4 仇となった?
「それで?今はどんな状況なの?」
グレイシーの部屋にお茶の用意をした後、ココとメリルも一緒に4人でテーブルに着いた。
「状況も何も……何もないわよ。昨日、王城で久し振りに会っただけだしね。」
肩を竦めながら答える。グレイシーが訊いているのは、私と第一王子との事だ。
「本当よ?それに、会ったって言っても挨拶をしただけで、その後にあったお茶会でも喋らなかったしね。」
「えっ!?一言も!?」
「ええ、一言も。お陰でお茶を飲み過ぎた位よ。」
ー本当に、暇過ぎてお茶ばかり飲んでいたから、お腹いっぱいになったのよね…ー
「メルヴィル様とフェリシティ…昔はあんなに仲が良かったのにね…。本当に馬鹿だよね…。」
フンッ─と、グレイシーは私ではなく第一王子に怒りを表す。
仲良く幼馴染みとして育ち、そのまま婚約者候補になり、お互い励まし合って努力していた日々。
徐々に第一王子が笑ってくれる事がなくなって、私が笑わなくなった事。
グレイシーとココとメリルには、全て話している。
「別に、私はもう何も期待してないから。と言うか、何故未だに候補から外れていないのか…そっちの方が気になってるぐらいよ。」
本当に不思議だ。ハッキリ言って、不敬覚悟で第一王子と距離を取った。何度か誘われたお茶会も、辺境地に居るので─と断りもした。そのお誘いの手紙以外の手紙のやり取りもしていない。勿論、お互いの誕生日にでさえ、プレゼントを贈ったり貰った事も、この数年していない。
王妃教育として、辺境地で細々と外国語の勉強だけは続けていたけど。でも、その分他の4人の候補者達とは、教育の進み具合等の差は明らかだろうと思う。
その為、王妃様からも私を候補から外すと言う案が出てもおかしくないのになぁ─と思っている。
「それは、フェリシティが優秀だからでしょう?」
「優秀?」
「私も最近知ったんだけどね?エルドが言ってたのよ。5人の候補者の中でも、フェリシティとティアリーナ様の王妃教育が進んでいるらしいって。だから、フェリシティが領地に引き篭もってても問題がなかったんだろうって。」
「はい??」
と、私が驚いていると、ココが更に爆弾?を落とした。
「進んでいると言うよりは、お嬢様─フェリシティ様がエルダイン領の生まれだからではないでしょうか?エルダインは国内外問わず人気の観光地ですから、お嬢様は幼少の頃から多国語を耳にする機会があり、既に自国以外の4ヶ国語を話せてましたからね。その分他の教育に時間を回せた訳ですから、他の候補者の方達より進んでいたとしても不思議ではないでしょう。フェリシティ様と殿下の仲云々は抜きにして、王太子妃、王妃としての資質は問題ないと思います。なので、期限迄、フェリシティ様が候補から外れる事は無いかと……。」
確かに、小さい頃から母や父と共に領地内巡りに付いて行き、そこで会う人達─他国からの観光客達と、拙いながらも頑張ってその人達の国の言葉で会話をするようにしていた。その方が、相手も色々と話をしてくれるから。嬉しそうに笑ってくれるから。そんな感じで、母が儚くなる迄には4ヶ国語を話せるようになっていたけど─。
「それが、仇となったのね……。」
「仇となった──って。」
ポツリと呟いた私の言葉に、グレイシーとココとメリルが苦笑する。
「後2年か…。兎に角、このままいけば、私が選ばれる事は無いと思うから、私はこのままでいくわ。」
「それがフェリシティにとって良い事かどうか分からないけど…私は何があってもフェリシティの味方だからね!」
「「私もです!」」
グレイシーの言葉に、ココとメリルが笑顔で同意してくれた。
「ありがとう。」
と、私も笑顔でお礼を言った。
*ティアリーナ=グレイソン*
筆頭公爵家の長女。
緩く波打つ金髪の髪に、空を表す様な真っ青な瞳。誰が見ても10人が10人、彼女の事を美人だと答えるように綺麗な方だ。
年は第一王子や私よりも一つ年上であり、どうやら、私の義兄と同じクラスだそうだ。成績も常にトップをキープしているらしい。
ーもう、ティアリーナ様でよくない?ー
と、毎日のように思っている。
*ミンディ=パティロイ*
侯爵家の長女。
茶髪に茶色の瞳。見た目は庇護欲を唆られるような雰囲気を持った可愛らしい方だけど─内には肉食獣を飼っているとか─。
ー肉食獣って…ー
*ノーラ=ハミルトン*
侯爵家の次女。
赤い髪に緑色の瞳。少し釣り目な為にキツそうには見えるけど、本当は物静かな方だ。
ーキレると怖いかもしれないけどー
*テレッサ=ノーバルデン*
伯爵家の長女。
真っ直ぐ伸びた黒い髪に、黒い瞳。
大人しそう?な見た目とは反し、この方が一番第一王子にアプローチを掛けている。
ーいっその事、その第一王子を落としてくれないかなぁ?ー
*フェリシティ=エルダイン*
琥珀色の髪に、薄い藤色の瞳。
容姿は──ごくごく普通の私。
この5人が、第一王子の婚約者候補である。
ガタンッ──
「お嬢様、着いたようですね。」
オルコット邸からの帰りは、オルコット家の馬車で送ってもらった。馬車から下りると、ココと2人で御者に礼を言いその馬車を見送ってから邸へと入って行った。