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小エビを食ってる小魚が美味い様に、その小魚を食べて居る大型魚も美味くなるのかね。

「ブホォォォッ……ゲホゲホ」


 俺は飲んでいた水を吹き出して咳き込んでしまった。


『どうしたのシマお兄ちゃん、大丈夫?』


 咳き込んだ俺の背を摩ってくれているサヨなんだが……今日の恰好は何処かのブレザーな学生服を着ていて少し背も縮んでいる。


 大学に入って家を出たお兄ちゃんを追いかけて無理やり同居を勝ち取った義理の妹設定、だそうだ。


 言っておくけど俺が頼んでる訳じゃないからね?

 むしろ俺はいつものノーマルサヨでいいんじゃねって言ってるからね?

 聞いてくれねーんだよこいつ……。


「ゴホッ……大丈夫、水が気管に入っただけだから」


『もう、シマお兄ちゃんはおっちょこちょいなんだからぁ』


「……この資料を見たらびっくりしちゃってさ、取り敢えず元に戻れよサヨ」


『義理の妹モードからノーマルモードに戻します……、……この設定だと妙齢な女性に学生服を着せている事になるんですが、シマ様はそういった趣味が? 秘密なムフフアーカイブにはその手の物は少なかったので排除していたんですが……』


「ちっげーよ! 真面目に話したいだけだ! それと『そういう趣味』とか特殊っぽく言うなよ、そんなの普通だろ?」


『……シマ様はちょいちょい自爆をしますよね、そこが可愛いのですけれど……それで真面目な話とは何でしょうか?』


「自爆? ……まぁいいや、このデータによると、すでにアエンデ型駆逐艦が八千隻くらいある事になってしまうんだが?」


 いつもの狭くて椅子が一つしか無い指揮用の部屋で、空間投影モニターに映し出されるデータの確認をしていたのだが、今言ったような状況になっていて飲んでいた水を吹き出してしまったという訳だ。


 座っている俺の横に、ブレザーの制服姿で立っている長耳で金髪ロングヘアを三つ編みにしてあるサヨは、未だに俺の背を撫でながら問いに答えてくる。


 いや、いつまで背を撫でているんだお前……。


『特にやめるような命令を受けていませんので、作り続けていましたけど何か問題が? ああ! 確かに駆逐艦だけだとバランスが悪いですよね、それに建造用のドックの増設とかまったく手をつけなかったですし、そろそろ色々やりましょうか? チュートリアル再開ですねシマ様』


 サヨはそう微笑を浮かべ、俺の背を撫でたまま言ってくる。


「え? つまり俺が身体強化措置後の訓練をしている間ずっと基礎ドックで駆逐艦を作り続けてたの? 一か月間近くずっと? 材料は?」


『その材料なのですが、もうこの恒星系にあった小惑星帯なんかはすべて回収してしまったのですよね……惑星や恒星の取り込みを許可して頂けませんか? それか他の星系に移りたいのですけど』


 サヨは両手を組み片手を立てて手の平を自分の頬にあてて、少し顔をナナメにして困ったわのポーズをしながら俺に許可を求めてくる。


 いや困ったのは俺の方だよ?


 ちゃんと細かく設定した命令をしないと延々と同じ事をするのか……その辺りは人工知能だからという事なんだろうか? いや、でも高性能のサヨがそんなミスを……。


「なぁサヨ、なんでずっと同じ事をし続けたんだ? 理由を教えてくれないか? 嘘や誤魔化しは禁止する」


 ……。


 俺の命令から、しばしの時間が過ぎた後にサヨは口を開く。


『……庶民派でチキンなシマ様だと程々で満足してしまいそうでしたので、最初にガツンと非常識を刷り込もうと思いまして……』

 サヨは背筋を伸ばし俺の目を見ながら真剣な表情で報告をしてきた。



「やっぱりわざとか! 確かに俺なら百隻も作れば満足して一度皇国領内に帰ったかもしれないけども、やりすぎじゃねぇか? 恒星系内の隕石類や小惑星全部回収とかそれ大丈夫なの?」


『宇宙に進出しそうな知性型生命体がいるなら将来的な鉱物の調達に困るとかもあるでしょうけど、この恒星系にはそんな知性体もいませんし、移住に適した惑星もありませんから大丈夫ですよ、それに……たかが八千隻では外来する適応体に負けますよ?』


「え……? あの宇宙を渡ってくる魚ってそんなに強いの?」


『そうですね……地球の知識で言うならアエンデ型駆逐艦は秋刀魚やイワシやアジ等の小魚と同格だと思って下さい、そしてこの間倒した海賊船はそれのエサになりうるイソメや小エビだと思えば……サメやクジラクラスの敵がきたら……アジなんて数千匹居てもほとんど意味が無いのを理解できましょうか?』


「まじ……か……いや、それならそうと最初に言ってくれたらよかったんじゃないか?」


『初めて私に乗った頃のシマ様がその話を聞いて、このような辺境に来てくれたでしょうか?』


 サヨの悲しそうな声色を聞いて俺は考えてみる。


 訳もわからず地球から補給艦に乗せられて、給料はいいけど命の危険が有り過ぎる環境か。

 それはいきなり大海原に水着一丁で放り投げられるに等しい……サメがいるかもしれない海の中に一人か……そりゃ陸地に帰って引き籠りたくなる話だな……。


「その状況だと俺は……皇国の領域から外には出なかったかもしれないな……」


『ですよね……私はシマ様と二人でこの宇宙(そら)を飛びたかったのです……誰にも邪魔されず二人で……そのためには戦力を保持する必要があったのですが……さすがにやりすぎました、謝罪致しますシマ様……』


 頭を下げて謝るサヨはいつものおちゃらけた感じは一切せず、悲しさを堪えているように思える。

 ったくこの馬鹿は……。


「……サヨ! 銀河系外縁部までの効率の良い航路を出せ、知性体が居なくて物資を集め易い所を経由しながら恒星を手に入れに行くぞ、それと建造用ドックの拡張を優先してやっていく、現状の四ヶ所じゃいざという時に困るだろ、他にも足りない物があるなら意見具申を許可するから俺にどんどん言ってこい、てーか俺もお前と飛ぶこの宇宙(そら)はもう好きになってるんだよ! ……それくらいは気づけ馬鹿やろうが……」


『……シマ様!』


 がばっとブレザーを着たサヨが椅子に座っている俺に抱き着いてくる。

 あいつの初期データに似せているのか、お胸様というクッションが無いのでちょっと痛い。


 まぁいいか、俺は空いている手でサヨの背中をポンポンと叩いて落ち着かせてやる。

 これも強化調整訓練前ならポンポンじゃなくてドカンドカンになっていただろう……。


 ほんと訓練はまじ辛かったわぁ……特に食事とかお風呂とかオトイレとか……ああうん思い出すのは止めておこう誰も得しねぇし……。


 一言で言えば、赤ちゃんの気持ちが分かった、って感じだったな。


『それじゃぁ私と遊ぼうか! シマお兄ちゃん!』


 俺からガバっと離れたサヨが、急に義理の妹人格モードになってしまっている。


「どうして急に人格が変わってるんだ? 元のサヨはどうした?」


『ノーマルサヨがすっごく恥ずかしくなったから、私と代わってくれだってお兄ちゃん、私としては役得だからラッキーだったけどね』


 なんじゃそりゃ……そう言われたら俺も自分の言動がすごい恥ずかしく思えてきちゃったじゃないか!


 ずるいぞサヨ、俺は逃げられないのにお前だけ逃げるのかよ!


「そうか……あいつには後で文句を言うとして、早速戦力増強作業を始めようか」


『んー……それは無理! だから私といちゃいちゃして遊ぼう? シマお兄ちゃん!』


「へ? 無理ってどういう事だ? 取り敢えずイチャイチャは置いておいて質問に答えてくれ、やめろ腕を組むな膝に乗ってくるな!」


 妹モードのサヨは俺の腕を取り、そのまま俺の膝上に横座りになり、さらに俺の腕をシートベルト代わりにしてきた。

 なんだかニコニコとすごい嬉しそうなんだが、取り敢えず質問に答えて?


『私はシマお兄ちゃんを癒すのが目的の義理の妹人格だから、それら戦闘関係の作業をする権限が付与されてないの、出来るのはイチャイチャしたり一緒にご飯を食べたり遊んだりお風呂に入ったりするくらいかな?』


「じゃぁ元のサヨに戻ってきてくれるように言ってくれねぇ? せっかく俺がやる気出したのにこれじゃ肩透かしだよ……」


『んー……まだ恥ずかしいって言ってる、他の人格と交換なら出来るけど……こんなチャンスないもん! 私とあそぼーよシマお兄ちゃん! シマお兄ちゃん用に設置したレクリエーションルームにゲームとか一杯用意してあるからさ! 一緒にやろーよ、ねー、いいでしょー?』


 サヨは俺の膝の上から降りると、掴んでいた俺の腕を引っ張って立たせようとしてくる。

 そして俺が立つと今度は真正面から抱き着いてきて、下から上目遣いでおねだりをしてきた……。


 ぐっ……さすが俺の秘密なムフフアーカイブを調べただけの事はある……俺の心に刺さってくる。


「……ちょっとだけだからな?」

『わーいありがとーシマお兄ちゃん、手繋いでいこー!』


 俺の手を握り、ブンブンと振り回しながら引っ張っていく義理の妹モードのサヨ。

 早くノーマルサヨさんが戻ってきてくれる事を願いつつ、何のゲームをしようかと考える俺だった。




 恥ずかしがって引っ込んじゃうとかさ……サヨ、お前はやっぱ何処か壊れてるんじゃねーかな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何となく星系内の小惑星を全て使って出来たのが駆逐艦八千隻って少ない?って感じがするな
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