53 結婚後のそれぞれ②
*グレイシー&エルド*
グレイシーの幼馴染みであり、親友のフェリシティは、学園の卒業式の日の夜に開かれた夜会で、見事に第一王子であるメルヴィルの婚約者を、ティアリーナ様にさせる事ができた。
会場に、王妃陛下と共に入場して来たティアリーナ様の頭に輝いていたのは─ブルーダイヤモンドが輝くティアラだった。
あの時あの会場に居た殆どの人達は、第一王子が立太子しなかった事を除いては、何も疑問に思う事なくそのティアラとティアリーナ様を見て祝福しただろう。真実を知っているのはほんの数人だけ。あの時の王妃陛下の少し厳しい顔からすると、王妃陛下も知っていたのだ─と言う事が分かった。
よく見ると、あのブルーダイヤモンドの色も、ティアリーナ様の青とは違っていた。ティアリーナ様の青はもっと濃い色なのだ。あのブルーダイヤモンドの色は、フェリシティの青色の瞳の時の色に……そっくりだった。
ーまぁ、今となってはどうでも良いけどー
当たり前だけど、あのお馬鹿2人は国王両陛下が認めた2人だ。そのまま婚約を結び、先日結婚式を挙げた。元王子と公爵令嬢の結婚式とは思えない程の、ささやかな式だった。
ティアリーナ様の実父であるグレイソン公爵に至っては、式の間ニコリともしなかった。
ーあの2人の結婚は、ある意味王妃陛下からの罰だったのでは?ー
「グレイシー?また考え事?」
「エルド…」
入浴を終えたエルドが、ベッドの上に座っていた私のところまでやって来ていた。
そう。私とエルドも学園卒業後すぐに結婚をした。もともと、エルドの希望で卒業後すぐ結婚式を予定していた為、予定通りに結婚したのだけど──その式にフェリシティとエスタリオンが参列する事はできなかった。それどころか、あの夜会の後、日を置かずにエルダイン領へと帰ってしまい、そのままカルディーナ王国のチェスター領へと行ってしまった為、お別れの挨拶すらできなかったのだ。
勿論、手紙のやり取りはあるし、結婚のお祝いと手紙は貰ったし、落ち着いたら会う約束もしている。
「エルドは……お馬鹿2人の事、どう思う?」
「お馬鹿2人って……。ま、自業自得だろうね。自分で動かず無条件で相手を信じた愚者と、嘘で他人を陥れて喜んだ令嬢だ。お似合いだと思うよ?そこに、信頼関係なんて、築けないだろうけどね。」
ー相変わらず、エルドは辛辣だ。本当の事だけどー
と、また考えてしまいそうになっていると、エルドに優しく押し倒されてキスをされた。
「ベッドの上で、メルヴィルの話をするグレイシーが悪い。」
「はい?エル───ちょっ─待っ──!」
スイッチの入ったエルドは──本当に容赦が無い。普段は優しいし、私の嫌がる事なんてしないのに。
「その嫌は、嫌じゃないだろう?」
なんて、色気たっぷりに意地悪い顔で見下ろしてくるのだ。
ーそんなエルドに、胸がキュッとなるのは……絶対本人には言わないけどー
兎に角、フェリシティの事はエスタリオンに任せておけば大丈夫だろう。
私は私で、これからエルドと共に幸せに過ごして行くのだ。
ー明日は……無事に起きれるかしら?ー
*ティアリーナ*
『メルヴィルに色の指摘をしなかったのも、色違いで選ばれた事をティアリーナ嬢に伝えた事も、そんな理由で結婚させる事も───貴方達2人への罰よ。今迄、無条件で信じ合って来た2人なのだから、こんな事位で信頼関係が壊れる事はないでしょう?お似合いの2人だと思っているわ。』
あの時の王妃陛下の笑顔は、一生忘れる事はないと思う。
それ程迄に、王妃陛下はお怒りだった。
私の行いは、全て把握されていた。
ヴィルの隣に立ちたい─ただそれだけを望んでいた。その為に、邪魔だったフェリシティを排除したかっただけ。
それなのに─
ティアラに輝くブルーダイヤモンドを目にした時、本当は少しの違和感を覚えた。私の瞳の色よりも薄かったから。それでも、王妃陛下付きの侍女長が持って来たのだから、私の物に違いないと思ったのだ。
愛しい人との結婚が罰になる─
そんな事、考えた事もなかった。
『───これからは、私とティアリーナの2人で……頑張っていくしかない。』
あの時、ヴィルは私にそう言った。
あの時の私は、その言葉を肯定的に捉えた。“これから2人で共に頑張ろう”と。
でもそれは……違ったのだ。
結婚式も、元第一王子と公爵令嬢の結婚式とは思えない程の小さな小さな式だった。父からは、未だに祝の言葉すら言われていない。
それに何より──
初夜すら未だに迎えてはいない。それどころか、夫婦の寝室にヴィルが来る事すらない。数日、数ヶ月と待ったが、私達2人の距離が縮まる事はなかった。
「せめて義務として、後継ぎを残す為に─」
と恥を忍んで懇願した事もあったけれど──
「───すまない。」
その一言で終わってしまった。
その時に、私の心は壊れてしまったのかもしれない。それからの私は、何の痛みも感じなくなった。
ヴィルが私に笑顔を向ける事がなくても、閨を共にする事がなくても、私はずっと幸せそうに笑っていられるのだ。
私は、フェリシティから笑顔を奪った。
そして、私は笑顔の仮面を被りこれからを生きていく。
これが…私への罰なんだろう──。
*フェリシティ*
『フェリ、今更だけど、俺を選んでくれてありがとう。』
薄れた意識の中で、リオがそう囁いた後、私をギュッと抱きしめる。その温もりにはホッとする。
だけど───
抱きしめられたままでは…色んな意味で眠れない。こうなってしまえば、どう足掻いてもこの腕の中から出る事はできないのだ。抜け出す事は諦めて、視線をリオの顔へと向けると、スヤスヤと眠るリオが居た。
ーこの格好、苦しくないのかしら?ー
領地の視察で、今日は5日ぶりに帰って来たリオ。
色々言いたい事はあるけど──
「リオ、おかえりなさい。今更だけど、これからもよろしくね。」
と、私ももう一度、リオの腕の中で眠りに就いた。
これにて完結となります。
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