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第16話 残る手段

「うーん…そりゃそう言われるだろうね。そもそもギルドって、18歳未満の登録にはかなり厳しいんだ。それこそ学院の生徒じゃないと難しいよ」


 話を聞いたメガネは、そう言って腕組みをしました。

 ここはメガネの家です。2階は住居で、1階はメガネの父親が経営する魔導具工房になっています。精霊ギルドを出た後、シオの案内でやって来ました。

 メガネの部屋は案外片付いています。とても大きな棚があり、何だか分からないものがごちゃごちゃに詰め込まれているのが少々気になりますが。


「学院の許可って、入学したらすぐ貰えるものなのか?」

「無理じゃないかなあ。確か、年に2回あるテストでランク付けして発行するんじゃなかったかな?だから最短でも半年近く後になるね」

「マジかあ…」


 両手で顔を覆ったシオが天井を仰ぎます。


「精霊ギルド以外では仕事は探せないのですか?」

「そうだね。ここ数年人工精霊の暴走事故が立て続けに起きてて、不確定値が高い=危険って多くの人が思ってる。高くたって何十年も問題なく動いてる精霊もいっぱいいるんだけどね、その辺は謎が多くて…」


 人工精霊には解明できない謎が多くあるとされています。

 現在人工精霊を製造できるのはアールヴ族だけで、彼らはその秘密を決して明かそうとしません。探ろうとする者には厳しい報復をするというのは誰もが知っている話です。


「ギルドって、その辺の安全を担保してくれる存在でもあるんだよ。登録メンバーには審査があるし、事故補償だってあるからね」

「ギルドが取っている紹介料は、保険料でもあると」

「そういう事。…むしろ、進んでリチカちゃんを貸してくれって言ってくる人がいたら、絶対怪しいからやめた方がいいよ。ギルドに頼めないような危ない仕事をさせたいか、リチカちゃんを狙ってるかだから。人型の人工精霊なんて、欲しがる人は欲しがるだろうからね」

「……」


 思わず拳を握りしめてしまいます。それでは、どうやってお金を稼げば…。


「あれ?リチカちゃんもしかして落ち込んでる?」

「バカ、見れば分かるだろ!」

「ええ!?落ち込む人工精霊なんて初めて見たんだけど!」

「落ち込んでなどいません。無力なのが悔しいだけです」


 そうです、落ち込んでなどいません。今考えるべきなのは、どうやってシオの役に立つかです。


「メガネ、一体どうしたら良いと思いますか?」

「はぇ!?僕!?」

「そうです。ジェレミアは困ったらメガネを訪ねろと言いました」

「ジェレミア君てすぐ他人に投げて寄越すよね!!」

「悪い、サラド。でもお前が頼りなんだ」

「あぁもうー!」


 メガネは頭を抱えました。グシャグシャと髪をかき回しながら考え込みます。



「…じゃあ、残る手段は一つだよ。普通の人間向けの仕事をする。これしかない」


 数秒の沈黙の後、シオが「そっか」と呟きます。


「普通の人間を募集してるアルバイトだって、そこらにあるもんな。賃金は安いけど確実に稼げる。俺、体力には自信あるし」

「待って下さい。シオはそれで良いと思いますが、この身はどうしたら良いのですか?どうお金を稼げば?」

「だから、人間のふりをしたら良いんじゃない?」


 メガネはごく当たり前のように言いました。


「リチカちゃんの特徴は、その薄緑の髪の色と仮面。それさえなければ、簡単に人間のふりをできるでしょ」

「……」


 つい無言になってしまいます。この身に人間のふりをしろと?

 誤解をそのままにしておいた事はありますが、自ら進んでやった事はありません。

 シオがちょっと眉を曇らせます。


「雇い主を騙すのは、気が引けるけど…」

「でも、他に方法はないと思うよ。人間の仕事なら魔力はいらないから、暴走の危険はないだろうしさ」

「うーん…背に腹は代えられないか。こっちはただ働きたいってだけだしな。でも仮面はともかく、髪はどうするんだ?カツラとか?」

「ふっふーん。そこは僕にお任せ!!」


 メガネはニヤリと笑うと、後ろの棚をゴソゴソと探りました。


「えーっと…これじゃなくて…これでもなくて…あったあった、コレ!ぱーっぱぱーぱぱー、変身眼鏡~~~!!」


 謎のファンファーレと共に、赤い縁のついた眼鏡を高々と掲げるメガネ。

 シオが何とも言えない表情になります。


「これはね、かけた人が金髪碧眼に変身しちゃう不思議な眼鏡なんだ!犬でも効果あったし、リチカちゃんもいけると思うよ」


 そう言いながら、メガネは自分の眼鏡を外して赤縁眼鏡をかけました。

 その途端、薄茶の髪に灰色の目だったはずのメガネが、金髪碧眼に変わります。


「うわっ、マジだ。すごい。でもなんで金髪碧眼?」

「さあ?作った人の性癖だったんじゃないかって父さんは言ってたけど」

「性癖って」


 外すと、メガネは一瞬で元の色に戻りました。どうやら、外見に特定のフィルターを掛ける魔導具のようです。


「金髪ならよくいるし、確かにそんな目立たないかな。…でも、これ着けるには仮面外さなきゃいけないよな?」

「そりゃそうでしょ。そもそも仮面が一番目立つんだから、外さないと話にならないよ」

「ヘッドギアを外す…」


 小さく呟いたこの身を、シオが心配そうに見ます。


「リチカはそれ、外したくないんだよな?あと、制御装置って言ってなかったっけ」

「えっ…も、もしかして、外すと暴走するとか!?」

「そんな事ないぞ、契約の時は外してたし」

「ええ、暴走などしません。…でも…」


 あまり言いたくないのですが、言っておいた方が良いでしょう。ヘッドギアに触れつつ答えます。


「これは記憶の管理制御装置です。長時間外していると、記憶に障害が発生します」

「え」


 メガネが驚いた顔になり、シオが表情を強張らせます。


「それってどういう…」

「…だったら外さなくて良い。金は稼ぎたいけど、無理してまでやる必要はないよ」


 言いかけたメガネの言葉を、シオは遮りました。とても真剣な表情で、この身を案じているものだと分かります。

 やはりシオは優しい人間です。だから、この身は首を振りました。


「いえ、大丈夫です。障害が出るのは24時間以上外していた場合で、アルバイトをする間くらいなら問題ありません。外したくないのは確かですが、それで仕事ができるのなら外します。とても不快ですが」


 本当に、本当に凄く嫌なのですけど、仕方ありません。

 メガネの手から赤縁眼鏡を取り上げ、ヘッドギアを外し、代わりに装着します。


「どうですか。普通の人間に見えますか?」

「うわっ…えっ、リチカちゃんこんな顔なんだ!?えー!?凄いな、作った人の趣味かな…モデルはいるのかな?」

「不快です。人間に見えるかと聞いているのですが」

「それはちゃんと金髪碧眼の美少女だよ。核石は額だっけ?そのままでも髪で見えないけど、念の為に隠した方がいいかも。…でも、違う意味で目立つよ絶対…」

「本当に大丈夫なのか?リチカ」


 シオが念を押してきます。心配しているようなので、素直に頷いておきます。


「勿論です。不快ですが問題ありません」

「…髪もだけど、目の色もちゃんと変わってるんだな」

「そうなのですか?」

「元より薄い色になってる」


 先程のメガネは空色の目に変わっていたので、きっとあの色になっているのでしょう。

 この身の目の色は…普段鏡など見ないのですが、もっと紫がかった深い青色だったと思います。

 シフィリチカの花の色。どんな花か、この身は見た事がありません。


「…とりあえず、これを着けて人間の女性として働けば良いのですね。この身は優秀なのでそのくらい当然できます。いっぱい稼ぎます」

「うん、いや、程々にな。まずはアルバイト先を探さないと…」

「それはこの身に関してはご心配なく。心当たりがあります」


 自信を持ってそう言うと、シオはちょっぴり目を丸くしました。

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