ココの日常②
この話は、新作になります。
お久し振りです。ココです。
奥様─フェリシティ=チェスター辺境伯夫人─は、今日も綺麗な淡い藤色の瞳で穏やかに過ごされています。チェスター家には、奥様の目の前で扉を閉じる者も、硬い物を硬いまま料理として出す者も居ません。
ーそれが当たり前ですけどね!ー
奥様に何かしらしていた、エルダインの使用人達のその後の行方については、今でも訊く事もなければ知りたいとも思っていない。知ったところで、恐怖しかないから。
「流石はシリル殿。綺麗な仕事っぷりだな」
と、シリル様からのその後の報告書を読みながら、腹黒笑顔で微笑んでいる旦那様であるエスタリオン=チェスター辺境伯。
態々、私が居る時に読んで呟かないでいただきたい。そんな情報は要らないんです。
「アナベル嬢も、相変わらずコールドラン子爵に可愛がられているそうだ。以前の様な、無邪気な笑顔は無いそうだけど…」
壊れている──
そう聞こえたのは……気のせいではないでしょう。
以前から居た、コールドラン子爵の愛妾達も、それなりの年数を共にしていた筈なのに、その愛妾達を別邸に追いやり、まだまだ若いアナベルを後妻に据えたのだ。直ぐに捨てられたり離縁される事はないでしょう。アナベルにとっては、まだまだ地獄が続くと言う事だ。
「ブリジットの生存確認が取れたそうだよ」
「…………」
ーえ?それ、私が聞く必要ありますか?ー
母娘そろってコールドラン子爵に強制送還された後、ブリジットがどうなったのか─は、シリル様も旦那様もハッキリ把握する事ができなかった。それ故に、ある意味コールドラン子爵は情報管理が優秀だ─と褒めていた。
「ブリジットも、コールドラン子爵の趣味に付き合わされているらしいよ。アナベル嬢も知らない……邸の秘密の地下室で……」
ーそれ以上は止めて下さいー
確かに、私は先々代辺境伯様にフェリシティ様の護衛となるべく、みっちり鍛え上げられ、そこら辺の男性よりも腕に自信はあるし、恋愛には全く興味は無いけど、そう言う話は正直怖い。
ー一応、私もうら若き乙女なのでー
勿論、アナベルもブリジットも自業自得であって、可哀想だとも思わないけど、怖いものは怖い。怖い話を聞かされた日は、どうしても気分が下がってしまう。おそらく、私がそう言う話が苦手だと分かっていて、旦那様は態と私に報告しているんだろう。
私が奥様と仲が良いから
ただ単に、毎日いつも奥様の側に居る私に嫉妬しているのだ。
「器の小さい旦那は嫌われますよ?」
「…………何を言っているのか分からないが?」
「そうですか。それは、失礼致しました。ただ、旦那様の執務室から出て来て、私に元気が無い時は、お優しい奥様が“リオに何かされたり言われたりしたの?”と、声を掛けてくれたりするんです。私も、奥様にご心配をお掛けしたくはないのですが──」
「うん。そうだな。フェリに心配を掛けるのはよくないな。2人の話はこれで終わりにしよう!」
「ありがとうございます」
本当に、旦那様は相変わらず奥様に弱い。
結婚してから更に過保護ぶりと溺愛ぶりが加速している。私から見ると「鬱陶しくないのかな?」と思うけど、奥様の旦那様を見つめる瞳の色が淡い藤色をしているから、嫌がっていないのでしょう。それに、幸せそうに笑っているから。
「グレイシーはエルド殿と仲良くやっているそうだ。落ち着いたら、遊びに行くのも良いな。その辺り、フェリに話しておいてくれ」
「承知しました」
グレイシー様とエルド様とは、奥様と旦那様の結婚式で少し会話を交わしたのが最後でした。お互い新婚でバタバタと忙しかった事もあり、なかなか会うことができない─と、寂しそうにしていたから、きっと喜ぶでしょう。
「エルダインには、寄る予定ですか?」
「それは、フェリに任せるよ」
色々あって微妙な関係の3人。直ぐに関係を築き直す事は無理だろうけど、そのうち3人で穏やかにお茶をする日が来れば良いな─と思っているのは、私の心の中に留めている。
「後は……ディラン=カレイラが、候補だったノーラ=ハルミトン嬢と婚約したらしい」
「ディラン様とノーラ様が…」
一時ではあったけど、ディラン様は奥様に興味を示していた。“好き”と言う感情ではなく、“面白いモノを見付けた”と言う感情だったと思う。面倒くさい人に目を付けられた─と思ったりもしたけど、そこは旦那様やシリル様やエルド様のお陰で払い除ける事ができた。
そのディラン様は、ジュリアス王太子の元で次期宰相の候補となっているそうで、未だにシリル様に側近として王都に来い─と、勧誘の手紙を送っているらしい。シリル様が、それに応える事はないだろう。
「王太子ジュリアス様も、既に婚約者が決定したそうだ。赤色の瞳で、赤色の宝石の王太子妃様なんだそうだ」
ジュリアス様にも、もともと婚約者候補が3人居たけど、早いうちから1人に絞られていたそうで、奥様の時とは違い、何のトラブルもなく決まったとの事だった。
ーただ単に、クズ(元)王子とT嬢がおかしかっただけだったんだろうけどー
「他に何か訊きたい事はある?」
「ありません」
そもそも、もうコルネリアの事はどうでも良い。後日談なんてものは要らない。奥様が平和で幸せならそれで良い。
「それじゃあ、今日のフェリはどうだった?」
「今日の奥様は───」
そう。私が時々、夜の旦那様の執務室に呼び出されるのは、起きている奥様に会えなかった日で、その日、奥様がどう過ごされたのか─を訊く為だ。
ー怖ろしい執着心だよねー
そして、私からの報告が終わると、いそいそと寝る支度を始め、いそいそと奥様が寝ている夫婦の寝室へと入って行くのだ。子供ができるのもあっと言う間かもしれない。腹黒だけど美男と美女な夫婦だから、きっと可愛らしい子が生まれるでしょう。
「今から楽しみだわ」
そう思うと、少し沈み掛けていた気持ちが浮上して、穏やかな気持ちで寝る事ができた。
******
「リオ、お疲れ様」
「フェリ!起きてたの!?」
もう寝ていると思っていたフェリが起きていた。まだ起きていると知っていたら、ココと話をせずに寝室に来ていたのに。
ーえ?ー
愛しい妻であるフェリを抱き寄せようと手を伸ばしたところで、ピタッ─と動きが止まった。
フェリの瞳の色が……少し青味の掛かった藤色になっている。
フェリの普段の瞳の色は淡い藤色で、感情が無になれば青色になる。怒っている時も青味を帯びる。
「怒ってる?」
ー俺は、フェリに何かしてしまった?ー
「怒ってるって言うか…リオ、ココが、時々顔色を悪くして執務室から出て来るんだけど、何か心当たりはない?ココに何を訊いても“何もありません”としか言わないから…」
このフェリの言葉からして、フェリは“ココが何かをしでかして、当主である俺に怒られた”なんて事がある筈はない─と思っていると言う事だ。フェリの、ココに対する信頼度は俺以上のものがある。
「あー…それは、警護や警備について、俺が色々煩く言ってしまったから…かも?」
ー“嫉妬して、仕返しした”とは言えないー
じっと俺を見つめた後、フェリは軽くため息を吐いて、少し困ったような顔で「あまり、ココをイジメないでね?」と言われてしまった。素直に「分かった」と返事をしてからもう一度フェリの瞳を見ると、そこには綺麗な淡い藤色があった。
「分かってくれたら良いわ。それじゃあ、そろそろ寝ましょ──」
「夜に起きてるフェリと、このまま素直に寝れると思ってる?」
「──え?」
何かを言われる前に、そのままベッドに押し倒して口を塞ぐ。深いキスを続けるとフェリも抵抗する事を諦めて、俺を受け入れてくれた。
❋ありがとうございました❋
(*ˊᗜˋ*)ノ°•·.*ꕤ*ꕤ*.゜
読んでいただき、ありがとうございました。




