表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

第15話 精霊ギルド


「シオ。今日のスープの玉ねぎは、この身が皮を剥いたのです」

「へえ、そうなのか。…うん、美味い」

「しっかりアクを取りながら煮込むのがコツだと、マリオは言っていました」


 マリオはこのクローブハイト家の料理長で、小さなマルタン少年の祖父です。一家でこの屋敷に住み込み、働いているのだとか。

 マルタンとは初めて会った日以来、よく遊ぶ仲です。この屋敷の事をあれこれ教えてくれたりもします。

 マリオは最初この身を厨房に入れるのを嫌がっていたのですが、シオとマルタンの口添えで何とか入れてくれるようになりました。怒りっぽいけれど職人肌の老人です。


「シフィリチカちゃん、朝から働き者だねえー」


 眠たそうな声でそう言ったのはジェレミアです。

 ジェレミアはいつもお寝坊なので、朝食を一緒に取るのはこれで2回目になります。長い金髪がスープカップの中に垂れそうになっているのがとても気になります。


「優秀な人工精霊(フィルギア)なので当然です。それに、皇都の料理は村のものとは全く違っていて大変興味深いです」


 皇都の料理はとても凝っていて、しかも贅沢だと感じます。

 じゃがいもやにんじんは皮を剥いて食べると聞いてびっくりしました。

 村ではそんな勿体ないことはできません。毒がある部分はもちろん取り除きますが、あとは刻んだり煮込んだりして、できる限り丸ごと食べます。

 マリオによると、剥いた皮も出汁を取ったり肥料作りに使えるため無駄にはならないのだそうですが。


「ところで、シオ。今日の予定はどうしますか?訓練ですか?」

「それなんだけど、精霊ギルドに行こうと思う」

「精霊ギルド?」

「人工精霊を持っている人専用のギルドだよ。って言っても、実は俺も行ったことないんだけど」


 ジェレミアは何か思い当たったようで、「あー」と言いながら頷きます。


「アルバイトかい?」

「ああ。お前に借金返さなきゃいけないからな」

「僕は別に、いつでもいいんだけどねー」

「そういう訳にはいかない。卒業までに絶対返す」

「精霊ギルドでアルバイトをするのですか?」


 首を傾げると、シオが答えてくれました。


「そうじゃなくて、ギルドでは人工精霊を使う仕事を紹介してくれるんだ。長期の仕事から日雇いまで、色々あるらしい」

「ふむ。つまりは口入屋ですか」

「くちいれや?」


 人材派遣業…この場合は精霊派遣業と言うべきでしょうか。

 魔物退治や土木作業など、一時的に人工精霊の力を借りたい場面というのはよくあります。そのような仕事を仲介してくれる場所なのでしょう。


「分かりました、そこで良い仕事を貰ってたくさん稼げば良いのですね。お任せください」

「もちろん俺も働くぞ。護衛とか、契約者と一緒じゃないと受けられない仕事もあるはずだし」


 なるほど。人工精霊と言っても性能は様々、タンタやプルシュのように会話機能を持たないものも多くいます。

 音声での会話はかなり高度な機能で、持たせようとすると他の機能が犠牲になりがちだからです。もちろん、この身ほどに高性能ならば別ですけれど。

 喋れなくとも契約者とはある程度の意思疎通ができるものですが、他の人間とはできません。単純労働ならばともかく、コミュニケーションも必要になってくる仕事では、契約者の人間が共にいた方が良いのでしょう。


「テセルシオもシフィリチカちゃんも頑張ってね。…あと、そうだね。困ったらサラドの所に行けば良いと思うよ」

「…?分かりました」


 ジェレミアは何だか意味深にフフッと笑いました。どうしてでしょうか、嫌な予感がします。




 精霊ギルドは思っていたよりも近く、そして小さな場所でした。ただし入口のドアはかなり大きいです。


「人工精霊ギルド皇都東支部…、ああ、なるほど。ここは本部ではないのですね」

「ああ。本部はもっと中心部の方にあって、すごいでっかいぞ」


 そう言いながらドアを開けると、たくさんの人間が中にいました。人工精霊を連れている者も多く、壁に貼られたいくつもの紙を眺めているようです。

 受付には数人の女性が並んでいて、そのうちの一人のところへ進むと、にこやかに話しかけられました。


「こんにちは、何かご依頼ですか?」

「いえ、ギルドメンバーの新規登録をしたいんですが」


 すると、受付の女性は目をぱちぱちと瞬かせました。それから微笑みを浮かべます。


「人工精霊はどちらに?メンバー登録するには、契約済みの精霊が必要ですが」

「ここにいます。俺の戦闘精霊(ヴァルキュリー)です」


 そう言ってシオがこの身を指し示した途端に、受付の女性の笑顔が凍りつきました。

 8秒間ほど沈黙し、笑顔のまますっと立ち上がります。


「…分かりました、ではこちらへ。登録のための審査を行います」



 案内された小部屋で、シオは「こちらに記入しながらお待ち下さい」と紙とペンを手渡されました。

 住所に氏名、年齢、精霊使役経験年数…随分色々と項目があります。

 眉を寄せながら書き込んでいたシオがこちらを振り返ります。


「契約精霊の稼働年数…?何年なんだ?」

「2年です」

「2…、ってあれ、待てよ?博士の所に2年いたって言ってたよな。でもリチカは古代遺物(アーティファクト)なんじゃなかったっけ?博士に会うまでは一度も動いた事なかったのか?」

「分かりません。博士に出会う以前の記録はなく、また製造過程に関する全てのデータは残っていません」

「え…」


 シオが少しびっくりした顔でこの身を見ます。

 その瞬間、奥の方からおかしな悲鳴が聴こえてきました。


「ええ…!?人型がうちに来たのぉ!?何でよりによってここに!??」

「知りませんよそんなの…!とにかく、支部長が対応してくださいよ!私たちの手には余ります!」

「待って待って、僕の手にも余るって…本部長に連絡…!」

「いいから早く…!」


 ドカッという音がして、それから12秒後に奥の扉が開きました。

 30代後半ほどの男性と、紫色に光る無形精霊(ルミネス)が入ってきます。



「…あー、僕はアーチボルト・ボールムという。精霊ギルド東支部の支部長だ。こっちは契約精霊のムスカリ」

「テセルシオ・セサムスです。それと、契約精霊のシフィリチカ」

「うん…そうだね、本当に人型だね…うん…。それ、見せてもらってもいいかな?」

「あっ、まだ全部書いてなくて」

「大丈夫、こっちで書き込むから」


 アーチボルトと名乗った男性はシオから受け取った紙をじっと眺めました。


「5日前に戦闘精霊として契約…君、精霊騎士(エインヘル)になりたいんだよね?」

「あっ、はい。皇立学院の精霊使役科を受験しました。まだ結果待ちですけど」

「うん、じゃあまず、能力測定ね。君と契約精霊と両方ね」


 取り出された測定装置は、メガネが使っていたものよりも一回り大きくてゴツゴツとしていました。

 人間のことも測定できるようで、まずはシオの方へとそれを向けます。


「ふむふむ…魔力量131…契約したてならこんなものか…じゃあ次、えーと…シフィリチカちゃんね」


 次はこの身へ測定装置を向け、クワッと目を見開きました。


「…なんだコレ!??マジかぁ、ちょっと見た事ないぞ…例の数式に当てはめれば…潜在能力は…いや、単純比較はできない…」


 がりがりとペンで頭をかきながらブツブツと呟いています。あの装置には一体何が表示されているのでしょう?

 アーチボルトは真剣な表情で何かを紙に書き込み、それから顔を上げました。


「うーん、単刀直入に尋ねようか。君はどうしてギルドに来たんだい?」

「金を稼ぐためです。リチカを買うために友人から金を借りたので」

「なるほど、そっかぁ…んん、なるほどぉ…」


 アーチボルトは目を閉じたまま顔をしかめ、首をひねっています。何とも複雑そうな表情です。


「正直に言うとね、無理だ。今の君に紹介できる仕事はない」

「な、何でですか!?」

「まずは君の経験の少なさだ。精霊を使役してわずか数日、特に実績もなし、つまりただの素人。残念ながら、今の君に任せられる仕事はない。我々は依頼人から紹介料を貰って、信頼できる精霊使いを斡旋するのが仕事だからね」

「……。はい…」


 シオはちょっぴり肩を落としつつも頷きました。

 アーチボルトの言葉には一理あります。シオは努力家な少年ですが、まだまだ未熟で圧倒的に経験が足りていません。


「次に君の人工精霊だが…やっぱり仕事を紹介できない。この不確定値7800ってのが問題でね、この値が高い人工精霊は依頼人が嫌がるんだよ。この前だって暴走事故があったばかりだしね」


 それについては、この身も調べてみました。屋敷では新聞という情報媒体を定期購入しており、また噂好きの使用人も何人かいたので、情報収集は容易でした。

 事故は3週間ほど前。戦闘用に使役していた豹型の人工精霊によるものです。

 魔物討伐の際に、事故で契約者が死亡。その直後に暴走を始め、周囲の人間に大怪我をさせたのだとか。


 このような事故は時々起きているらしく、死者が出る事もあるようです。

 暴走は大きな魔力を使った時に起こるもので、不確定値が高い精霊ほど発生しやすいとも新聞には書いてありました。


「それならば、大量の魔力が必要ない、危険度の低い場所での仕事をさせていただけませんか?この身は高性能で優秀です。どんな仕事だろうと必ずお役に…」

「悪いけど、そのスペックが高すぎるのも問題なんだよねぇ。契約したての精霊に回せるのなんて荷物運びとか魔道具への魔力補充とかの簡単な仕事でね、そんな優秀さは必要ないの。仕事中にうっかり壊したり盗まれても困るしね。依頼人が求めてるのは、どこにでもいる安全なそこそこの人工精霊。高性能なのはむしろ、使いにくいんだよ」

「……!!」


 衝撃を受けます。

 理屈はわかりますが…この身が優秀すぎるために、かえって仕事がないなんて…。


「…そんな…そんな事が…それでは、シオの借金はどうすれば…」

「り、リチカ…別に気にしなくていいって。ほら、ジェレミアは返済はいつでもいいって言ってたしさ」


 隣のシオがオロオロとしていますが、衝撃が大きすぎてすぐに適切な行動が取れません。

 役に立てないのでは、何のためにこの身がいるのか分かりません。

 アーチボルトが気の毒そうな表情を浮かべ、「参ったなあ。こんな素直そうな子達なのは想定外だよ…」と頭をかき回します。


「…ちゃんと入学して、許可を得てからまたおいで。話はそれからだ」

「許可?」

「あれ、知らない?我々は皇立学院と業務提携していてね、例えば低級の魔物の討伐だとか、難易度の低い仕事を生徒に斡旋している。こういうのは報酬額が安いから人気がないんだが、生徒にとっちゃ丁度いい訓練ってわけさ」


 そう言えば、先程のロビーにはシオとあまり変わらない年齢の人間もいました。

 彼らはそのような学生向けの仕事を探していたのでしょう。


「学院が許可を出した生徒なら、こっちも信頼して仕事を回せるからさ」

「分かりました…」


 とぼとぼと去るしかありませんでした。

 本当に…本当に、とても口惜しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ