43 ソフィア
「─お母様が……カルディーナ王国の孤児院で?サファイアの……瞳?」
情報過多なのか、情報不足なのか──リオが何を言っているのか……何を言いたいのか……。
私は何も言えないまま、リオをジッと見つめ返した。
すると、リオは目を細めて笑った後、また話を続けた。
「兎に角、サファイアの瞳を持ったソフィア様を見付けた、その伯爵夫人はソフィア様に声を掛けて、色々話を聞いたらしいんだ。」
ソフィアは平民で、同じ平民で幼馴染みの婚約者が居たが、ある日仕事中に事故死してしまったそうだ。
もともとお互いの両親は既に亡くなっていた為、ソフィアは独りになってしまった。
その時に、ソフィアを召し抱える事を条件に、手を差し伸べて来たのが──
領主だったのだが、この領主には本妻の他にも数人の愛妾が居る50歳手前の男で、後ろ暗い噂も絶えない領主でもあった。その為、その提案を断り、以前より手伝いをしていた孤児院の院長の誘いもあり、孤児達の世話を手伝いながらそこに身を寄せていると言う事だった。
その話を聞いた夫人は、何となく嫌な予感がしたそうで、一旦はその場から去り、取り敢えずと、チェスター辺境伯へと手紙を出し、再び孤児院を訪れて、何とか理由をつけてソフィアを伯爵邸へと連れ帰った。
「それで、その日の夜、その孤児院に数人の男が侵入してね。“青い瞳の女は何処だ!?”と、叫んでいたらしい。ちなみに、嫌な予感がした夫人が、その孤児院に数人の騎士を潜り込ませていたから、被害は何もなかったし、その男達も捕まったそうだ。」
「──お母様は……サファイアの瞳を持っていたから……狙われていた?」
記憶にあるお母様の瞳は、確かに、とても綺麗な青色だった。でも、記憶にあるのは、部屋の中に居るお母様だ。瞳の色に変化があったのかどうかは──分からない。
「王家も動くと言ってくれたそうだけど、王家が表立って動くと、逆に“サファイアの瞳を持つ娘”の存在を知らしめる事になるかもしれない─と言う事で、王家は裏で動く事になったんだ。そこで、取り敢えずの策として、ソフィア様の安全を確保する為に、私の祖父─チェスター前辺境伯が、隣国コルネリア王国のエルダイン前辺境伯に、ソフィア様を暫くの間匿って欲しいとお願いしたんだ。」
リオは、そのまま父に視線を向けると、その視線を受け止めた父が、軽く頷いた後、今度は父が口を開いた。
「私は、エルダイン前辺境伯である父から、私の婚約者としてソフィアを匿う─と言われたんだ。その時の私は……付き合っていた彼女とも別れていたから、了承してソフィアを受け入れたんだが──そこで問題が発生した。エルダインにやって来たソフィアが……妊娠していたんだ。」
「────はい?」
“妊娠していた”───!?
「あぁ。勿論……私の子ではなく、事故死した婚約者殿との子だ。そうなったら、“婚約者”としてではなく、“妻”として迎え入れなければいけなくなってね……。」
と、父(と言って良いのか分からないけど)は、困ったように笑っている。
「まぁ、今時、離婚も珍しくはないし、私は特に結婚したい相手も居なかったから、予定通りにソフィアを妻として迎え入れて匿う事にしたんだけどね?これまた問題が起きてね……。」
ーあー……分かります。分かりましたよ!ー
「別れた筈の元彼女─ブリジットが、私の子を生んだ─と、押し掛けて来たんだ。」
ーやっぱりね!そうだと思った!ー
「えっと…それは…何と言うか……シリルお兄様は……お父様の子である事は…間違いないのですか?」
父が、私の本当の父ではない事は分かったけど、兄は…
「うん。シリルは、私の子に間違いないと思う。ブリジットと別れる前にね…泥酔してしまった事があってね……うん。その時の子だね…。記憶があるから……間違い無いと思う。」
それで、ソフィアは隠したい存在なのに、子連れのブリジットが押し掛けて来た─なんて醜聞を曝け出しソフィアの存在を曝け出した父は、祖父からもチェスター前辺境伯からもこっ酷く叱られたそうだ。
ブリジットは兎も角、シリルに罪は無いし、辺境伯の嫡男となるだろうから─と、渋々ではあるが、2人を認知する事にはしたが、辺境伯に受け入れるのは、ソフィアの件が落ち着いてから─と言う事になった(それが、ソフィアの死後だった理由)。
「そして、ソフィアが生んだ子が、女の子─フェリシティだった。同時にすぐに分かった。フェリシティもまた、“サファイアの瞳”を持っていると──。」
そして、2人を匿う生活をしていると──
「エスタリオン殿の父であるカリム殿が、亡くなったと言う報せが来たんだ。」
ハッとして、私─フェリシティ─は、父に向けていた視線をリオへと移す。
「ひょっとして、リオが急に帰国したのは……お父様が亡くなったから?」
「そう。急に帰る事になったから、挨拶もできなかった。それに、帰国してからは本当に色々あって……兎に角、俺は…フェリを護る為に、祖父や王家の騎士達に鍛え上げてもらう事にしたんだ。」




