第22話 友達
ホームルームが終われば昼食の時間です。
すぐにシオの側へと向かうと、ゼニファーがばたばたと駆け寄ってきました。
「な、なあ、一緒にランチ食べようぜ!ですわ!」
「ああ、良いぞ」
「よっしゃ!」
ゼニファーは小さくガッツポーズをしてホッとしています。そんなにシオと一緒に昼食を取りたかったのでしょうか?
さらに、アスマが遠慮がちに声をかけて来ました。やけに真剣な顔です。
「あのさ、僕も入れてもらっていいか…?」
「もちろん、良いぞ!」
シオはにっこりと答えました。嬉しそうです。
どうもシオはアスマに好意的な気がします。やはり親近感というものなのでしょうか?別に良いのですけど。
いくつもの視線を感じますが、そちらは気にしていないようです。
食堂に来ると、たくさんの生徒たちでごった返していました。
学院の昼食はお弁当を持ってくる生徒もいれば食堂でお金を払って食べる生徒もおり、それぞれ好きな場所で食べていい事になっているのだそうです。
食券を購入してカウンターで引き換え、空いているテーブルに座ります。
「大盛り無料。この身が皇都で見た中で、二番目に優れた文化です。しかも美味しそうです」
「だからここの食堂は結構人気があるんだってよ!ですわ」
「…値段も割と安いんだな。町中に比べればだけど」
そう言ったアスマはお弁当のようで、小さな包みを開きました。
平型の小さな容器は、タンタ用の蜂蜜のようです。昆虫型精霊の好物です。
続いて出て来た竹籠の中に並んでいるのは、握り拳ほどの大きさの黒くて丸いもの。思わず身を乗り出します。
「アスマ。それはもしや、オニギリというものではありませんか?」
「そうだけど…」
「オニギリってなんだ?」
「ヤマトの郷土料理で、米を丸めて塩味をつけ、ノリと呼ばれる海藻で巻いたものです。具材は自由ですが、梅干しや焼いた魚などが一般的だそうです。ミソという調味料をつけて焼いたものもあり、バリエーションも豊富だと言います」
「すげー詳しいんですわ」
「…言っとくが、やらないぞ」
アスマは軽く身を引きながら言いました。
別にそんな事は期待していません。どんな味なのか興味があるのは事実ですが。
「わたくしはチキンソテーのAセットにしたぜ!ですわ。テセルシオのはBセット?」
「うん、魚のフライが美味そうだったから。それより、俺の事はテスでいいぞ」
「テス?シフィリチカはシオって呼んでなかったっけ?ですわ」
「はい。シオの方が美味しそうな響きだからです」
「どんな理由だよ。どんだけ食いしん坊なんだよ」
「食いしん坊などではありません」
大変心外なのでしっかり否定しておきます。食べ物を大切にしているだけだというのに。
「それと、ゼニファー。この身の事もリチカと呼んで構いません」
「……!わ、分かったぜですわ、リチカ!」
この身はただシオに倣っただけなのですが、ゼニファーはパッと顔を輝かせました。
シオに言われた時よりも嬉しそうに見え、思わず首を傾げます。
「何故そんなに嬉しそうなのですか?」
「だってオレ…わたくし、昔から女友達っていなくて。リチカが初めてなんだぜ!ですわ!」
なるほど。ゼニファーの言葉遣いが所々乱暴なのも、きっとその辺りが原因なのでしょう。
しかし女友達と言われても、この身は人工精霊です。人間の女性ではありません。
少し困惑していると、人工精霊用のエナジーフードを食べていたブライアンが首をもたげて言いました。
「お嬢。他者の契約精霊とあまり親しくなろうとしてはいけませぬ」
「え?友達になっちゃダメなのか、ですわ?」
「マナー違反なのですぞ。契約精霊とは常に契約者に従い、その命を守るもの。他に重要対象者を増やせば、いざという時に命令系統が混乱したり、契約者を守りきれなくなる恐れがある。つまり危険なのです」
「お…わたくしは、そんなつもりじゃ…」
…ゼニファーはおかしな人間です。どうしてそんなにしょんぼりとするのでしょう。
シオが微笑みながらゼニファーとこの身を見ます。
「良いじゃないか。さっきも言ったけど、俺はリチカに友達が増えたら嬉しいぞ」
ええ、やはり、一番変なのはこのシオです。
自分の契約精霊に友達を作りたがる人間など考えられません。ブライアンの言う通り、精霊は自分だけに忠実な存在でいた方が絶対に安全だからです。自己紹介の時に奇異の目で見られたのも当然です。
まあ、優秀なこの身はいざという時に優先順位を間違えたりなどしませんが。
「…分かりました。では、ゼニファーとはこれから友達です。よろしくお願いします」
「やったぁ!こっちこそよろしくなですわ、リチカ、テス!…え、えへへ…」
「あと、アスマもだな。もう友達だから、テスでいいぞ」
「ぼ、僕も?」
「そうですね。ついでにアスマも友達で構いません。よろしくお願いします」
「僕はついでかよ…」
アスマは唇を尖らせていますが、照れているのは赤くなった頬を見れば明らかです。
シオが楽しそうに笑い声を上げました。
「リチカの奴、さっきオニギリをもらえなかったから拗ねてるんだ」
「やっぱり食いしん坊じゃないか!」
「拗ねてなどいませんし、食いしん坊でもありません」
「でもなあ…凄く食べたそうだったし…」
「違います。少し興味があっただけです」
「ああもう、分かったよ、1個やるよ!ただし何かと交換だからな!」
「……!では、このチキンの半分と交換です。栄養バランスを考慮してトマトもおまけにつけましょう。友達ですので」
「めちゃめちゃ現金だなアンタ…」
「やっぱりリチカは食いしん坊だな、ですわ」
食いしん坊などと言われるのは不本意ですが、賑やかな昼食です。この間の入学祝いの時も楽しかったのですが、また違った楽しさを感じます。
どうやら友達というものは、悪くありません。
「…ええと、ゴホン。それでだなですわ」
皆が食べ終わったところで、ゼニファーがわざとらしく咳払いをしました。
「実は、テスに相談があるんですわ。さっき先生が言ってた班分けの事なんだけどよ…ですの」
「ああ、言ってたな。授業では三人一組で組んでもらうって」
精霊使役科の授業には、戦闘や魔術など精霊を連れて行うものがいくつかあります。これらの授業は効率化と安全のため、三人一組で行う決まりとなっているのだそうです。
誰と組むかは基本的に自由なので、今のうちに自分達でメンバーを探しておくように…と、イライアは言っていました。
「そ、それ、わたくしと…!」
「ごめんなさい。ちょっといいかしら?」
横からゼニファーの言葉を遮ったのは、無形精霊を連れた女子生徒です。
クラスメイトの一人で、名前はジーナ。…入学試験の時、この身が助けた生徒です。
「お話に割り込んだ非礼はお詫びするわ、ゼニファーさん。でもこのままじゃ、先に決められてしまいそうだったから。…改めて名乗るわね、私はジーナ、ゴズヴェル侯爵家の者よ。テセルシオ君、入学試験ではあなたの精霊に助けられたわ。本当にありがとう」
ジーナはこの身とシオへと微笑みかけました。
「シフィリチカはとても素晴らしい人工精霊だわ。勿論、それを従えているあなたもね。良かったら、私と班を組んでくれないかしら?絶対に損はさせないわ。あなたもゴズヴェル家の名前は知っているでしょう?」
「ああ、まあな」
この口振りだと、きっと大貴族なのでしょう。横で聞いていたゼニファーが「こ、侯爵家…」と呆然と呟きます。
シオはそんなゼニファーを見て何か言おうとしましたが、その前にまた別の生徒が「待ちたまえ!」と割り込んできました。
今度は狼型精霊を連れた男子生徒です。右側の前髪だけが長い変な髪型をしています。
「テセルシオ君、君のような実力者はこの僕と組むべきだ!このアジェド伯爵家のアントニオとね。まあ、どうしてもと言うのなら、そこのジーナ嬢とも一緒で構わないが」
「あら、どうしてあなたにそんな事を決められなければならないの?私が誘っているのは彼なのだけど」
「なにっ」
アントニオが気色ばみますが、ジーナは優雅に微笑んでいます。
ゼニファーは「えっ、えっ…」と困り顔で慌てており、アスマは眉を寄せて様子を見守っています。
ふむ。ずっと注目されていたのは、この班分けのためだったのでしょう。この身という優秀な人工精霊を持つシオをスカウトしたかったのです。
シオは1秒だけこの身を見つめると、立ち上がって言いました。
「ジーナ、アントニオ、誘ってくれてありがとう。でも、悪いな。俺は友達と組みたいと思ってるんだ」
「……!」
「勿論、お前らが良いって言ってくれたらだけどさ」
そう振り返って言ったシオに、ゼニファーとアスマは目を輝かせました。
「そんなの、OKに決まってるぜですわ!!」
「あんた…て、テスには、借りがあるからな。言っただろ、必ず返すって」
「……。そう、残念だけど仕方ないわね」
ジーナは小さくため息をつき、微笑みました。
「でも、困った時はいつでも来てちょうだい。あなたには恩があるから。ゴズヴェル家は義理堅いのよ」
「そっか。分かった」
「くっ…、言っておくがアジェド家だって魔導武器開発の重鎮だぞ!気が変わったらいつでも声をかけるがいい!」
「ああ。ありがとう」
二人は残念そうにしつつも大人しく立ち去って行きました。
ゼニファーが胸を撫で下ろしながら笑います。
「良かったぁ、テスに断られたらどうしようかと思ってたんですわ!ありがとなですわ!」
「…これから、よろしく」
「おう!皆で頑張ろうな!」
無事に、班結成です。




