17 新学期
いいね、ブクマ、ありがとうございます。
「また来たの?」
「仕方ないだろう?ここに居れば、アナベル嬢に付き纏われる事がないから。」
そう言われると、私はそれ以上何も言えなくなる。
そう。リオは、妹の付き纏い対策として、兄に相談するのではなく、邸の端っこにある私の部屋に避難して来ているのだ。
ー確かに、ここには妹どころか、ココ以外の使用人も近付かないけどねー
それでも、婚約者でもない男女が部屋に2人きりと言うのは良くない為、リオが部屋に居る時は、必ずココも一緒に居てもらっている。
「それにしても、よくバレないわね?」
ーあの妹なら、何が何でもリオを捕まえようとすると思ったけどー
「カーソンに協力してもらってるんだ。流石はカーソンだな。アナベル嬢の動きを把握してるから、本当に上手い具合に避けて動けるんだ。」
「チェスターから、カーソンに別途お手当を出さないとな」と、リオは愉快そうに笑った。
リオとの時間は、穏やかなものだった。特に何をする事もなく、お互いがしたい事をして過ごすだけ。話さなくても、その沈黙が苦痛ではなくて──
ー第一王子とのお茶会の時の沈黙は、苦痛でしかないけどー
「フェリ、何してるの?」
「明日の学園の準備よ。リオは、もう終わったの?」
「終わってる。明日から、学園でもよろしくな。」
と、リオはニッコリと笑った。
******
新学期初日─
リオが初登園と言う事もあり、いつもより早目に学園へとやって来た。
「先ずは事務室に行った方が良いのかしら?それとも、職員室?」
「事務室と言われている。」
「それじゃあ、事務室に案内するわね。」
私はリオを事務室迄案内した後、先生にリオを任せて教室に向かった。
「フェリシティ、おはよう。」
「グレイシー、おはよう。」
グレイシーとは、休みの間は会っていなかったから、本当に久し振りだ。そんな訳で、2人で色々と話をしていると─
「グレイシー、フェリシティ嬢、おはよう。」
「エルド、おはよう。」
「おはようございます。」
「あー!やっと、また毎日グレイシーに会える!」
エルド様は私をスルーして、グレイシーの前まで行き、グレイシーの右手を取って軽くキスを落とす。
「「きゃーっ!」」
「──なっ!ちょっ─エルド!?」
教室に居る令嬢達が黄色い声をあげ、令息達は“やれやれ”と言った顔で見ている。
勿論、グレイシーの顔は真っ赤だ。相変わらず仲の良い2人で何よりだ。
「殿下、ディラン様、おはようございます。」
「あぁ、おはよう。」
「おはよう。」
グレイシーとエルド様を、ほのぼのとした気持ちで見ていると、私の背後で、誰かが第一王子とカレイラ様に挨拶をしている声が聞こえた。
ーうん。私はこのまま振り返らず、グレイシーとエルド様を見ておこうー
なんて事しても、放っておかれる筈もなく──
「エルダイン嬢おはよう。」
ー名指しする意味ありますか!?ー
フッと軽く息を吐いた後、ゆっくりと振り返り
「カレイラ様、おはようございます。」
振り返った先には、カレイラ様だけで、第一王子は既に席に座っていた。カレイラ様も、第一王子と一緒に席に座れば良かったのに─。
「エルダイン領では、お世話になったね。ありがとう。」
「──我が領の観光、ありがとうございました。」
紛らわしい言い方は止めて欲しい。カレイラ様の言い方では、“プライベートで会ってお世話になった”みたいに捉えられてしまう。だから、私も敢えて“観光”と強調して言い返す。
「ふっ──エルダイン嬢は…本当に面白いよね。」
「おい、ディラン。それはフェリシティ嬢に失礼だぞ。それに、言い方には気を付けろ。」
ニヤリと笑うカレイラ様に、珍しく?エルド様が私を気遣うようにカレイラ様に注意をした。そこでタイミングよくチャイムが鳴り担任の先生がやって来た為、各々自分の席に着いた。
ー本当に、カレイラ様は何がしたいの?気を付けないとねー
「おはようございます。今日からこのクラスに、カルディーナ国からの留学生が入る事になりました。」
先生の説明の後、リオが入室して来た。
「カルディーナから来ました。エスタリオン=チェスターです。宜しくお願いします。」
「チェスターと言えば、エルダインさんとは隣接する領だったわね。丁度良かったわ。エルダインさん、チェスターさんに色々教えてあげてくれるかしら?」
「──はい、分かりました。」
ーコレ、絶対打ち合わせしてたよね?ー
「エルダインさん、ありがとう。それじゃあ、チェスターさんは…エルダインさんの横の席に座ってくれる?」
「はい。」
そのままリオがやって来て私の横の席に座る。
チラリと視線を向けると
「よろしく。」
と、ニッコリ微笑むリオ。この微笑みを知っている。“思い通り”に行った時─“悪戯が成功した”時の微笑みだ。
「ちょっと!フェリシティ!エスタリオン!後でゆっくり話を聞かせてもらうからね!」
と、反対側の私の横に座っているグレイシーに小声で怒られた。




