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22 メルヴィル=コルネリア①


学園の新学期が始まり数日経ったある日。


「明日、フェリシティ=エルダイン嬢の、王妃教育の最終試験を行います。」


と、母である王妃に告げられた。


「最終試験…ですか?早過ぎませんか?」


本当に早過ぎではないだろうか?フェリは、ある時から、他の候補者よりも登城する事が少なくなった。私とのお茶すら、何かと理由をつけて断られるようにもなった。


「早過ぎる?メルヴィル、あなたは…フェリシティ嬢に限らず、候補者達の事を講師達からは何も聞いていないの?」


「講師達からは…聞いていません。」


王妃教育に関しては、その相手とお茶をしている時に話を聞くぐらいだ。だから、滅多にお茶をしないフェリに関しては…殆ど把握していなかった。


「はぁ───」


母が大きな溜め息を吐く。あまりの大きさに、何事かと、目を見開いて母を凝視する。


「母親として言わせてもらうけど…本当にお前はどうしようもない馬鹿ね。拗らせも大概になさい。お前は、もっと周りをしっかりと見るべきよ。いくら政治的手腕に長けていようとも、信頼関係が無くなればそれで終わり。夫婦に至っては尚更ね。王族として、結婚に恋愛を求めるなとは言わないけれど…信頼関係は大切にしなさい。そして、ここからは王妃として言わせてもらうけれど…私から見たら、お前とフェリシティ嬢が、その信頼関係を築けるとは思えないわ。もう……彼女はお前を()()()()()から。それでも、彼女をこのまま候補者の1人として、縛り続けるの?」


“縛り続ける”───


まさしく、その通りだなと思う。


「婚約者の決定迄は、まだ1年と少し。それ迄は、このままでお願いします。」


頭を下げてお願いすると、母はまた、軽く溜め息を吐いた後「分かったわ。なら、お前もしっかりしなさい。」とだけ言われた。






******


そうして、フェリの最終試験が終わった後、母に呼ばれて王妃専用の応接室に行くと、そこにはフェリが居た。そのフェリの横を通り過ぎ、母の前まで行くと


「メルヴィル、フェリシティの王妃教育は今日で終了しました。だから、フェリシティが候補者の1人である限りは、もう、王妃(わたし)からフェリシティに関わる事はないわ。後は、メルヴィル次第と言う事を心に留め置いておきなさい。それじゃあ、私はこれから公務があるから行くわね。後は、貴方にお願いするわ。」


そう言って、母は部屋から出て行き、部屋には私とフェリの2人だけになった。


“後は、貴方にお願いするわ”


フェリをお茶にでも誘えと言う事なんだろう。


でも──


私の体はピクリとも動かない。すぐ後ろにフェリが居ると分かっているのに。すると、私の後ろから抑揚の無い声が響いた。


「殿下、私もこれで失礼致します。」


フェリはそう言うと、そのまま私の横を通り過ぎ扉へと向かう。その扉の前で控えていた女官は、少し困惑した後、ソロソロとその扉を開いた。そして、フェリはその女官に「ありがとう」とお礼を言った後、私の方へ振り返る事なく出て行ってしまった。


ーどこから…いつからおかしくなってしまったんだろうー







******


「フェリシティ様は、いつも笑っているのよ。王妃様も先生方も、候補者5人には平等に対応していると言っているけど…やっぱり、フェリシティ様はメルヴィル様の幼馴染みと言う事で、少し…贔屓があるんじゃないかしら?」


「やっぱり!ティアリーナ様も、そう思いますか!?特に、語学の授業など、本当に大変で…何故笑っていられるのかしら?と思ってはいたんですけど…。」


「それに、ああやって、笑っているだけで褒められているかもしれませんね。本当に、幼馴染みと言うだけで──」



その日は、3人の候補者─ティアリーナ嬢とミンディ嬢とテレッサ嬢が王妃教育の為に登城していて、授業後に4人でお茶をする事にしていた為、授業が終わり3人が待っている庭のガゼボへと向かうと、3人のそんな話し声が聞こえて来た。


確かに、フェリは幼馴染みだ。だからと言って、母やあの講師陣が贔屓をする事は有り得ない。王妃に相応しくあるようにと指導するのだ。そこで贔屓などしても、国の為にならないのだ。でも、ここで私が彼女達に「それは違う」と言うと、「やっぱり、幼馴染みだから庇うのですね」と言われるだけだろう。


だから、私はその話は聞かなかった事にした。







フェリは、いつも笑っていた。王妃教育とは大変だと聞いていたけど、いつも笑っているフェリを見ていると、本当にちゃんとやっているのか?と、ふと思ってしまう事が増えて来た。


“贔屓”


その言葉が、少しずつ私の心に浸透して行った。


丁度その頃、公務が忙しい上に、帝王学にも少し手間どってしまい、イライラが募ってしまっていた。今迄の私なら、フェリの笑顔を見るだけで癒やされていたのに、そのフェリの笑顔を見て、私の口から出て来たのは──


『お前は、いつも笑っているな。いや…笑っているだけで褒められて…楽で良いな。』


だった。言い切った瞬間、ハッとしてフェリに謝ろうとしたけど、謝罪の言葉は私の口からは出て来なかった。





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