48 義母と妹
リビングルームに入ると、既に父と義母と妹が椅子に座っていた。義母と妹はニヤニヤと嗤い、父に至っては無表情だ。
「フェリシティさん、遅かったわね。滅多に食堂にも来ないし…使用人達の手を煩わせないようにして欲しいわ。」
ー“顔を合わせて一緒に食べたくない”と言ったのは、誰だったかしら?ー
「………」
「ふん。返事もできないのね?まぁ良いわ。旦那様がお待ちなのよ。早く座りなさいな。」
今日の義母は、いつもよりも口撃が強い。私が、第一王子の婚約者にならなかったからだろう。それと、義母はまだ、第一王子が立太子しなかった事は知らない筈だ。
後は、父が義母の味方だと信じているから。
「フェリシティさん、第一王子の婚約者に選ばれなくて残念だったわね。笑わないお人形さんは、つまらないものね。王妃教育も…幼馴染み故に配慮されたとか…それじゃあ、仕方無いわよね。」
ふふっ─と、義母は嗤う。
「そんな問題有りなフェリシティさんでも、喜んで貰ってくれるって仰る方が居るのよ。それは──コールドラン子爵よ!」
“コールドラン子爵”
って…確か……50歳も超えた人じゃなかった?本妻が病気で亡くなった後、迎えた嫁も3、4人いるとかいないとか……。変な趣味があるとかないとか……そんな相手に17歳の私を放り込むと?
「──コールドラン子爵と言えば…最近大きな事業が成功して、更に財力と貴族社会での力をつけて来た家だったな。」
「えぇ!そうですわ!そのコールドラン子爵と縁続きになれますのよ!良い縁組みだと思いませんこと?」
義母は、父が同意したと思ったのか、パアッと更に笑みを深めて父を見る。妹は相変わらずニヤニヤと私を見ているだけだ。
「そうだな。コールドラン子爵の事業と資産には…興味があるな。」
「では、この縁組みのお話、進めても────」
「しかし、残念ながら、フェリシティの相手はもう決まっているから、相手をアナベルに替えてもらおうか。」
「「──は?」」
無表情のまま言い放った父の言葉に、間抜けな声を出したのは義母と妹だった。
「フェリシティ…さん…に…相手がいる?」
「あぁ、そうだ。言ってなかったか?」
「え?だって…フェリシティさんは、昨日迄は第一王子の婚約者候補でしたわよね?それなのに、昨日の今日で…とは…」
「これは覆る事はないよ。既に、国王陛下からの許可を得ているからね。それに──コールドラン子爵との婚約の話だが…。実は、既にシリルから聞いていたんだ。」
「シリルから!?」
ギョッと驚く義母。きっと、義母は兄にも言っていなかったんだろう。
兄は、本当に色々と凄い人なのかもしれない。
「だからね。フェリシティの婚約の許可を貰うついでに、コールドラン子爵とアナベルの婚姻の許可も国王陛下から貰って来たんだ。」
「婚姻……ですって!?」
今迄ニヤニヤしていた妹が、今度は顔を真っ青にして震え出した。
「そうだ。婚約ではなくて婚姻だ。良かったなぁ。お前達2人が、フェリシティを思って、この相手なら良い─と選んだ相手なのだろう?ならば、その相手と婚姻できて……嬉しく無い筈はないな?」
「─っ!ちがっ──!」
「そ……そうですわね!ベル、良かったわね!」
「お母様!?」
父に取り繕おうとする義母に、焦っている妹。それを笑いを堪えて見ている私。
「何で、お姉様に相手がいるの!?嘘に決まっているわ!」
「─嘘ではないよ。フェリは、今日、正式に俺の婚約者になったからね。」
妹が父に向かって叫び出した時、リオが部屋に入って来た。
「なっ!リオ様!?」
「──アナベル嬢に、愛称で呼ぶ許可をした覚えはないが?」
「──っ!」
リオの圧倒的な笑みで、妹はビクッと体を震わせて黙り込んだ。
「フェリは、これから俺と一緒にカルディーナ王国に移り住んでもらう。それに、フェリは既にエルダイン辺境伯の籍から抜けて、カルディーナ王国の伯爵家の養子に入っているから、何をどう足掻こうと、フェリがコールドラン子爵と婚姻する事は無い。」
「は?籍が抜けて?」
「あぁ、これも、ブリジットには言っていなかったか?フェリシティは、既に、カルディーナ王国の伯爵令嬢だよ。だから、もう、フェリシティに手を出さないようにな。さて、これからは忙しくなるな。フェリシティとアナベルを送り出す準備で……。」
と、リオの様な腹黒い笑顔ではないが、父もニッコリと笑う。
「あ、それともう一つ。ブリジット、お前もこのエルダイン辺境伯の籍から抜いたからね。」
「──は?」
「理由は、不貞行為と、辺境伯である私への虚偽と、フェリシティへの虐待等々─だね。それでも、コールドラン子爵が、母子揃って面倒を見てくれるらしいから、これからも2人一緒に居られるよ。良かったね。」
「──なっ!え?ちょっ──っ!?」
なおも叫ぼうとする義母と妹を、どこから現れたのか分からない人達に拘束されて、そのまま部屋から連れ去って行った。
「あれ、俺の配下なんだ。」
と、リオがコッソリ教えてくれた。




