1. 伝説の終わり
[夜]、それは今を生きる伝説。その名を聞いた途端、世界中の人々は震え上がる。任務成功率100%、最高の暗殺者のコードネームである。
星々がまぶしいほどに煌めく夜のこと。2つの影が大統領宅に近づく。
今夜の依頼は、ある国の大統領の抹殺である。私利私欲のために戦争を企てるクズ。普段から多くの護衛に守られる彼を暗殺するのは不可能だ。しかし、それは並の暗殺者の話。俺には関係ない。なぜかって?それは、…俺が「夜」だからだ。
「さすがっすね…」
地面に転がる大統領の首を確認しながら、男がつぶやく。彼は[星]。今回はサポートとして俺の任務に立ち会った。彼の名は今回で初めて聞いたがなかなかよい動きだ。俺の動きをやけに観察していたのも、高い向上心からだろう。組織もなかなかに優秀な人材を所有している。窓から夜空を見上げると、美しい星が並ぶ。…任務完了も確認したし、帰るとしよう。
「帰るぞ」
…。返事がない。
「おい」
振り向こうとした、その瞬間…
風を切る音――
バシュッ!バシュッ!
背中に激痛が走る。
「まだ任務は終わってませんよ」
目の前には笑みを浮かべる[星]の姿。俺はすべてを理解した。
「…ボスか」
「その通り!ボスの命令です。伝言もありますよ。『お前は強くなりすぎた』って」
あのジジイ、俺を恐れたか。とんだ臆病者だ。クソッ!銃弾が心臓をかすってやがる。…これは死ぬな。…ならば、
最後の力を振り絞り、隙を見て[星]の背後を取る。そして、
ザシュッ!
相棒の双剣で首を落とす。何とかなった。まぁ、これで落とし前はつけたということにしよう。……力が抜けてきた。これが最後か。伝説の暗殺者、[夜]の終わり。最初から最後まで組織に使われる、クソみたいな人生だった。
(願わくば、生まれ変わって…しあわせな…)
バタッ
これが[夜]が残した、最後の願いであった。
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「くッ」
…。ここはどこだ?俺は死んだはず。な、あれは…
水面のように揺れる白い空間の、その中心に、彼女は立つ。
白銀の髪が宙を漂い、星屑のように光を放つ。
透き通るようなその瞳はすべてを見透かすように静かで、そして美しい。
「目を覚ましたのね」
女神は微笑む。あまりの美貌に、目が慣れるのを待つには、いささか時間がかかりすぎるようだ。
「私はある世界で神を務める者。今から貴方を私の世界に転生させるわ。」
転生か。本当に転生できるなら、実にありがたい話だ。だが…。
「目的は何だ?」
返答次第では断らせていただこう。面倒ごとに巻き込まれるのはこりごりだ。
「…今は教えられない。でも、貴方に悪い話ではないわ。好きに生きてくれればそれでいい。」
ふむ。好きに生きて良いのならば断わる理由もない、か。
「承知した。それならば、ありがたく転生させていただこう。」
「ありがとう。何か転生に際しての質問があれば、できる範囲で答えるわ。」
「なら、まずはその異世界とやらがどういう世界なのか、教えてくれ。」
「あなたが転生するのは、いわゆる剣と魔法の世界。その世界には様々な“スキル”があり、人々はそれを使い、日々生活しているの。」
「…そのスキルとやらは、どのように手に入れる?」
「スキルは、コモンスキルとユニークスキルに大別される。コモンスキルは条件を達成すると獲得できるの。“剣術”や“水魔法”などがこれにあたるわ。ほとんどの人はコモンスキルのみの恩恵を受けるの。」
ふむ。
「そして、ユニークスキル。これは一握りの人間のみが生まれながらにして持っているスキルのこと。人によってスキルの種類は様々よ。でもその力は決まって強力、異常なほどにね。」
…なるほど。スキルのことについてはなんとなく理解した。
「まあ、質問はこれくらいにしておこう。全てを知って生まれてしまっても何も面白くない。」
「…そう。わかったわ。最後に、転生の特典として貴方のほしいものをなんでもあげるわ。さっき言ったユニークスキルでもいいし、伝説の武器とかでも大丈夫よ」
…これはありがたい。ならば答えは決まっている。
「では、前世の時に使っていた双剣をいただこう」
「…え?」
「前世の双剣を異世界に持っていきたい」
あの双剣は幼少期から使用していたもので、人生の相棒だった。愛着がわくのも仕方がないだろう。
「それでいいの?今言えば、なんでも手に入るのよ?」
「あぁ。」
「…わかったわ。せめて少しばかり強化してお…」
キーン!!
突然、すさまじい音とともに身体が光に包まれる。
「…もう時間みたい。双剣は、貴方が15歳の時に手に渡るようにしておくわ。」
「承知した。ありがとう。」
「…貴方は生きていく中できっと自分の使命を見つけるわ。もし見つけたら、それを達成するように努力なさい。…たとえそれがどんな使命であっても」
そういうと女神は微笑んだ。だが、その美しい笑顔からは、何故だか悲しみが読み取れる気がした。
「…善処する」
ピシュンッ
次に目を覚ましたとき、そこはまぎれもなく異世界だった。
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