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第21話 入学式

「どうだ、リチカ、変じゃないか?」


 真新しい制服に身を包んだシオがこちらを振り向きます。

 落ち着いた濃いグリーンのジャケット。シャツにネクタイを締めた姿は、何だか新鮮に感じます。


「大丈夫です、シオ。とても初々しくて微笑ましいです」

「…それ、褒めてるのか?」

「ええ。とても新入生らしい姿です」


 シオがちょっぴり眉間に皺を寄せます。どうにも背伸びをした姿に見えるのは多分、制服のサイズが少し大きいからでしょう。

 今後シオの身長が伸びる事を考えて選んだのだと思われます。ジェレミアらしいプレゼントです。


「リチカは髪、三つ編みにしたんだな」

「はい。エルザがやってくれました。この方が学院にはふさわしいだろうと」

「うん、似合ってる。…じゃあ、ちょっと早いけど行くか」

「はい」


 小さく頷き、部屋を出ます。

 今日はいよいよ、皇立学院の入学式なのです。




「テス君!リチカちゃん!おはよー!」

「サラド!」

「おはようございます」


 校門の前で大きく手を振っているのは、やはり真新しい制服を身に着けたメガネです。

 隣にはネクタイを締めたメガネの父親もいて、にこやかに「おはよう」と挨拶をしました。この父親の方もメガネをかけていて、かなりよく似た親子です。

 すぐ脇では、同じように皇立学院の制服を着込んだ少年少女たち、そしてその父母らしき着飾った男女が、ぞろぞろと門の中へと入って行きます。


「入学式とは、保護者同伴で来るものなのですね」

「そりゃ大事な記念日だし、見届けたいって思う親も多いんじゃないか?」

「特にこの学校は貴族が多いからね。こういう行事には必ず保護者用の席が用意されてるみたいだよ」

「そうなのですか」


 しかし、シオには同伴する保護者がいません。

 特に気にしている素振りはありませんし、メガネもそこに触れようとはしませんが…。


「シオ。もしよろしければ、この身が保護者席に座りますが」

「…なんで?」

「シオの晴れ姿を見届ける者が必要なのではありませんか?この身はある意味ではシオの保護者とも言えますし」

「いやリチカは俺の契約精霊だから!ちゃんと隣にいないと困るから!」


 むむ…。保護者席からシオを見るのも悪くないかと思ったのですが。

 メガネが苦笑しながら門の方を指します。


「ほらほら、早く中に入ろうよ。入学式、始まっちゃうよ」



 受付で身元の確認をされて会場に入り、メガネ達とは分かれて精霊使役科の整列場所へと向かいます。

 そこには…。


「あっ、テセルシオ!シフィリチカ!こっちだぞですわ!」

「ゼニファー!アスマも!」


 ブライアンを連れたゼニファーに、タンタを連れたアスマがいました。

 二人とも、なかなかに制服が似合っています。


「二人共合格してたんだな!良かった!」

「そ、そっちこそ…」

「これから3年間、よろしくな!ですわ!」


 ゼニファーは嬉しそうにシオの両手を握りしめ、ブンブンと振り回しています。

 アスマが少し居心地悪そうにしているのは、周りからの視線を気にしているせいでしょうか。やけに注目されています。


 それからすぐに教員から声がかかり、入学式が始まりました。

 教員からの挨拶に、学院長の演説。新入生代表による挨拶。

 新入生代表は政治経済科の生徒で、どうやら皇族のようです。かなり緊張した様子で、つっかえつっかえ挨拶を読み上げていました。

 滞りなく終了し、教員の案内で各教室に移動してホームルームです。




「…私がこのクラスの担任となるイライア・イルバンテスです。契約精霊はこちらのミモザ。皆さん、よろしくお願いしますね~」


 担任のイライアはまだ若い女性でした。

 のんびりとした口調で穏やかな物腰ですが、連れている妖精型人工精霊(フィルギア)共々、かなりの猛者なのは間違いありません。鍛え上げられた雰囲気を感じます。


「では、皆さん自己紹介をしましょうか。契約精霊の紹介も忘れずに~」


 右列の生徒から自己紹介をする事になりました。

 それぞれ立ち上がって自分と契約精霊の名前を名乗り、特技だとか先祖の手柄などを話しています。


「俺はヘラルト・フルゲウス、フルゲウス伯爵家出身だ。契約精霊はそこのランタナ。火炎属性を得意とし、我が曽祖父ヒューガルトと共に五十年戦争で活躍せし、偉大な人工精霊だ!」


 尊大な態度の少年が指し示し、ランタナという大きな虎型精霊が軽く身震いをしました。年を経た強力な人工精霊のようで、横にいる人工精霊達は少し萎縮しているようです。

 生徒の中にも彼らを意識している人間が多いようなので、きっと名のある人工精霊なのでしょう。残念ながら、この身の知識にはありませんが。

 ちなみに、契約精霊の待機場所は教室後方となっています。精霊使役科は生徒が皆自分の精霊を連れているため、他の科に比べて広い教室となっているのです。


「ぜ、ゼニファー・ローデント!ローデント伯爵家の長女なんですわ。契約精霊はローデント家伝来の亀型精霊ブライアン。得意なのは防御の魔術で…えっと、人工精霊の事はあんまり分からないんだけど、よ、よろしくお願いするぜですわ!」


「…アスマ・ハチスカ。ヤマト国の出身だけど、母はこのクィリンド皇国の人間だ。契約精霊はカブトムシ型精霊のタンタ。…よろしく」


 ゼニファーはどもりながら、アスマは簡潔に、それぞれ自己紹介をしました。

 どちらに対しても、クラスメイトたちの視線は妙に冷たいものです。どこか侮るような雰囲気も感じられます。

 中には露骨に「ハッ!」と鼻で笑う人間もいました。先程のヘラルトとかいう男子生徒ですが、不快です。

 続いて、シオが立ち上がりました。


「俺はテセルシオ・セサムス。セサムス男爵家、精霊騎士セネルダス・セサムスの孫だ」


 集まる視線。やはり注目されています。

 セネルダスの名前には幾人かが小さく反応していました。どうやら多少は知られた人物のようです。


「契約精霊は、そこのシフィリチカ」


 紹介され、この身は姿勢を正して敬礼をしました。シオがちょっぴり目を丸くします。

 実はシオに恥をかかせないよう、この国の兵士が行う敬礼について密かに調べて練習していたのです。この肘など、我ながら完璧な角度です。


「リチカはこう見えて食いしん坊で冗談好きだ。ちょっと変わってるけどいい奴だから、皆も仲良くしてやって欲しい」


 シオの言葉にイライアが「まあ」と小さく呟き、生徒達は少しザワッとしました。

 きっと精霊の性能ではなく性格を紹介したからでしょう。ましてや「仲良くしてやって欲しい」などと、そんな事を言ったのはシオだけです。ゼニファーはよく分かっていないようですが、アスマは呆れ顔をしています。

 一体どういうつもりなのかは分かりませんが、ちょっと変わっているのはこの身ではなくシオの方だと、後で指摘しておく必要があるでしょう。

 大体、この身は食いしん坊などではありません。栄養補給に積極的なだけです。


「俺の夢は、リチカと一緒に祖父さんみたいな立派な精霊騎士(エインヘル)になることだ。皆、よろしく」


 そう言ってシオは着席しました。

 シオとこの身に向けられる視線に含まれているのは、好奇と興味、不審…ただし、強い敵意を持っているのが一人。これもヘラルトです。

 注目を集めるのは不快ですが、慣れるしかないでしょう。彼らはシオのクラスメイト、仲良くする方が望ましいのは事実です。



 その後自己紹介を始めたのは、栗色の髪の少年。少し緑がかって見える不思議な髪色です。


「僕はルスキア、デュライータ子爵家の者だ。契約精霊はコクリコ。…入学試験では、コクリコが皆に迷惑をかけてしまって申し訳なかった。少しばかり張り切りすぎたみたいでね。この場を借りて謝罪しておくよ」

「…すまんかったのじゃ…」


 桃色の小さな狐が一歩前に出て小さく頭を下げました。物凄く不承不承といった声音ですが、耳を伏せたその仕草は可愛らしいものです。

 やはりあの入学試験の時、大きく魔力を放出して魔物を刺激したのはこのコクリコという精霊です。

 子狐のような姿ですが、秘めた力はかなりのもの。魔力量だけで言えば、この身を上回っているかも知れません。


 クラスメイト達も彼らに一目置いているようです。ヘライトはまた敵意のこもった視線を送っています。

 彼ら自身はそのような視線を一切気にしていないようですが…いえ、桃色狐の方は、元の位置に戻る直前に一瞬だけこの身を睨んできました。すぐにぷいっと顔を背け、素知らぬふりをしていますが。

 ふむ。やはり、あまり好意的とは言えなさそうです。



「…私はモニカ・モーセルト。契約精霊は…」


 他のクラスメイト達の自己紹介を聞きながら、密かに周囲を観察します。

 鍛え上げられた肉体をした者。大きな魔力を秘めた者。野心を燃やす者。歴戦の古き人工精霊に、若き精霊。

 どうやら学校というのは、この身が想像していた以上に多種多様な存在が集まる場所のようです。手強そうな気配もあちこちにあります。

 立派な精霊騎士になる。そんなシオの夢を叶えるためにもこの学院で良い成績を修めなければなりませんが、そう簡単に行くものではなさそうです。


 …ですが、シオにはこの身がいます。

 どれよりも優秀な人工精霊であるこの身と契約したシオは、やはり豪運な少年だと言えるでしょう。

 シオ自身もまた、ここでもっと成長していくはず。

 これからの学校生活が、とても楽しみです。

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