20 終了
*エスタリオン視点*
新学期が始まってから3日目。
「今日は、王妃様に呼ばれてて朝から登城するから、学園は休むわね。」
フェリはそう言って、学園に向かう俺を見送ってくれた。
少し早目の登園。まだ人気の無い中庭まで行き、辺りの気配を確認した後、何処とへともなく口を開く。
『それで?誰か動いたのか?』
『はい。3名に動きがありました。』
『3名──腹黒2人と馬鹿か?』
『おそらく、それで合っているかと……。どうしますか?』
『放っておいて良い。どうせ、表の事しか手に入れられないだろうから。それよりも、フェリは大丈夫なんだろうな?』
『はい。フェリシティ様にはココとルルが付いています。』
『ルルが来たのか。それじゃあ、大丈夫だな。引き続き、頼むよ。』
『是』
その言葉を最後に、その気配も消えた。
本当に、馬鹿は馬鹿だ。今頃動き出しても、もう遅いんだよ。
「うん。やっぱり、最後にはお礼を言わないといけないな。」
登園して来た人の声が聞こえだした中、俺は足早に教室へと向かった。
「グレイシー、それにエルド。今日の放課後、少し時間をくれないか?」
「私は大丈夫よ。」
「俺も大丈夫だ。」
「フェリが、今日は登城してて学園を休んでいるんだが……フェリには内緒で話があるんだ。」
「分かったわ。内緒って事は、お店とかじゃない方が良いわよね。また、オルコット邸で良い?」
「グレイシー、助かるよ。ありがとう。」
フェリは、この2人を信用しているようだった。なら、俺もこれからの事を話しておこうと思ったのだ。
*その頃の王城、王妃専用応接室にて*
「フェリシティの王妃教育は、今日で終了よ。」
「──え?」
久し振りに王妃様からの呼び出しがあったかと思えば、そこにはマナーの先生をはじめ、語学や歴史の先生が居て、一緒にお茶をしながらお喋りをしただけだったのに。
ーえ?終了?え?ひょっとして…候補から外された!?ー
「あぁ、勘違いしないでちょうだい。候補から外れた訳ではないからね。だから、目をキラキラさせないでくれるかしら?」
「─っ!?キラキラなど…させていません。」
思わず表情に出てしまったのか……背中に嫌な汗が流れる。
「ふふっ。無理しなくて良いわよ。私も、知らない訳じゃないのよ?あの子には…呆れてモノも言えないけれどね。それでも、候補から外すとは言われていないから、候補のままなんだけれどね。」
「それでは、“終了”とは、そのままの意味でと言う事でしょうか?」
「そうよ。今日のお茶会は、実践を兼ねた最終試験だったって事よ。」
ーあぁ、だから語学の先生が色んな国の言葉で話したり、歴史に絡んだ話をしたりしたのかー
相手が先生だったから、全力で応えてしまった。
「まぁ、もともとフェリシティは語学に関しては指導の必要が殆ど無かったから、王妃教育も早く終わるだろうと思っていたのよ。兎に角、お疲れ様。」
と、王妃様は王妃教育が始まって以降、初めて、ニッコリと優しく微笑んでくれた。
5人の候補者を平等に扱うため、褒める事も優しく微笑む事もなければ、叱る、怒る事もしなかった王妃様や先生達。本当に立派だなと思う。
ー私にはブリジットが居るから尚更身に沁みるわねー
と言う事は……登城する事も減る…と言う事よね?と、考えていると
「王妃陛下、第一王子がお越しになりました。」
「あら、もう来たの?通してちょうだい。」
ー第一…王子!?ー
何で!?と思っているうちに、「失礼します」と言いながら、第一王子が部屋へと入って来た。慌てて立とうとしたところ、「フェリシティ、座ったままで良いわよ。」と、王妃様に手で制されてしまったので、座ったままで軽く頭を下げて第一王子に礼をとった。その第一王子自身は、全く私の方を見もしないけどね。
「メルヴィル、フェリシティの王妃教育は今日で終了しました。だから、フェリシティが候補者の1人である限りは、もう王妃からフェリシティに関わる事はないわ。後は、メルヴィル次第と言う事を心に留め置いておきなさい。それじゃあ、私はこれから公務があるから行くわね。後は、貴方にお願いするわ。」
そう言うと、王妃様は立ち上がり
「フェリシティ、本当にお疲れ様でした。私はこれで、失礼するわね。」
「はい。王妃陛下、今迄ありがとうございました。」
今度こそ立ち上がり、王妃様にマナーの先生に叩き込まれたカーテシーをとると、王妃様は満足したような顔をして部屋から出て行った。
そして、残されたのは──
第一王子と私。
第一王子は、王妃様が出て行った扉を見つめたまま動かない。
ー本当に、この人は…一体どれほど私の事が嫌いなのかー
「殿下、私もこれで失礼致します。」
マナー違反かもしれないけど、私は第一王子の背中に向かい声を掛け、そのまま第一王子の横を通り過ぎ扉へと向かう。その扉の前で控えていた女官は、少し困惑した後、ソロソロとその扉を開いた。そして、私はその女官に「ありがとう」とお礼を言った後、後ろを振り返る事なく扉を潜り廊下へと歩みを進めた。




