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43話

 一度状況を整理しよう。


「全部まとめると、イグザは最初からわたしを利用したりする気は全くなくて、ただ私の好感度を上げたかった。それでわたしのために色々やっていた。途中から本気で好きになっちゃって、素でわたしと過ごすのを楽しんでた。ということでいい?」

「そうだね、そういうことだね。一緒に過ごすうちに、レクシアのことをたくさん知ったよ」


 イグザの顔が優しくほころんだ。レクシアが愛しくて仕方ないと、その表情が何よりも明確に表していた。


「周りにはあんなに怖がられてるのに、本当はとても優しいよね。ファリン様の魔法で酷い目にあったのに、ファリン様と友人になるし、僕の身代わりになって良かったとか言っちゃうし」

「それはイグザの為じゃなくて、ファリン様にヘイトが向かなくて良かったってことで」

「気遣った相手がファリン様だったとしても、レクシアが優しいことに変わりはないよ。ファリン様と友人になった上に、ファリン様を苦境から救いたいって、あの時本気で怒ってたよね」

「友人なんだから助けたいと思うのは当たり前」

「そう断言できるのも、レクシアのいいところだよ」


 レクシアが何を言っても、良いように解釈されて褒められるので、だんだん居たたまれなくなってきた。無言のレクシアを置いて、イグザが話を進めていく。


「レクシアの可愛らしい見た目も大好きだよ。レクシアが好きだから、レクシアの見た目も好みなのかな? それとも見た目が好みだから、レクシアが好き? まあ卵が先か鶏が先かぐらいに、どうでもいいことだね」


 レクシアを見るイグザの視線には、隠しきれない熱がこもっていた。その熱はレクシアの心を焦がしていく。


「自分でも気づかないうちに、徐々にレクシアのことが好きになってたよ。はっきりと自覚したのは、レクシアが決闘で殿下に勝った時だったね。殿下に勝ったレクシアを見て、僕は完全に君に落ちた。可愛いのに強くてかっこよすぎるよ」

「かっこいいって言われたのは初めてかもしれない」


 いつも恐れ怯えられるか、引かれるかが大半だった。初めて言われた褒め言葉に、レクシアはたじたじだ。しかもそれは好きなイグザからの褒め言葉で。


「胃痛のことは、本当はずっと話すつもりなかったんだよね。でも訓練場のノリで、たとえ幻滅されるかもしれなくても、僕のことをもっと知ってほしくてつい話しちゃったよ。胃痛の話をしても、僕のこと馬鹿にしたりしなかった。それどころか僕の胃を気遣ってくれたよね」


 先程からイグザがレクシアに見せる表情は、幸せそうな表情ばかりだ。


「自分の治療魔法も自作の魔法薬も効かないけど、レクシアのはすごく良く効くよ。レクシアの治療魔法は、レクシアの優しさが伝わってくるから好きだよ」

「ただの治療魔法だから、優しさは特段込めていない」


 レクシアの冷静な突っ込みは、イグザにスルーされた。


「それからはますますレクシアのことが好きになっていって、自分では止められなかったよ。それで僕は考えたんだ。このまま一緒に居たら、僕のこと好きになってもらえないかな? って。自分から言い出した当て馬だったけど、それまでのレクシアの反応を見てたら、僕にも勝機があるんじゃないかと思ったんだよね」

「それであのデート?」

「レクシアがアイスクリームを食べたいと言い出さなくても、お祭りは僕の方から誘うつもりだったよ。実際はレクシアがアイスクリームの話をし出して、渡りに舟だったけどね。夜蝶祭でのデートの時は心から楽しかったよ。来年も一緒に行こうね」

「うん、行きたい」


 その思いはレクシアも同じだ。


「デートで夜が苦手だと打ち明けてくれた時、レクシアが自分の弱い所をみせてくれたのが嬉しかった。僕のことを信頼してくれてると思えたんだよ」


 イグザは一旦話を切った。イグザの表情が一気に険しくなる。


「でも当て馬の話を出されて、僕は現実に引き戻された」


 現実の部分にレクシアはものすごく引っかかった。


「え、現実? 現実というか、現実……? イグザの思い込みだったんだから、どちらかというと妄想の類?」


 レクシアに痛いところを指摘されて、イグザは弁明しようと必死だ。


「あの時の僕にとっては、現実だったからね! あの後かつてない胃痛で死ぬかと思ったよ」

「最後までわたしの話を聞かないイグザが悪い。ちなみに今胃は平気?」

「平気ではないね。一昨日にレクシアと別れてから、ずっと痛くて。別れた直後がピークで、昼に殿下とファリン様に捕まってた時が二番目のピークだったよ」

「治療する?」

「ありがとう。お願いするよ」


 イスから立ち上がろうとしたイグザを、レクシアが手で制した。


「なんで立ち上がるの? 手を握れば治せる」

「そうなんだね。良かったよ。腹に触れられると、どうしてもよこしまな気持ちがね」

「イグザでもよこしまな気持ちあるんだ」

「僕だって男なんだよ」


 イグザは王太子であるエルキューザよりも王子様然としているので、どうしてもそういった下心とは無縁なようにレクシアは思ってしまう。でもそういえばと、レクシアは思い出した。


「そういえば、殿下の結婚したら下着云々の話に、イグザも反応してた」

「あっはっはっは。それは今は置いておこうか。でも手を握るだけで治せるなら、どうしてあの時はお腹に手を?」


 イグザの質問はレクシアへのお返しだった。イグザはよっぽど下着云々の話を、レクシアに蒸し返されたくなかったらしい。


「完全に無意識だった。深く聞かないで!」


 レクシアの顔が一気に熱くなった。レクシアは人目が無かったとはいえ大胆なことし過ぎていたと、恥ずかしくて仕方ない。


「僕の推測を言ってもいいかな?」


 腹黒くイグザが聞いてきた。レクシアが駄目だと言っても、イグザは間違いなく言ってくる。これは本当に駄目なやつだと、レクシアの野生の勘が警鐘を鳴らしていた。


「普通動物は気を許さないと、急所であるお腹を触らせないものなんだよ。レクシアは無意識に、僕が自分に気を許してくれてるかどうか、知りたかったんだろうね」

「冷静に分析しないで」


 そう分析されると、レクシアはますます恥ずかしい。穴があったら入りたい心境だ。視線を彷徨わせまくるレクシアを見て、イグザは追い打ちをかけてきた。


「その髪色が好きだよ。青紫色の大きな瞳も好きだ。その瞳には僕だけを映していてほしい。魔法の制御が苦手で初級魔法を大爆発させて、うっかり肋骨二、三本やっちゃうところも可愛らしいと思うよ。すぐに自分の治療魔法で治して、何事も無かったかのように振る舞うところもね」

「やっぱりばれてた!」


 完全に隠し通していたつもりが、バレバレだった以上に恥ずかしいものは無い。両手で顔を覆うレクシアは、恥ずかしすぎてイグザを直視できずにいた。


「ぐっ、恥ずかしがるレクシアが最高に可愛い。好きだ」

「やめて、好きはもういい」


 イグザにあまりに好きと連呼されて、レクシアが音をあげた。かつてない羞恥と諸々が今レクシアを襲っている。


「そんなかわいらしい反応をしてくれるなら、僕はいくらだって好きだと言うよ」

「やめてもう無理。今日の許容範囲を超えてる! 致死量になる!」


 きっとイグザは素敵な笑顔になっているだろう。直視できないレクシアには分からない。顔を覆うしかできず顔を覆ったままのレクシアは、どうやってこの場から逃げ出そうか考え始めていた。


「将来宰相として働く上でも、レクシアのことは絶対に手放したくないよ。レクシアがいてくれないと、僕の胃が死ぬ。これから先も癒してほしい、僕の胃を」

「理由が切実過ぎるし、口説き文句が残念過ぎる」


 イグザの発言が残念切実過ぎて、レクシアの羞恥は一瞬でどこかにいった。顔の赤さも嘘のように一気に引いた。

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