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50話

 レクシアとラボルブの決闘騒ぎからしばらくして、レクシアとイグザの話を聞きたいファリンの提案で、放課後のカフェテリアに三人は集まっていた。


「それで二人はもう婚約者ということでいいのよね?」

「はい、あんなにすんなりいくとは思いませんでした」


 正式にラフロスト侯爵家からキッカラン辺境伯家に婚約の申し込みが行われ、わりとあっけなく婚約は成立した。


「両家の両親そろっての顔合わせでも、びっくりするぐらい何事も無かったです」

「普通は何事も無くて当たり前のものではなくて……?」

「レクシアの心配が当たらなくて良かったよ」

「父が顔合わせで暴れだすんじゃないかと、ずっと気が気じゃなかったですから」

「信用が無いのね」


 ファリンは思わず苦笑いだ。三人で話している間に、遅れていたエルキューザもやって来た。


「すまない。遅れた」

「別に殿下はいなくてもいいです」


 最近のレクシアは不敬だとか気にせず、エルキューザと話してしまっている。どうやらエルキューザの中では、レクシアは友人の扱いになっているらしく、レクシアの不敬な発言も特に気にしていないらしい。


「そうはいかない。ファリンの居る所に俺ありだ」

「エル様ったら」


 漂う空気が甘すぎて、紅茶に砂糖を入れなくて良かったと思うレクシアだった。紅茶に砂糖を入れてしまっていたイグザは、紅茶を飲もうとしたその手を止めた。


「陛下からの婚約の承認があんなに早いとは思わなかったよ。何か裏でもあるのかな?」


 甘すぎる空気を払拭するためか、レクシアも気になっていたことをイグザが尋ねた。


「それはレクシアさんにお礼の意味合いもあったからだわ」

「わたし何もしてなくないですか?」


 心当たりがまるでないレクシアは、思わず眉間に皺が寄っている。


「俺とのあれだ。あれがあったからだな」


 エルキューザが言い難そうに言葉を濁してきたので、レクシアは意味不明だ。


「あれですか?」

「殿下との決闘のことじゃないかな?」


 あれと言われても分からなかったレクシアに、イグザが助け船を出してくれた。


「あの決闘がお礼につながるんですか?」

「ああ、父上は俺のことを見かねたレクシアが、俺の性根を叩き直すために決闘したと思っている」


 黒歴史と言っても過言ではない、調子に乗っていた時期とつながっているから、エルキューザは言い難そうにしていたようだ。レクシアの自己満足のために取った行動が、国王に買いかぶられ過ぎていて、レクシアはいたたまれなかった。


「私の父も一枚噛んでいるみたいよ。私の父が困ったときは力になると約束したから、約束は守らねばと言っていたわ」


 スレノーラ公爵は口約束でしかなかった、レクシアとの約束を守ってくれたらしい。レクシア自身も今まで忘れていたものを、律儀に守ってくれたスレノーラ公爵には感謝しかなかった。


 一度国王に承認されてしまえば、キッカラン家だけでレクシアとイグザの婚約を白紙に戻すことは不可能だ。


「おかげで簡単に白紙にできなくなったのは確かです。陛下とスレノーラ公爵に、ありがとうございましたと伝えてもらってもいいですか?」

「ええ、伝えておくわね」

「ああ任せろ」


 それぞれが紅茶を口に運び、穏やかな時間が流れる。この時間が何よりも得難いものに思えて、レクシアの口元に笑みが浮かんだ。


「レクシア、何か面白いことでもあったかな?」

「四人でこんな風にお茶会するようになるなんて、世の中分からないなと思った」


 ずっと変わり映えのしない学園生活を送るのだと、レクシアは漠然と考えていた。レクシアのその予想は外れて、今はこんなにも楽しくて幸せだ。


「あの、少しいいかしら? ついにレクシアさん達も婚約者同士になったのなら、四人でやってみたいことがあるの」


 キラキラと瞳を輝かせたファリンは、きっとレクシアとイグザの婚約を我がことのように喜んでくれていた。そんなファリンの頼みなら、レクシアはできる限り叶えたい。


「なんだ?」


 ファリンの願いならどんな願いでも叶えてやると、エルキューザは全身から醸し出している。エルキューザがファリンに向ける表情は、どこまでも優しくて甘かった。


「レクシアさん達とダブルデートがしたいわ。そういうものが世の中にはあると以前聞いたの」

「この四人で王都でのダブルデートはだいぶ厳しいと思うよ」


 すぐさまイグサから至極真っ当な意見が出た。レクシアのことは置いておいて、王太子とその婚約者の公爵令嬢、次期宰相のイケメン侯爵令息だ。冷静に考えてこの面子では、何処でデートしたとしても周囲が黙っていてくれるはずが無い。


「四人で何かしたいなら、夏季休暇にどこかの領地に皆で行くのが最善だろうね。人があまりいない所がいいんじゃないかな」

「そういうことならキッカランに来ますか? 北方なので夏でも涼しいです」

「ぜひ行ってみたいね」

「行きたいわ」


 イグサとファリンはレクシアの提案にノリノリだ。


「絶対に行かない! 俺はあそこにだけは絶対に行かないぞ!」


 エルキューザの必死すぎる抵抗により、キッカラン領行きは無しになった。キッカラン領でエルキューザに何があったのかは、相変わらず謎のままだった。

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