第三話 手当て
しかし、それよりもあのボスっぽい男‥ジャクソンに刺された部下にすぐ手当てをしなければ。
まだ、息はある。情報を聞き出す為にも、ただ単にボスのジャクソンに見捨てられたあげく、刺された可哀想な奴ということもあって助けたい情が俺の中にあった。
俺はジャクソンが帰った瞬間を見計らって、大声で村人に「すぐに村医者のアラン先生を呼んできてください!!」
と伝えた。
そして間も無く、村で唯一の医者であるアラン先生が到着した。
「ほう。こいつは急がなきゃすぐにご臨終だ。急いで手術道具を用意しよう。俺の家の手術室へこいつを担架で運んでくれ。担架は倉庫にある。急げ!」
俺と村人数名がアラン先生の家の横にある倉庫の中から担架を引きずり出し、刺された奴の元へと向かった。
「よし、コイツを担架に乗せろ。傷口が更に開かないようにゆっくり乗せんぞ。せーのっ!」
アラン先生の合図と共に刺された奴を担架に乗せ、アラン先生の家へと急いだ。
手術室についた俺は刺された奴をアラン先生に託した。
「出来る限りの事はする。助からんかったら刺したジャクソンって奴を恨め。」
そうして手術室の扉が閉まり、使用中の赤ランプが点灯し手術が始まったようだ。
〜3時間後〜
自宅で休息をとっていた俺だったが、アラン先生が扉をノックして訪ねて来た。どうやら終わったようだ。
俺は扉を開けると、アラン先生は
「手術は成功した。奴は入院室で寝ている。」
と言い、戻って行った。
俺は入院室へと急いだ。
〜アラン病院・入院室〜
俺が扉を開けると奴はぐーすか寝ていた。しかし両手・両足をロープで縛られていた。
そこにアラン先生がやって来た。
「敵なのにお見舞いに来るとはな。だが、何をするか分かんねえから取り敢えずロープで拘束しといた。お前がロープを取れと言ったら取る。だが責任は取らねえ。信用しすぎるなよ。多分こいつは今日中には起きない。麻酔を2倍入れといたから起きるのは明日の早朝ぐらいだ。来いと言ったら来い。」
「ありがとう。アラン先生。」
俺はそう言い、帰ろうとすると、
「‥‥手術代。」
言われる事は予想していたが、どうしよう。
「あの‥明日ダンジョンに行ってくるんで、稼いで来ますから待っていてくれないですか‥?」
俺は思った。俺はどれだけ考えが甘いのかを。ジャクソンとの決闘に負けたらこの村を失う事も。この手術代の事も。手術代は奴が起きたら払わせるのもありだが、先生を呼んだのは俺だ。奴が自分から払うって言うなら別の話だが。
その時、先生が
「手術代10000マネ※。俺が死ぬまでに払ってくれればいい。」
※マネ=この世界で流通しているお金。
「え?」
俺が唖然としていると、
「今日のお前は勇敢な戦士だった。村を守る為にも二人に臆
する事無く立ち向かい勝利したんだ。そんな勇者様には偉そうに金をせびれないな。」
と少し笑いを交えて俺の勇姿を讃えてくれた。
たが、まだ完全には村を守れた訳ではない。
2週間後のジャクソンとの決闘に負ければそれでおしまい。
この村もろともおさらばだ。
走った訳でもないのに心臓がパクパクする。冷や汗も出て気持ち悪い。
アラン先生は俺の姿を見て、
「おい。大丈夫か?凄い汗だぞ。」
急に話しかけられた俺は動揺してしまい、
「あ、いや、その、あの、‥‥」
と言葉に詰まった。
「‥‥‥‥‥悩みがあるみたいだな。無理にとは言わんが打ち明けてくれんか?手助けぐらいならできるかもしれん。」
俺は勇気を出して決闘で村を賭ける事を話した。
「‥よく言ってくれた。確かにお前はとんでもない事を言ってしまったようだが、お前なら勝てるだろう。信じてるぞ。俺はお前が手術代を支払ってくれりゃあ別にいいんだけど、払わずじまいで死んでもらっては困るからな。俺の10000マネの為にもな。ははは。」
慰めてくれたつもりなんだろうけど、俺は乾いた笑いしか出なかった。
「じゃあ今からでも特訓するんだ。私でも村が無くなりゃあ、ちょっと困る。だからダンジョンで強くなって帰って来い。」
「はい。」
俺は少し気持ちが軽くなった。
その夜、
俺は村人全員に決闘で村を賭けた事を話した。
勿論、非難の嵐だ。俺は黙って頭を何度も下げた。だが、少数ながらも俺が勝利する事を信じてくれた人もいた。
そこに村長がやってきた。
「皆の者、複雑な気持ちがあると思うが一旦静まれ。確かにあの若造は決闘で負けたら、この村を失ってしまう。だが、勝てるはずだ。信じておるぞ。」
俺は村人全員に誓った。
「必ずや勝って、この村に平和を取り戻します。その日まで、俺は鍛錬し続けます!」
そうして村人全員が各々自宅に戻って行き、俺も自宅へと戻った。
自分の部屋でまた今日も考え事をした。
本当に長い長い1日だった。初めて人を攻撃したし、多分自分より圧倒的に強い敵を倒した。
つい最近までスライムすらに負けていたのが馬鹿馬鹿しい。今ならそこらのゴブリンならワンパンで倒せそうだ。俺自身でも結構頑張ったと思えた1日だった。
明日はいよいよダンジョンに行く。
ダンジョンといえば毎日のように死者が出ている結構危険な場所である。でもリスクがある分、報酬もがっぽりあるのが魅力的な為、欲に駆られたさほど強くない人達が吸い込まれていくように入って行き、そして戻らない事が多い。
そのような危険な事を理解して俺は明日に備えて眠った。