」
『貴方は使命を全うしなさい。他のことは何も考えないこと。それがこの世界を救う唯一の方法なのだから』
女神のお告げが頭に浮かぶ。
(あなたは、…あなたは、俺にこんなことをさせるために、転生させたのか)
外では激しい雨が降っている。俺にはまるで世界が泣いているように思えた。