第九話 初心者ダンジョン⑤
俺は思考を最大限に巡らせた。
そして落ちていた人の頭蓋骨を手に取った。
「‥‥使わせていただきます。」
俺は頭蓋骨へ軽く礼をした。
その瞬間、何も反応しないはずの頭蓋骨が笑った気がした。
「ルナさん。頼みがあります。俺たちの命運を決めた作戦に手を貸してくれませんか。」
「‥‥ええ。喜んで。」
ルナさんは傷のついた顔で笑顔を見せた。
「俺がこの頭蓋骨をドラゴンの顔目掛けて投げます。ルナさんは投げた頭蓋骨目掛けて全力でファイヤーボムを出して下さい。
「頭蓋骨を粉砕してどうするんですか‥?」
「ドラゴンの目に運良く刺さる事を願う。俺らが出来るのはそこまで。」
結構運に左右されてしまうのが事実だ。だから全然戦える時は多分しない作戦だけど、もう長く戦えない俺らにとってはそれに縋るしかないのが現実だ。
「ええ!?‥‥でもやるしかないですねっ!」
「頭蓋骨が飛び散る瞬間瞬間は俺の後ろに隠れていてください。危険ですから。」
「いや、それじゃダイスケさんが‥」
「スキルで俺を直してくれた恩。それと心も癒してくれた恩。これで恩返しになるなら全然安いですよ。」
「心は癒した覚えは無いですよ〜。」
ルナさんは苦笑い。直後にもう一言。
「‥でも。かっこいい。その台詞」
俺は心がドキンとした。
「かっこいい。」この一言は何気ない言葉かもしれない。でも、最高に響いた。
俺は深呼吸をした。
「‥じゃあ始めましょうか。最後の作戦。」
ドラゴンが徐々に近づいてくる。
ドラゴンが飛ばされたこっちに近づいて来るまでルナさんと話していた時間は30秒程だったが数時間話した気分だ。
ルナさんともっといろんな事を話したい。
‥‥もっといろんな事をルナさんと話したいという何気ない欲望。今はその原動力に身を任せて身構えた。
「投げますよっ!」
「はい!!」
頭蓋骨は投げられた。
ドラゴンの顔に向けて。
そしてルナさんが叫ぶ。
「ファイヤーボム《烈火爆弾》!!!!!」
バンッ!!!
その瞬間、ファイヤーボムが投げられた頭蓋骨に当たり、頭蓋骨が一瞬にして破片の雨と化した。
「入らせて頂きます!」
ルナさんは勢いよく俺の後ろへと滑り込み、俺は手を大きく広げてルナさんを守った。
その瞬間、頭蓋骨の破片がパラパラ落ちる音と共に、ドラゴンの悲鳴が響いた。
グアアアアアオッ!
ドラゴンの目には計画通り大きい破片が2つ程刺さっていた。その他にも体の至る所に刺さっていた。
作戦は‥最高に順調だ。
鼓動が最高に早くなる。
ドラゴンが悲鳴を上げている時、俺は勢い良くドラゴンの背中を駆け上がり、持っていたナタを首目掛けて全力で振り下ろした!!!
「終わりだっっっ!!!!」
ザクシュ!!!!
という音と‥‥
グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!
ドラゴンの断末魔が響き渡る。
いつしか断末魔は止み、ドラゴンの頭がボトっと落ちた。
「‥‥‥勝った‥‥‥……スライムにも負けた俺が‥ドラゴンを‥?‥二人で倒したぁぁぁぁっ!!!」
ルナさんが駆け寄ってくる。
「やったっ!ダイスケさん!私たちがドラゴンを倒したんですよ!?」
俺はルナさんと抱き合って勝利を喜んだ。
「ついにスキルを獲得よっしゃぁぁぁ!!!」
「スキル獲得?何の話ですか?」
「ああ、俺スキル無いと思ってたんだけど、なんか今日ダンジョン来たら急に脳内に誰かが語りかけてきて、ボスを倒したらスキル発動できるって言われたんだよ。」
「確かに‥。ダイスケさんってスキル発動してなかったですよね。‥って、よくダンジョン来れましたね!?勇気すごっ!」
「でも、これでスキル発動条件ってのは満たせたな。さてさてどんなスキルが俺を待っているのか気になるなっ!」
俺はルンルンでスキップをした。
その時、腕に激痛を感じた。
恐る恐る見たら、大きい骨の破片が腕に刺さっていた。
「ぐっ!痛い!!」
全く気付かなかった。
俺は腕に刺さった破片を取り、見つめた。
「‥‥でも、この頭蓋骨の破片で勝ったんだ。ありがとう。」
この頭蓋骨の主が勇敢に戦った戦士か、または恐怖に震えた臆病者かは関係ない。使わせてもらい、助かったことは紛れもない事実だ。
俺は血に染まった頭蓋骨の破片を埋めた。
読んでいただき、ありがとうございました。