44 父の真実
「リオとおじ様が、よくエルダイン領に来ていたのは、母と私を護る為だったの?」
「父はそうだったかもしれないけど、俺は、サファイアの瞳の事もソフィア様の置かれた状況も、全く知らされてはなかった。知ったのは、父が亡くなってカルディーナに帰ってからだった。だから、俺は、俺の手でフェリを護りたくて……そこから必死で頑張って………。そうしたら、フェリがメルヴィルの婚約者候補者になったって聞かされて……。」
リオの眉間にグッと皺がよる。
「それに関しては…まぁ…フェリシティ嬢を守ると言う意味もあったのよ。」
と、王妃様が申し訳無さそうに呟いた。
もともと、第一王子とは仲が良かったのもあり、王子の婚約者候補ともなれば、簡単に手を出す者は居ないだろう─と。
「それなのに、違う意味で苦労を掛けてしまって……本当にごめんなさいね。」
「──それで、俺の色々な準備が整ったのが2年前。後の事は、フェリも知ってるだろう?失恋覚悟で来たけど……無礼を承知で言いますけど………メルヴィル殿下には、感謝してます。」
リオが国王両陛下に頭を下げながら言うと、国王両陛下は怒る事もなく、少し困ったように笑っていた。
「──丁度良いと思いまして…国王両陛下。こちらを…読んでいただけますか?」
ある程度話が落ち着いたところで、リオが何枚かの紙を国王様と父に手渡した。
「───何と言うか…手際が良過ぎないか?」
「メルヴィルと同じ年だとは思えないわね。」
「──シリルが手伝ったか?」
国王様、王妃様、父がそれぞれに反応するが、私にはサッパリ分からない。そのまま黙って4人の様子を見ていると、国王様が苦笑しながら説明してくれたのは──
「これは、フェリシティ嬢がエルダイン辺境伯の籍から外れる事、そして、カルディーナ国のとある伯爵家に養子に入る為に必要な申請書だ。それと、おそらく、エルダイン伯が持っているのは……」
「えぇ、一応の父であった私の、エスタリオン殿とフェリシティの婚約やこれからについてのモノですね。」
「──はい??」
あれ?私、まだ隣国に行くなんて言ってな───いや、リオからの告白を受けた時点で、決定事項になってしまったのかなぁ?いやいや、でも、進み具合が早過ぎない?昨日の今日だよね?あれ?兄は一体、何をしたの?
「私と王妃は、これで席を外そう。其方ら3人は、もう少し話をした方が良い。この部屋を自由に使ってもらって構わない。チェスター辺境伯、こちらの書類は、帰る迄に調えておこう。」
と言って、国王両陛下はそのままサロンから出て行き、城付きの女官も新たに紅茶を用意してから出て行き、サロンには父とリオと私の3人だけになった。
「何でも訊いてくれ」
と、言われても──
取り敢えず、混乱したままの頭を整理するように、分からない事や気になった事を質問していく。
「グレイシーのお母様─ペティ様は、お母様と学生時代からの友達だと言っていたのだけど…それは嘘?何か…サファイアの瞳と関係があるの?」
これに答えたのは父だった。
「いや、そのまま本当の事だよ。ペティ様はカルディーナ国に留学していたんだ。その留学先で、平民だったけど奨学制度を利用して入学したソフィアと知り合ったらしい。本当に仲が良かったみたいで、再会できた事を喜んでいたよ。サファイアの瞳の事は言えないから、ブリジットが乗り込んで来た時は……私は、本当に殺されるかと思った位に…怖かったよ。」
シュンと音がしそうな程に項垂れる父。
ーあれ?お父様って…こんな人だった?ー
会う時はいつも無愛想で、私の話を聞く事がなかった。そもそも、同じ邸に居ても、殆ど顔を合わせる事がなかった。私に、無関心だった。
「あのー…お父様は…私の事が……嫌いではなかったのですか?」
「へ?嫌い?何故?」
“え?何故そんな質問するの?”みたいな顔で固まる父。そんな顔をされると、私の質問が悪かったのかと思ってしまう。
「あの…私の、ブリジット様からの仕打ちや、タウンハウスでの境遇…知ってましたよね?それでも、そのまま放置でしたよね?」
今迄は、“父は知らないのでは?”とも思っていたけど、私を匿っていると言うのなら、全て把握していると言う事だろう。
「あぁ……それはね……私は、嘘がつけないんだ。何と言うか…エスタリオン殿やシリルのように、腹芸ができないんだ。かと言って、武に長けているか?と言われれば─武の才も全く無い。私にあるのは、領地運営の能力だけなんだ。」
「──えっと?」
自分で自分の事を言いながら、泣きそうな顔をする父。
ーえ?これ、誰ですか?ー
引き攣りそうな顔をグッと我慢して、ギギギッと音が出そうな位に重くなった首を動かして、リオに助けを求めるように視線を合わせる。
「エルダイン伯は……本来の“辺境伯”には向いていなかった─と言う事だよ。」
と、リオは苦笑した。
ーあれ?お父様、泣いてない?ー
 




