13 エスタリオン=チェスター
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グレイシー=オルコット
フェリシティ=エルダイン
エスタリオン=チェスター
この3人は母親同士が仲が良く、物心がつく前からの付き合い─幼馴染みである。この3人の中に、数年してから第一王子であるメルヴィルが加わったのだ。
このエスタリオンは、エルダイン辺境地の隣の領─隣国カルディーナ国の辺境伯の嫡男である。そして、そのチェスター辺境地もエルダイン辺境地と同じように観光地として栄えている。お互い同じような土地、気候なので、国は違うがお互い助け合いながら発展してきた。
まだ実の母が存命で、3人╋第一王子の4人で遊び回っていた日々。それがある日、エスタリオンは隣国に帰ったと聞かされた。本当に急な帰国だった。その前日迄普通に遊んでいた。それに、それ迄だって隣国に帰る事はあったから、帰る前には必ず挨拶をして、4人でお別れ会のような小さな小さなお茶会?お菓子大会?のような事をしていたのに、あの時だけは、挨拶もなく帰ってしまったのだ。
それから手紙を出しても、返事は来なかった。グレイシーも、手紙を出しても返事は来ないと言っていた。何度出しても返事が来ないから、そのうち手紙を出すのも、エスタリオンの話をする事もなくなり…。母が儚くなってからは、正直……エスタリオンの事は忘れてしまっていた。
いや─母の思い出と共に、封印?していたようなものだったのかもしれない。幸せだった頃の思い出だから──。
それが、何故、今頃?また会えて嬉しいのか…腹立たしいのか……。
「私もグレイシーも、手紙を出したのよ。」
「うん。」
「返事は来なかったわ。」
「──ごめん。」
「──言えない…事なの?」
「──本当に、ごめん。」
「─────っ」
私よりも長身の男前が、シュンと項垂れていて……可愛くないこともない。
ー頭に垂れ下がった耳が見えるのは…気のせいだよね?ー
お互い、辺境伯で貴族だ。言えない事や知らない事もあるだろう。エスタリオンだって、言いたいけど言えないのかもしれない。今、目の前に居るエスタリオンは、後悔しているような顔をしている。
だからと言って、「仕方無いわね!許すわ!」なんて、女神様のような事は言わないけどね!?
「仕方無い事もないけど…エスタリオン、コレは、私とグレイシーへの貸しにしておくわね。」
ニッコリ笑って告げると、エスタリオンはキョトンとした後「あぁ、分かった。」と言って微笑んだ。
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その日、いつもよりも早く領地視察から帰って来た父に、兄と共にまた呼び出されて執務室へと行くと、そこには既にエスタリオンも座って待っていた。その為、私と兄は、エスタリオンの座っている椅子の、テーブルを挟んだ反対側の椅子に並んで座った。
「もう聞いていると思うが、エスタリオン殿も新学期からお前達と同じ学園に通う事になった。学園の寮に入る予定だったが、手続きが間に合わないと言う事で、1週間だけエルダイン邸に泊まる事になった。フェリシティと同じ学年だから、学園ではお前が案内をしなさい。その場合は、念の為2人きりにはならない事。まぁ…オルコットの娘が一緒に居れば問題は無いだろう。」
「父上、この事は殿下はご存知なのですか?」
「基本、留学生はお互いの国の王の許可が必要となるからな。エスタリオン殿の事も国王様はご存知だ。だから、エスタリオン殿とフェリシティが一緒に居ても、醜聞にはならんだろう。」
ー“醜聞”ねぇ…何なら、第一王子と私の不仲って言う醜聞はあるんじゃないの?ー
とは、口に出して言わないけど、父と言い兄と言い…本当に私本人の意思は無視して話を進めるのね。まぁ…相手がエスタリオンだから…良いのかな?
「──フェリシティ、少し…迷惑を掛けてしまうかもしれないけど、宜しく頼むよ。」
向かい側に座っているエスタリオンが、少し困ったように呟く。その、少し困ったように笑う顔も、幼い頃のままだなぁ─と、微笑ましくなる。
「ふふっ。何を言っているの?幼馴染みじゃないの。迷惑ではないわ。何か困った事があったら、いつでも頼ってちょうだい。グレイシーもいるしね。」
「ありがとう、フェリシティ。学園に行って、グレイシーに会うのも楽しみだ。」
お互い、素直に笑い合う。
ーこうやって、素直に笑ったのは…いつぶりだろうか?ー
王都の本邸で1週間。義母妹がどんな態度に出るかは少し──かなり心配だけど…。きっと、父は義母妹と使用人達の行いを知らないからこそ、エスタリオンを受け入れたんだろう。
義母は、脳内お花畑ではないから、エスタリオンには完璧に対応する筈。問題は…あの妹か…。あの子には…特に注意をはらうしかないよね…。
ー何事も起こらず、1週間を過ごせれば良いけどー
と、父と兄とエスタリオンが話し合っている横で、私は妹の事を考えていた。




