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少女と騎士の秘密の物語

 戦争は、すべてを奪っていった。



「シド」


 聞き慣れた声で、聞き慣れた声音で名前を呼ばれる。


 戦争で親を亡くし天涯孤独となった自分を拾ってくれた人のいい領主の屋敷には、同じ年頃の可愛らしい少女がいた。


 金色の髪に蒼い瞳。顔立ちの整った美しい少女は、年が近いこともありやたらと俺にまとわりついてきた。


 兄妹のように過ごしながらも、決して交わらない見えない主従の線を引いて、ずっと接していた少女。


 そんな平穏な暮らしは少女が15を数えた日の翌朝、今にも泣きそうな少女の顔から嘘のように簡単に崩れ去った。


「私、皇太子殿下と――っ」


 その先は、泣き声に遮られて続きを聞くことはなかったし、あえてこちらから聞くこともしなかった。


 さほど時を待たず、しつこいほどにまとわりついてきた少女の姿は領主の屋敷からかき消え、その幻影を追うように屋敷をうろついている自分に気づいた。


 利権による理由で小さな身体で単身遠くの大国へ嫁いだ少女。そのすがるような蒼い瞳が焼き付いて消えない。


 気づいた時には、領主に頼み込んで騎士見習いとして少女を追っていた。


 後ろ盾のないただの若造の見習いには不条理なことも多かったが、良い人にも恵まれて運は良かった。




 騎士の叙任式を経て、乳母と一緒に小さな幼児を抱いた金色の髪に蒼い瞳の女性と顔を合わせる機会があった。


 正直子どもが子どもを抱いている印象だったが、その顔には記憶にはない母としての慈愛が宿っていた。


 幼児に向けられていた女性の視線と交錯した瞬間、その蒼い瞳は大きく見開かれ、泣きそうな、見慣れた少女の笑顔が溢れた。


 その瞬間、少女を欲していたのは、自分の方だったとどこかでするりと理解した。



 その数年後、皇族付きの正騎士としてシド・ヴァーレンの名が国内に知られることとなる。


 遥か昔の、未来に続く始まりの記憶。


 幼い少女との、秘密の思い出ーー。

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