6 日常②
ーシリル=エルダインー
この兄も、義母に似ていて美男子である。妹と同じで金髪に青い瞳をしている。肩の下辺りまで伸びた髪を後ろで一つに纏めている。
この兄とは、邸内で会えば普通に挨拶もする。挨拶だけで、会話を交した事は………記憶の限りでは無い。
直接何かされたり言われた事は無いが、私が妹や義母に何か言われていても、加担する事はないが、助けてくれる事もない。
私にとっては空気?みたいな存在だろうか?
いまいち掴み所のない人だ。ただ、その兄が、今年2年生になり、生徒会役員に選ばれたとかで義母が嬉しそうに、態々私の部屋迄やって来て教えてくれた。
と言うことは、1年生ではあるが、第一王子は生徒会長を務めると言う事が既に決まっている為、2人には接点ができると言う事。それは、将来、王子の側近に成り得る可能性があると言う事だ。そりゃあ、義母も態々こんな端っこの部屋迄やって来る筈である。
カーソンも、兄は妹と違って優秀で、学園での成績も次席をキープしていると言っていた。それに、領地運営についても、父の補佐を時々ではあるがしているらしい。
兎に角、今はまだ私との間には特に問題も起こっていないから、私も今のままの距離感を保っている。
現状で一番厄介なのは、使用人達かもしれない。
義母が雇った者達だから、義母と同じように私への態度が悪いのだ。基本、ココ以外の者が私に付く事はない。何があっても私の手伝いをする事はない。流石に洗濯はしてくれるが、部屋の掃除は私とココでしている。
料理も一応は料理人達が作ってはくれるが、まともな物はあまり出て来ない。
ー料理人失格じゃないの?ー
その為、自室に小さいキッチンを作り、そのまともではない料理を、私とココで更に料理をしてから食べるようになった。
そのお蔭で、私は料理も上手くなった。
何なら、ココと料理ができて楽しいくらいだ。
まぁ、ココは最初の頃は悔しそうに泣いていたけど。
こんな状況を、領地に居る父は知っているのか?
それは、私には分からない。
勿論、義母が態々そんな事を父に知らせる筈はない。
カーソンにも、カーソンに被害が出ると困るから─と、父に報告しないように言ってある。だから、父は知らないだろうし、私達がどんな暮らしをしているのかも…気にしたりはしていないだろう。知ったところで、何かしてくれるとも思えない。
ならば、このままで良いと思っている。
後2年だ。学園生活が終わると、婚約者の決定と社交会デビューが待っている。
私が婚約者になる可能性は殆ど無い。そして、独り立ちができる年齢になるのだ。そうなって私がする事は一つだ。
今の私には、その事だけを目標に日々を過ごしているのだ。
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学園生活が始まり3ヶ月も経つと、1年生の私達も学園生活に慣れて来た。因みに、同じクラスの第一王子とは挨拶以外の言葉は……相変わらず交わしていない。挨拶をする時でさえ視線が合う事はない。その#明白__あからさま__#な態度は、いっその事清々しい。以前はそんな態度に胸が痛んだりもしたけど─
今では何の反応もしなくなった─
「フェリシティ、私、放課後に図書室に行きたいんだけど、どうする?」
「なら、私も付き合うわ。」
グレイシーも私も読書が好きで、幼少の頃からよく一緒に本を読んでいた。だから、勿論私も喜んで図書室に付いて行く。
「あぁ、流石はティアリーナ嬢だな。」
「ふふ。お褒めいただき、ありがとうございます。」
放課後に図書室にやって来ると、そこには第一王子をはじめ、生徒会役員の数名が勉強をしていた。
第一王子の横に、婚約者候補の1人ティアリーナ様が座り、机を挟んで第一王子の前にエルド様、ティアリーナ様の前に男の人が座っている。
その第一王子は、フワリと優しい微笑みをティアリーナ様に向けていて、ティアリーナ様も嬉しそうに微笑んでいる。
まるで絵に描いたような恋人同士だ。
「はいはい。仲が良いのは分かりますけど、そう言うのは私達が居ない時にして下さいね。」
と、エルド様が呆れたように突っ込んだ。その言葉に第一王子もティアリーナ様も特に反応せず、ただただ笑っているだけと言う事は、これが通常の事なんだと言う事が分かる。
「ん?あ、グレイシー!」
その彼等からは見えない所に居たのにも関わらず、エルド様がグレイシーに気付き、その瞬間パッと満面の笑みを浮かべて、周りを気にする事なくグレイシーの所まで足早にやって来た。
「本を探しに来たのか?手伝おうか?今日は一緒に帰れないから、寂しいなと思っていたんだけど…会えて嬉しいよ!」
ーいやいや、同じ教室で授業を受けてたからね?ー
とは、グレイシーも困ったような、でも嬉しそうな顔をしているから、言わないけど。
「グレイシーは、本当にエルド様に愛されてるわね。」
「っ!フェリ!!」
「あぁ、私はグレイシーが大好きだよ!」
「なっ───!!」
プシュゥ─と煙が出てるんじゃない?と思える程、グレイシーは顔を真っ赤にさせた。