第13話 入学試験・6
「…プルシュ!!」
名前を呼ばれ、大鷲型人工精霊のプルシュがバサッと大きく翼を広げました。
たくさんの魔力がプルシュからオウム人間…パパゴへと流れ込むのが分かります。
いえ、ただ流れ込んでいるだけではありません。パパゴ自身の魔力と混じり合う事によって、大きく増幅されています。
パパゴは戦闘精霊から力を引き出す事に慣れています。この身とシオはまだ、これほどの魔力を練り上げる事は到底できません。
「お待ちください。先程も言いましたが、我々は試験に戻らなければなりません。貴方に付き合っている暇は」
「オレに勝てたら、テセルシオ君の入学を推薦したる!」
「分かった。受けよう」
またもやシオは即答しました。豪運のテセルシオなどと名乗っていますが、即断のテセルシオに変えるべきなのでは?
まあ、そういう事ならこの身も賛成なので別に良いのですが。学院から警戒されていると分かった以上、合否判定で有利になりそうな材料は一つでも多く欲しい所です。
それに何より、シオがやる気です。
パパゴは今や普通の人間ならば震え上がるほどの威圧感を放っていて、実際ゼニファーやアスマなどは青くなって硬直しています。
ですが、シオはあれを正面から受けてもなお臆していません。これは高く評価して良いでしょう。
シオはちゃんと自分の力でスタートラインに立てているのです。そこからゴールまで導くのは、戦闘精霊であるこの身の仕事でしょう。
シオの返答を聞き、パパゴは上機嫌に笑い声を上げました。
「なかなかノリがええやん!安心せえ、先輩としてちゃんと手加減はしたる。ドーンとかかって来いや!」
「ああ、分かった。あと、ゼニファーとアスマは…」
振り返ったシオに、ゼニファーは高速で首を横に振りつつバックダッシュしました。とても器用な動きです。
「ややややめとくぜですわ!!草葉の陰から応援だけするんですわ!!」
「分かった。じゃあ、俺達の事はいいから先に進んでくれ。アスマも」
「あ、なら一緒に行こうぜですわ!頑張ってゴールを目指すぞですわ!」
「はあ!?」
「二人なら怖くねえんですわ!!」
「ちょっ、待っ…僕は良いとは言ってない…!」
ゼニファーは強引にアスマを引っ張って歩き出しました。先程は少し気まずい雰囲気でしたが、ゼニファーはもう気にしていないようですし、心配はいらなさそうです。
パパゴはそれを見送ってから、改めてこちらへと構えを取りました。武器は持たず、徒手での構えです。
「オレは別に3対1でも良かったんやけどな、まあええわ。…ほんじゃあ、改めて…」
「…行くでぇ!!」というパパゴの声が終わるより早く、足に魔力を込めて高く跳び上がります。
相手はここの魔物などよりもずっと強敵、となれば先手必勝です。手刀から魔力の刃を長く伸ばして大鷲のプルシュへと攻撃。
しかし、手応えはありません。避けられてしまいました。
「即プルシュを攻撃かぁ、悪くない判断やな!なら、オレはこっちや!」
パパゴは笑いながらシオへと襲いかかります。鋭く繰り出されたその拳を、シオはギリギリで防ぎました。
プルシュの魔力で強化されたパパゴはかなり素速いようです。勿論この身ほどではありませんけど。
恐らくパパゴは精霊騎士、つまりパパゴが主体になって戦うコンビです。相棒のプルシュも相当に強力な人工精霊ですが、パパゴの方が脅威度は高いと推定します。
戦闘力だけで考えればこの身がパパゴに相対したい所なのですが、しかし大鷲型精霊であるプルシュは空を飛んでいます。実戦経験が少なく魔術もろくに使えないシオでは、飛行する相手と戦うのは難しいでしょう。
それにシオは戦闘訓練でこの身を相手に戦っているので、素早い相手には多少慣れています。
近くにあった木の幹を蹴り、再びプルシュへと肉薄。
手刀を振るいながら大きく叫びます。
「シオ!!この身がプルシュを倒すまで、頑張って何とか凌いで下さい!!」
「わかった…!!」
槍を振り回しつつシオが答えます。力強い返事で、少しだけ頼もしく感じます。
短槍のシオに対しパパゴは素手。リーチの違いを活かして立ち回れば、実力差があっても少しは時間を稼げるはずです。
「ふっ…!」
プルシュめがけて手刀の斬撃を次々に放ちます。プルシュは身体を斜めにして器用に避けると、そのままこちらへ向かって旋回しました。
翼の先端がかすめ、腕がわずかに切り裂かれます。これは、風の魔術?
高枝の陰に一旦身を隠し、相手の様子を観察します。
プルシュは翼を広げれば3~4メートルはあろうかという大きな鷲の人工精霊です。
猛禽類らしく空中での機動は非常に素早いもので、嘴や太い爪は鋼鉄でできています。さらに戦闘中は、翼の先に鋭い風の刃を纏っているようです。
このような相手に距離を取って戦うのは下策です。こちらが狙い撃ちにされるだけ。なんとか接近戦に持ち込むべきでしょう。
地上を見ると、シオがパパゴ相手に必死で防戦しています。
パパゴの表情は余裕たっぷり、というよりも完全に遊んでいます。言葉通りに手加減しているのです。本気を出せばきっと、一瞬で決着が着くのでしょう。
今のところシオはよく頑張っていると言うべきですが、あまり時間をかけるわけにはいきません。
周辺は森。道は広く戦闘には十分な幅がありますが、両側には背の高い木が無数にそびえ立っています。
…作戦は決まりました。
もう一度、木を大きく蹴ってプルシュに斬りつけます。
「はぁっ!!」
反撃の翼を避けつつ、身体を反転。その先にあった木を蹴りつけ、再びの斬撃。
速度を上げながら周辺の木を次々に蹴って飛び回り、休む間もなく連続で斬撃を放ちます。
「キィィ!!」
斬撃の檻に囲まれ、プルシュが威嚇の声を上げます。
プルシュは強力な人工精霊ですが、このように背の高い木ばかりが生えている山中では真価を発揮することはできません。
何故ならプルシュのような大きな鳥型は、加速はできても止まるのは苦手なため、細かな方向転換が難しいのです。直線的な動きは速くても小回りがきかないという弱点を持っています。
それに対し、小柄で身軽なこの身はこの地形を十分に活かせます。
木々を足場にして四方八方から囲むように素早く攻撃すれば、プルシュはその場から動けません。自慢の機動力は封じられ、身体を捻って攻撃を避けたり、翼をはためかせて反撃するのがせいぜいです。
他にできる事と言えば…。
「キィィ―――!!」
プルシュの翼からいくつものかまいたちが放たれます。恐ろしい速度の風の刃です。
そう、直接攻撃が難しいとなれば、次に来るのは間違いなく魔術による遠隔攻撃。
しかし予測していれば避ける事は難しくありません。わずかに腕や足をかすめましたが、軽傷です。
この身へろくにダメージを与えられなかったと気付いたプルシュが、羽ばたいて上昇を始めます。こちらの攻撃が届かない高さまで離脱しようとしているのです。
ですが、それも思惑通り。今の攻撃の間に十分魔力を溜められました。
「…『青花刃』」
青く輝く5枚の花弁が、眼の前に出現します。
ゆっくりと回転する5つの刃。これがまるで花のように見えるからと、青花刃と名付けられました。
「『装填』!」
花弁のうち1枚を指先に装填。そして。
「『発射』…!!」
超高速で撃ち出した刃が青い光束となり、プルシュの翼を撃ち抜きます。
「キィィィィ…!!!」
悲鳴を上げたプルシュが、錐揉みしながら地面へと墜落しました。




