ペットを飼うのなら、その死を看取れる生物にしなければならない
ある意味ブラックジョークかもしれんね
「いいかい、命を預かるというのは、大きな責任を伴う。それこそ、自分は二の次三の次にして迎え入れた命の面倒を見てやらないとならない。日々快適に暮らしていけるように気と金を使ってやるのはもちろん、病気や怪我をしたら医者に連れていってやらないとならないし、途中で放り出すなんて以ての外だ。ちゃんと死ぬまで面倒を見る覚悟と経済力がないとやつが手を出しちゃならない。命を預かるってのはそういうことだ」
「わかってるよ。ちゃんと死ぬまで面倒見るから」
「ダメダメ。ドラゴンの寿命は人間より長いんだぞ。途中で大きな病気や怪我をしないですくすく育ったら、こいつの寿命が来るよりお前の寿命が来る方が早い。子孫に負債を負わせるようなことをするんじゃないよ」
雑竜系なら寿命がおよそ50年程度のものもあるが、見た所その卵は火竜系のデミではないドラゴンのものだった。もっとも、人間の寿命だって長生きするものは百年近く生きるものもいるというだけで平均すると五十年前後になるのだから、デミドラゴンだったとしても看取るところまでできるかは微妙なラインなのだが。
「でも~」
「でもじゃありません。元のところに…じゃないな。ギルドにでも買い取ってもらってきなさい。何か飼いたいならもっと小動物とか自分より早く死ぬものでないと」
「…どうしても駄目?」
「駄目です」
「………はーい、ママ」
あからさまに不貞腐れた顔をするトレアに苦笑し、頭を撫でる。今日の夕飯は好物でも作ってやって機嫌を取るべきか。
「暗くなる前に帰ってくるんだよ」
「もう俺のこと何歳だと思ってんの、ママ。もう一人で出歩けないような子供じゃないんだからね」
「私から見たらお前はまだまだ小さな子供だよ」
ああでも、そういえばこの子を家族に迎えてからもう20年近いのだったか。人間の寿命から考えればそろそろ青年期といったところになる。自立心が出てきても不思議はない。ついこの間まで、私から逸れるとぴいぴい泣いていたように思っていたが。
「いつになったら一人前の大人だって認めてくれるのさ」
「私を力づくで退けられるようになったら、かな?」
「そんなの俺一人じゃ一生無理じゃん…」
「何でそんなに大人扱いとやらに拘るのかねぇ」
「…いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」
トレアが卵をギルドに持っていくのを見送って、こっそり溜息をついた。何処かで育て方を間違ったのだろうか。それとも、これがあの子の個性の範疇なのだろうか。自室の書棚の指南書に再び目を通す。
「…人間は猫と違って完全室内飼いは非推奨だし、犬みたいに時々散歩させればいいというものではないのだよね」
ある程度自由に外に出たりできるようにしておいて、可能であれば余所の人間と交流できるようにしてやることが健全な精神の育成に必要になるらしい。うちのトレアもちゃんと迷子札は付けさせたが、七歳くらいから私の目の届く町内くらいは自由に出かけさせていた。外で交流した人間と友達になって、私に紹介しにきたりもしていたものだ。懐かしい。
「…ううん。もしかして、これかな?よく懐いた人間は飼い主の真似をしたがります」
離乳食に移ったくらいから育てているだけあって、トレアは私にとても懐いていて、自分で動けるようになった頃から私に付いて回って真似をしたがった。十五歳くらいまでは私も人間だと思っていたようだ。今はそうでないと知っているが。
だから、私の真似をしてペットを飼ってお世話したいと思うようになった、ということだろうか。だとしてドラゴンを選ぶのはちょっとセンスがないにもほどがあるが。まああの子は昔からちょっと変なものを好みがちなので、そんなに不思議でもないか。
「トレアがどうしても何か飼いたいようだったら、何か適当なものを見繕ってやるかね。無難なところで、犬か猫か、兎か…」
何にせよ、人間より寿命の短い生物にしないとならない。死んでしまえばもう他者の面倒を見るどころではない。残されたものが虐げられることにもなりかねない。…まあ、トレアが死んでペットが残った場合、私が面倒を見ることになる可能性が高いのだが。一応、トレアを寿命以外で死なせるつもりはないが、万が一ということもある。
「…まあ、そのあたりはトレアが帰ってきてからまたじっくり話してみるしかないか。さて、夕飯の支度をしようかね」
自分一人の時は然程拘りがなかったが、人間は食事で栄養をきちんと摂らないと病気になることもあるということで、料理を始め、今ではそれなりの腕になっている。人間は比較的、雑食で何でも食べられるとはいえ、喜んで食べるものを与えてやりたい。そう考えて始めたことだが、それなりの実利になるものだ。色々応用が利く。
さて、今日の夕飯は何にしようか。
視点主はエルフ♂のつもり
人間が全部ペットって世界観というわけではない