第14話 入学試験・7
ドサッと音を立て、プルシュが地に墜ちます。
本体にはダメージがないように翼を狙いましたが、これでしばらくは飛べないはず。戦闘力の大半を失ったと見ていいでしょう。
「プルシュ…!?」
パパゴが驚いた声を上げ、シオに強く拳を叩きつけて吹き飛ばしました。
プルシュを助けに行こうというのでしょう。しかしもう遅いです。
「ここからは、この身が相手です…!!」
この身が放った飛び蹴りを両腕でガードし、パパゴが「ぐぬっ…」と小さく唸りました。
「こんな短時間でプルシュを倒すなんて、やるやないか人型!あの狐っ子なんかよりお前のが遥かに上や!」
「当然です。優秀なので」
格闘戦は得意とする所です。目標はパパゴの3分以内の制圧。そして入学のための推薦を勝ち取ります。
…おや、吹き飛ばされて転がっていたシオが早くも立ち上がったようです。
「リチカ!!」
「シオはプルシュを見張っていて下さい。魔力を溜めたり、また飛ぼうとしたら攻撃を」
「……、分かった」
シオは悔しそうに唇を噛みました。役割に不満があるようですが、仕方ありません。今のシオの力ではパパゴを倒せませんし、足手まといです。
パパゴは優れた使い手です。様子見で繰り出した手刀や蹴りは、今のところほぼ防がれています。
「はっやいなぁ!こりゃなかなかキツいわ!」
「降参して下さっても構いませんが」
「冗談抜かせ!」
笑っています。単独でこの身に挑む事がどれだけ無謀か、教える必要がありそうです。
青花刃は既に解除していますが、通常状態でも十分制圧は…、おっと。
「――――――――!!」
「ぐあぁっ…!!?」
超高音の雄叫び。
この身はなんとか防御が間に合いましたが、シオやパパゴは耳を押さえて地面に転がり悶絶しました。
空を見上げると、監視の鷹型人工精霊が二体、旋回しています。今の音波攻撃は彼らが協力して放ったもののようです。
〈…そこまでだ。受験番号40の戦闘能力は十分に示された。戻って来い、パパゴ〉
中年男性の声が響き渡ります。入口で説明をしていた試験官の声です。あの鷹型精霊を介して声を届けているのでしょう。
残念ですが、どうやら追加試験はここで終了です。
戦闘態勢を解除し、まだ地面に転がっているパパゴに声をかけます。
「聴こえましたか、パパゴ?必要ならば指示を復唱しますが」
「いらんわ!!…戻ればええんやろ、戻れば…」
パパゴは耳を押さえたまましかめっ面で起き上がりました。ダメージはあるものの、聴力は残っているようです。
「くっそ、これからって所やったのにあのオッサン…」
「そうですね。もう少しで推薦していただけたのに、残念です」
そう答えると、パパゴはムッとした顔になりました。
「約束や、ちゃんと推薦はしたる!決着はついとらんけど、プルシュが倒されたんは事実や。そこんとこ評価せん訳にいかんやろ!」
ふむ、彼はなかなか公正な人物のようです。戦ったのは時間の無駄だったかと思いましたが、そういう事なら悪くない結果と言えるでしょう。
パパゴがビシっとこの身を指差して言います。
「決着はまだついとらんけどな!!シフィリチカやったか、ええか、入学したらオレと再戦や!!」
何とまあ、面倒です。この身はシオを試験に合格させたかっただけで、再戦など望んでいません。
第一、それを決めるのはこの身ではありません。
「だそうですが、シオ」
「…望むところだ。俺も、あんたともう一回戦いたい」
シオはパパゴを睨みながら答えました。とても悔しそうです。現在のパパゴとの実力差を、自分自身でもはっきり自覚しているのです。
片眉を上げたパパゴが、目を細めてシオを睨み返します。
「…ほーん。えらい素人臭い動きしとった割には言うやん?テセルシオ君」
「素人臭いも何も、シオは素人です。この身と契約してからまだ3日ですので」
「はあ!?3日!?マジで!?ほんなら、今まで人工精霊は…」
「契約したのはリチカが初めてだ。でも、それを言い訳にする気はない」
明らかに格上の相手と知りつつ、シオは闘争心を失っていません。
これはとても良い事だと考えます。それならばこの身も再戦を歓迎しましょう。シオの成長に役立つはずです。
パパゴは一瞬呆気に取られていましたが、すぐに破顔しました。
「なるほどなあ、おもろいわ、君!ぶっちゃけまだ全然弱いけど、その根性は大したもんや。人型の契約者は伊達やないんやな!!」
シオに近付き、背中をバンバン叩いています。やけに上機嫌ですし、何やら気に入られたようです。
「ええで、再戦はいつでも受け付けたる!入学したら訪ねて来いや!」
むむ、いつの間にか再戦を挑むのはシオの方という事になっています。何故?
シオが「ああ、そうさせてもらう」と真面目に答えているので、口は挟みませんけど。
「そんじゃ、オレはプルシュの翼が治り次第戻るわ。後は大した魔物は残っとらんと思うけど、最後まで気ぃ抜かんで頑張れよ〜」
「ああ、分かった。ありがとう、パパゴ」
パパゴとプルシュに見送られ、再び山道を登ります。試験再開です。
言葉通り、その後は群れの魔物に遭遇する事はありませんでした。ほとんどが単体で、シオ一人でも十分対処可能な相手です。
休憩所で試験官のチェックを受け、30分の休憩を取ってから下山。これも登りとは違い、非常にスムーズに進みました。
最後にもう一度チェックを受け、受験者識別符を返却して試験は終了です。
当初の想定よりも時間がかかったものの、許容範囲内です。合否通知は10日後に届くとのこと。
「…今日はありがとなですわ、テセルシオ、シフィリチカ!すごく助かったんですわ!」
帰り際、ゼニファーには両手を握られて感謝をされました。
シオよりも早くゴールしていたはずですが、今まで待っていてくれたようです。
「悪かったな、最後まで一緒に行けなくて」
「良いんだよですわ!アスマもいてくれたし、何よりテセルシオが最初に助けてくれてなかったら、きっとゴールはできてなかったんですわ」
「そっか。役に立てたなら良かったよ」
「本当に世話になったのう。恩に着るぞい」
ブライアンも首を伸ばして頭を下げています。ゼニファーの成長を喜んでいる様子です。
「パパゴだっけ、あの強そうな奴には勝てたんだろ?お互い、良い結果が出ると思うぞですわ」
「勝てた訳じゃないんだけど、そうだな。きっと合格してる。俺は豪運のテセルシオだからな」
「へへっ、入学式でまた会おうですわ!」
「はい。また会いましょう」
ゼニファーはなかなか面白い人間でした。シオの良い学友になれそうです。一緒に学院に通える事を祈りつつ、手を振ってお別れします。
こちらも帰ろうと出口に向かおうとした時、一人の少年に声をかけられました。
「お、おい…」
アスマです。タンタもすぐ後ろを飛んでいて、どうやら彼らもシオの事を待っていたようです。
しかし、なかなか口を開きません。躊躇うように視線を彷徨わせるアスマの周りを、タンタが飛び回ります。
「分かってるよ、タンタ!…その、助けてくれたこと、一応礼を言っとく。ありがとう」
「気にしなくていいぞ。別に俺が助けなくても何とかなったみたいだしさ」
「そ、そうじゃなくて…。あんたのお陰で目が覚めたっていうか…」
アスマはボソボソと喋りながら頭を掻きました。
それから急に顔を上げ、シオにビシッと指を突きつけます。
「いいか、この借りは返すからな!…その、が、学院で…学院で返す!」
「別に良いって。貸しを作りたくて助けた訳じゃないし」
「返すったら返す!!素直に頷いとけよ、そこは!!」
「そ、そっか。ごめん」
なるほど、アスマの言葉には「お互いに合格していたら良いな」というニュアンスが含まれていたようです。回りくどい言い方だったので、シオには通じていませんでしたが。
困ったように笑うシオに、アスマは呆れた表情になりました。「ほんと変な奴…」と言いながら歩き出します。
「また会いましょう、アスマ」
「またな!」
「……」
後ろから声をかけると、アスマは振り向きませんでしたが、タンタがくるりととんぼ返りをしました。きっと主人に代わって挨拶してくれたのでしょう。やはり良い人工精霊です。
シオが再びこの身を振り返り、笑います。
「じゃ、今度こそ帰ろう。腹も減ったしな」
「ええ」
今日の夕食はなんでしょうか。あの屋敷の食事はいつも美味しいので、楽しみです。




