第10話 入学試験・3
やや早足で登っていくと、すぐに戦闘に遭遇しました。
それぞれ犬とカブトムシの人工精霊を連れた少年が二人、緑色に光る無形精霊を連れた少女が一人。
お互いに連携が取れていないようなので、仲間という訳ではないのかも知れません。バラバラの位置で多数の魔物に囲まれ、かなり苦戦している様子です。
前を歩いていたシオが突然屈み込みました。何かを拾い上げているようです。
「これは…」
「シオ?どうしましたか?」
「いや、ちょっと…。…おい、あんたたち、加勢はいるか!?」
「た、頼む、助けてくれ!!」
「助けて、お願い!!」
「……」
シオが呼びかけると、彼らのうち二人が怯えた様子で答えました。残り一人は無言なので、助けを求めてはいないようです。
シオは一瞬何かを考えた後、ゼニファーを振り返って言いました。
「よし、手分けしよう。ゼニファーとブライアンは、あっちの犬型精霊の奴を助けに行ってくれるか?」
「お、おう!?オレがですの!?」
ゼニファーがぎょっとします。戦力として当てにされるとは思っていなかったようです。
ふむ、確かにゼニファーももう魔物に慣れて来た頃でしょう。
合格するためには走り回って逃げてばかりではいけませんし、ここは一つちゃんと戦ってもらいましょう。
「大丈夫だ。ゼニファーとブライアンならやれる。さっきだって、ちゃんと敵を倒してただろ」
「で、でも、あれはブライアンが」
「人工精霊の力も精霊使いの力のうちです。大丈夫です、ブライアンの指示に従って動けば良いのです」
「えっ、えっ、でも」
「そうですぞ。この儂が付いております」
「……」
次々に励まされても、ゼニファーはまだ不安そうです。あともう一押しという所でしょうか。
このような時どう対応すればいいかは、村の子供達で学んでいます。
「ゼニファー。あの犬型精霊と、その主人の少年の姿を見て下さい。彼らは懸命に助け合い、お互いに庇い合いながら戦っています。とても苦しそうです」
「あ、ああ…」
「彼らは助けを求めています。今まさに、あなたの力を必要としているのです」
「オレの…力を…?」
「ええ、そうです。ゼニファー」
力を込めてそう頷くと、ゼニファーの瞳に強い光が宿りました。ぐっと拳を握りしめます。
「オレ、いえ、わたくしはやるぞですわ…!!ブライアン!!」
「承知しましたぞ、お嬢。『亀甲壁』!」
駆け出したゼニファーの前方に、亀の甲羅を模した防御壁が出現します。
「うおおおおーですわぁぁぁぁ!!!!」
ゼニファーはそのまま勢い良く魔物の群れに突撃し、思いきり弾き飛ばしました。体当たりです。犬型精霊の主人がぽかんと口を開けます。
防御壁はそのような使い方をするものではないと思いますが、とりあえず彼の事は守れたので問題ないでしょう。
ゼニファーは臆病なのだと思っていましたが、案外勇敢なところもあるようです。
「お嬢、走り過ぎですぞ、一旦止まりなされ。そこの少年と犬型、こっちへ来い。儂らが壁を張って敵を防ぐから、その隙にお前さんらで攻撃をするんじゃ」
「わ、分かった!」
少年たちと協力して魔物を倒す事にしたようです。戦闘指揮に関してはブライアンに任せておけば大丈夫でしょう。
あの亀甲壁は頑丈ですし、十分に全員を守りながら戦えるはずです。
ゼニファーの様子を確認したシオは、次にこの身を振り返りました。
「俺はあっちの奴を助けに行く。リチカはあの女の子の事を頼む」
シオがあっちの奴と言ったのは、カブトムシ型精霊を連れた少年です。しかし…。
「彼は助けを求めていません。先程のシオの呼び掛けに答えませんでした」
つまり余計な手出しは無用という事です。さっき忠告したばかりだと言うのに、シオは何故こんな事を言うのでしょう。
するとシオは、困ったように例の少年の方を見ました。
「…だってあの様子じゃあいつ、魔物を倒す事も逃げる事も難しいだろ?」
その通りです。何しろ彼はこの中で一番大きな魔物を含む群れに囲まれています。
あのカブトムシ型人工精霊は十分な戦闘力を持っているはずですが、まだ経験が少ないのでしょう。主人を守る事に気を取られ、上手く戦えていません。
「シオ。心配しなくとも、制限時間をオーバーしたり大きな危険があった時には試験官が介入するでしょう」
「でもさ、それじゃ試験には不合格になっちまう」
「はい。恐らくは」
彼がこのまま自力で何とかしようとすれば、力を使い果たすか時間切れでリタイヤになる可能性は高いと考えられます。
ですが、それは彼が自分で選んだことです。残念ですが仕方ありません。
生命に関わる事ならば強制的に干渉しますが、そうでないなら本人の判断を尊重すべきでしょう。
「リチカ…」
シオが何か言いかけた時、「きゃああっ!!」という甲高い悲鳴が上がりました。無形精霊を連れた少女のものです。助けを求めています。
シオはぐっと槍を握りしめました。
「…とにかく、リチカはあの子を頼む!!」
「シオ…!」
何と。あの少年の元へと駆け出して行ってしまいました。
シオが何を考えているのかさっぱり理解できません。不条理です。
ですが仕方ありません。それが命令ならば遂行するのみです。
改めて状況を観察。少女の周囲には、大量の蝗とカエルの魔物がいます。およそ40匹ほど。
どちらも個体としてはかなり弱いのですが、蝗はいつも群れで行動してる上にすばしっこく、カエルは毒を持っていて、面倒な相手です。
今は一刻も早く終わらせてシオの所に向かいたいので、あれを使う事にしましょう。静かに魔力を集中させます。
「…『青花刃』」
「…大丈夫ですか?」
17秒後。
すぐ横に降り立ったこの身を、少女は呆然と見つめました。
周囲にはたくさんの魔物の残骸。動いているものは一つもありません。この身がちょっと本気を出せばこんなものです。手応えがなさすぎたくらいです。
「どうしましたか。負傷したり毒を受けているなら治癒魔術を使いますが」
返事がないのでもう一度尋ねると、少女は慌てて首を振りました。
「だ、大丈夫、何ともないわ。解毒ならこの子もできるし」
「そちらの無形精霊は魔力を消耗しているようです。この身が解毒しましょう」
「…そうね。じゃあ、お願いするわ」
少女は素直に頷きました。人工精霊に世話をされる事に慣れている様子です。どことなく上品ですし、きっと貴族なのでしょう。ゼニファーとは全然違います。
解毒の魔術をかけるために彼女へと手をかざします。弱い毒なのであっという間に完了です。
それと同時に、遠くに気配を感じます。ふむ…また状況が変わりました。
「この先にはこれほどの数の魔物はいないでしょうが、軽く休息を取ってから出発する事を推奨します。それでは、これで」
「ええ、本当にありがとう。あなた達が合格できるよう祈っているわ」
60秒で任務完了です。では、シオの元へ向かいましょう。




