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32 それぞれの思惑


エルダイン領に帰って来てから3日目には雪が降り出し、5日目には白銀の世界となっていた。





「リオはチェスター領に帰らなくて良かったの?と言うか、領主が領を放ったらかしにして大丈夫なの?」


「いや、それ、今更な質問だな。」


本当に今更な質問だなと自分でも思っている。


「引き継ぎが終わって、確かに俺が現当主だけど、まだ年齢的には学生だから、学園には通った方が良いって言われてね。今は、叔父上が俺の代理をしてくれてるんだ。それに、叔母上には…まぁ……手に入れる迄は帰って来るなと言われたな…。」


「ん?叔母上が─何て?声が小さくて聞こえなかったわ。」


「いや、何でもない。兎に角、学生生活を楽しんで来いと言われたから、俺が帰らなくても大丈夫だ。」


「ふーん…それなら良いけど。ま、どうせ後半年位だけどね。」


ー後半年かー


婚約者候補から外れて、いよいよ成人として認められるんだよね。そこから1年が勝負だ。妹が学園に通っている間は義母も王都の邸で過ごすだろう。いっその事、ずっと王都の邸に住めば良いのに。


「あ、リオは、卒業したらすぐにカルディーナに帰るの?」


代理の叔父が居ると言っても、当主はリオだし。


「どうかな───フェリ次第だな。」


「はい?私??」


「お前……忘れてないよな?婚約を申し込むって事。」


「あ──!わ…忘れてないわよ!?」


ー軽く忘れてましたー


そんな私をジトリとした目で見た後、ニヤリと嗤って


「俺がカルディーナに帰る時は、フェリも連れて行くから。」


そう言ってから私の髪を少し手に取り、その髪にキスをして、そのまま視線だけを私に向ける。


「半年後が楽しみだ。」


「───っ!!」


ーいっ───色気が半端無い!ー


ぐぅっ─とうめき声が出そうになるのをグッと我慢しつつ、痛い程ドキドキしている胸を押さえた。






今年の冬休みは平和に─と思っていた。




「へぇ……チェスター殿も来ていたんだね。」


領に帰って来てから1週間後。また……カレイラ様がやって来た。


「積雪の中……よくここ迄来れましたね。」


「うん。ウチの者達が頑張ってくれてね。」


引き攣っている私に対して、カレイラ様はニコニコ笑っている。兄は───よく見ると……怒ってる?


「シリル殿、そんなに怒らないでくれる?観光に来たんだけど、王妃陛下からの手紙も預って来ているんだから。」


と、カレイラ様は懐から手紙を取り出す。


「はい、ちゃんと渡したからね。」


兄はその手紙を受けとり、その手紙の封蝋を見ると少し目を見開いた。そのままでカレイラ様に視線を向けると、カレイラ様はただただ微笑んでいるだけだった。



その日以降は、2、3日置きにやって来るカレイラ様を、私と兄とリオで観光案内をしたりお茶をしたりと…今年の冬休みも平和に過ごす事ができなかった。





そして、新学期が始まる1週間前に、カレイラ様は一足先に王都へと帰って行った。




その日の夜。


雲一つ無く、綺麗な三日月が浮かんでいる。私はそっと自室のテラスに出て月を眺めていた。


「───綺麗。」

「もっと暖かい格好をしないと風邪をひくぞ?」


そう言って、リオが私にモコモコフワフワのショールを肩に掛けてくれた。


「え?何?このモコモコフワフワなショールは!!」


ーめちゃくちゃ可愛いんですけど!?ー


私の瞳の色よりももう少し薄い藤色と薄いピンクが、グラデーションの様に広がっているモコモコフワフワなショール。可愛いのは勿論のこと、とっても暖かい。


「これ、カルディーナ(ウチ)で流行ってるショールなんだ。その色を見た時、“フェリの色だなぁ”って思って…買って持って来ていたんだ。なのに、フェリに会って浮かれ過ぎてたんだろうな…去年、渡すのを忘れてたんだ。」


ハハッ─と笑うリオ。


ー“浮かれ過ぎてた”─って!ちょっと、表現がダイレクト過ぎませんか!?ー


あまりにもダイレクト過ぎると、どう反応して良いか分からなくて困る。


「えっと…ありがとう?」


「どういたしまして。」



それからは特に何を話すわけでもなく、私とリオはそのまま暫くの間、一緒に三日月の綺麗な夜空を眺めていた。





*その頃のディラン=カレイラ*


まさか、チェスター殿が居るとは思わなかったな。てっきり、エルダイン領を通ってカルディーナ国のチェスター領に帰ったのかと思っていた。


エスタリオン=チェスター


公にせず留学生としてやって来てはいるが、どうやら実父が亡くなり、既に後を継いでチェスター辺境伯となっている。エルダイン領と同じく、今では観光で栄えている領だ。ただ、コルネリア(ウチ)とは違い、侯爵と同等の扱いのままだ。その辺りを探ってみても()()出ては来なかった。国に納めている税金がそれなりの額な為、侯爵と同等の扱いと言う事なんだろう。エルダインは今や伯爵並みの扱い。そして、我がカレイラ家は公爵だ。


「気を付けないといけないのは──チェスター殿だけだな。」


メルヴィルが宝石を選んだ。何色なのかはまだ分からない。どれだけ探りを入れても分からなかった。そこは、流石は王妃様だなと思う。




エルダイン嬢が候補から外れたら───




王都に向かう馬車の中で、俺はその時の事を考えていた。



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