7 図書室
いいね、ブクマ、ありがとうございます。
ー本当に、グレイシーとエルド様は仲が良いよねー
なんてほのぼのしていると
「あら、フェリシティ様。お久し振りですね。」
ティアリーナ様に声を掛けられた。
「殿下、ティアリーナ様、お久し振りでございます。ご挨拶が遅れてすみません。」
と、軽く頭を下げて挨拶をするけど、勿論、第一王子からの挨拶は無い。
ー予想通りですけどねー
「それでは、しつれ──」
「すみません。ご挨拶をしても良いですか?」
一刻も早く立ち去ろうとした私に、ティアリーナ様の向かい側に座っていた男の人が立ち上がり、私に声を掛けて来た。
「私はディラン=カレイラです。宜しくお願いします。」
「ご挨拶、ありがとうございます。私はフェリシティ=エルダインです。宜しくお願いします。」
ーディラン=カレイラー
確か、宰相を務めるカレイラ公爵の嫡男で、第一王子の側近の1人と言われていた筈。やっぱり、今年の生徒会役員のメンバーはそう言う意味で決められているのかもしれない。
ならば、婚約者は……ティアリーナ様で決まりなのでは?
「王城で時々お見掛けして、お話がしてみたいと思っていたんですけど…なかなか。学園では、学年が違うので会えなかったし。ようやく会えて、挨拶ができて嬉しい限りです。」
ニッコリ微笑むカレイラ様。令嬢達が見ると顔を赤らめるだろう微笑み。それでも、私には、何となく……胡散臭く見えて仕方が無い。第一王子の側近候補、且つ、あの腹黒で有名な宰相様の子息だ。表面通りの性格ではないだろう。
はぁ─。王妃教育を受けているせいか、他人を色んな角度から見たり、裏を読む癖がついた。他人を疑う事が当たり前になった。それが良い事なのか──。
「その様に思っていただき、ありがとうございます。ですが、ここは図書室ですし、勉強のお邪魔をしてはいけませんので、今日はここで失礼させていただきます。」
「そうですね。また…機会があれば…ゆっくり……」
と、カレイラ様は更に微笑んで、手をひらひらと振った。
「フェリシティの雰囲気が、一瞬でガラッと変わってビックリしたわ。」
「そんなに変わってた?」
「変わってたわよ!コレ誰?って思う位変わってたわよ!」
私とグレイシーは、あれから、何となく図書室で過ごす事が躊躇われてしまって、そのまま本を探す事なく教室に戻って来た。
「今では意識はしていないけど…殿下が居る所ではソレが普通になってるのよ。」
今更、殿下に笑顔を振り撒いてどうする?どうなる?
『お前は、いつも笑っているな。いや…笑っているだけで褒められて…楽で良いな。』
笑っているだけ?楽で良い?褒められる?
必死で笑って自分を隠していただけ。
王妃教育において、王妃様や先生は滅多に褒める事はない。それは、5人の候補者達を平等に扱っている為だ。逆に、虐げたり貶める事もしない。
笑っているだけで褒められる事なんて、ある訳がない。
お互いが笑顔で過ごせるように─と願ったのは──
目を瞑って軽く息を吐く。
ー今となっては、どうでも良い事よねー
今では、貴方に笑顔を向けるなんて事はしない─したくないのだから。
*その頃の図書室にて*
「エルドは、本当に婚約者と仲が良いね。と言うか、本当にオルコット嬢の事が好きなんだね。」
「そうだよ。俺はグレイシーが好きだよ。だから、あまりグレイシーには近付くなよ、ディラン。」
「私に、他人の者を取る趣味は無いからね。それにしても……エルダイン嬢は、本当に年下とは思えない程に落ち着いた雰囲気を持ってるね。」
「あら?それは、私に対する厭味…かしら?」
ティアリーナは、小首を傾げてディランに視線を向ける。
「まさか!ただ単に、エルダイン嬢に対しての印象を語っただけですよ。完璧なティアリーナ様には誰も勝てませんよ。」
「ふふっ。ディラン様は、本当にお口が上手ですね。」
と、ディランとティアリーナは、お互い傍から見ると卒倒しそうな程の美しい微笑みをたたえているが……
ー本当に、この2人は裏では何を考えているのか…ー
と、エルドは顔を引き攣らせた。
ーいや、一番何を考えているか分からないのは…メルヴィルかー
と、エルドはチラリと視線だけをメルヴィルに移す。
基本、メルヴィルは誰に対しても物腰柔らかい対応をする。勿論、王族の一員である為、それなりの腹黒さや裏はある。なければ王族としては問題だ。
俺が見て知る限り、メルヴィルはティアリーナ様をはじめ、婚約者候補者には同じ様に接していた筈だった。
それが、何故か幼馴染みでもあり一番仲の良かった令嬢にだけ冷たくなった。それが、俺の大好きな婚約者であるグレイシーの幼馴染みでもあり、大親友のフェリシティ=エルダイン嬢の事だと知ったのは、つい1年程前の事だった。グレイシー以外の令嬢には興味が無くて…「え?知らなかったの?」と、グレイシーに呆れられてしまった程、周知の事実だったらしい。