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41話

 療養中のレクシアからお願いという名の強要の手紙を受け取ったイグザは、すぐに予定の調整を行った。レクシアはイグザの身代わりになったようなものだ。そのレクシアからの頼みごとなら、イグザが断るわけにはいかなかった。


 まさかあのキッカラン家の箱入り令嬢をいさかいに巻き込んで、危害を加えてしまうとは。自分とファリンがしでかしたことに、イグザはさっそく胃の痛みが増してくる。


 レクシアの代理一日目、図書室を訪れたイグザはラコットに声をかけた。


「レクシア・キッカラン辺境伯令嬢の代理で来ました。イグザ・ラフロストです」

「レクシアはんの代理で来はったん? かまへんかったのに、レクシアはんも律儀やわぁ」


 ラコットはレクシアが長く休んでいることを、知っているようだった。ラコットに図書当番の仕事を教えてもらってから、イグザはカウンターで貸出当番代理として過ごした。イグザが図書室に来ていることは広まっていないらしく、一日目は平穏無事に過ぎて行った。


 大丈夫だ、今胃は痛くない。そんなことをイグザが考えていると、白髪をツインテールにした女子学生が、どんっと二冊の本をカウンターに置いた。


「レクシアが勧めてくれたこの本、最後まで読んだけど全然面白くなかったんだからね。次も勧めてくれたのを借りようなんて、思ってないんだからね。全然気に入ったりしてないんだから、ね?」


 最初の威勢はどこへやら、フィエの勢いはだんだん弱くなっていく。


「あれ、うそ? レクシアじゃない。チョコミントの君だ! あれ? 今日はレクシアの日?? え? あれ?」


 混乱するフィエは、レクシアが療養中であることを知らなかった。フィエは挙動不審な動きで、きょろきょろとレクシアを探すようなそぶりを繰り返す。


「レクシア・キッカラン辺境伯令嬢は重篤な感染症になったから、寮で療養中だよ」


 表向きはそういうことにしているとファリンから聞いていたので、イグザはそうフィエに伝えた。


「え? え? 大丈夫かな? レクシア……。はっ、レクシアのことなんか全然心配じゃないんだからね。これ返却です。こっちは借ります」

「承りました」


 イグザから貸出処理が終わった本を受け取り、フィエは走り去っていった。イグザはフィエを見送ると、返却された本に返却処理を施す。ここでイグザは貸出カードから、白髪の女子学生がフィエ・エントラという名前だと知った。


 どうやらフィエはレクシアの友人らしい。今後役に立つかもしれないので、イグザは頭に入れておくことにした。


 再びイグザに平穏な時間が流れていく。することもなく手持無沙汰なイグザの頭を過ったのは、レクシアのことだった。レクシアからの手紙には、隠しきれない苛立ちが多大に滲み出ていた。イグザとしてはこれ以上、レクシアの機嫌を損ねるわけにはいかない。


 イグザが先のことを考えると、すぐに胃痛がやって来た。このままでは自分が宰相になった時に、非常に不味い事態になるかもしれない。とにかくレクシアとの関係を早急にどうにかしなければ。


 胃痛に思考を乱される中、イグザは名案を思い付いた。そうだ、修羅場事件が帳消しになるぐらい、レクシアの好感度をとにかく上げよう。高い分には困ることは無い。今後のイグザの行動指針が、ここではっきりした。


 次はレクシアの好感度を上げるには、どう行動したらいいかだ。イグザは今まで積極的に、女性からの好感度を上げようとしたことが無かった。どうしたらいいのか見当もつかない。


 この時のイグザは、誰かを好きになったことがまだ無かった。恋愛経験皆無のイグザは、人生始めての難問にすぐに煮詰まってしまった。


 そんなイグザの視界に一冊の本が入った。棚に戻さず手元に置いたままになっていた、先程フィエが返却した本だ。イグザはレクシアが勧めた本とやらに興味が湧いた。何かのヒントになるかもしれないと気分転換もかねて、イグザは本を開いて読み始めた。


 ちなみにその本は、当て馬が十三人ほど出てくる恋愛小説だった。図書室の閉室時間までには読み切れず、イグザはその本をそのまま借りて行った。恋愛感情とやらは理解できないままでも、結構面白いなと翌日には読み終えた。


 このあたりからイグザの中で、恋愛に対する微妙にずれた認識ができ始めていた。


 時は流れて貸出当番代理二日目、この日は一日目同様平和にとはいかなかった。


 イグザが図書室にいると聞きつけた女子学生たちによって、本日の図書室は大賑わいだ。騒ぐ者は即刻ラコットに追い出されたが、ラコットに迷惑をかけたせいで、イグザはキリキリと胃が痛かった。


 気休めに治療魔法を自分でかけても、胃の痛みは消えないままだ。イグザが胃痛に思考を乱されていると、受付カウンターに本が差し出された。


「返却で」


 本を返却しに来たのはロギアだった。この時イグザはまだロギアの名前を知らない。


 ロギアが差し出した本に、イグザは見覚えがあった。この本は一日目の貸出当番代理の時に、フィエが借りて行ったものだ。


「貸出者と返却者が違うね」

「フィエの代わりだ。レクシアじゃないなら、自分で行きたくないと」


 本当にレクシアでなかったと呟いて、ロギアは図書室を後にした。その背中を見送りながら、イグザはロギアのことも覚えておくことにした。


 返却処理が終わると、再びイグザはすることが無くなった。胃の痛みはだいぶ落ち着いてきたが、まだ微妙に痛みが残っている。


 イグザは気を紛らわせるために、ロギアが代理で返しに来た本を読み始めた。これもレクシアがフィエに勧めた本であり、中身は婚約者横取りが五連鎖程する話だ。残りの時間では読み切れずに、イグザはその本を借りて帰った。先が気になってしまい、その日の夜には全て読み終えた。


 恋愛小説を二冊読んでみても、相変わらずイグザは恋愛がよく分からないままだった。レクシアの好感度を上げる方法も解決していない中、イグザは急に閃いた。読んだ恋愛小説を参考にして行動すればいいのではないかと。


 小説と現実を混同するような考え方を、イグザはなぜおかしいと思わなかったのか。恋愛未経験者にそこまで求めるのは酷だったのだろうか。


 それからしばらくして、体調が回復したレクシアが学園に戻ってきた。レクシアが学園に戻ってきた初日、レクシアとフィエとロギアの会話を、偶然居合わせたイグザは影から聞いてしまった。それも全てではなく、中途半端にという微妙な形でだ。


 先に言っておくと、ツンデレなフィエと、無口なロギアと、初恋未経験のイグザと、フィエが好きな恋愛小説の組み合わせは、びっくりする程最悪だった。


 どうでもいいパーツが、イグザの中で無駄に組みあがった。関係ない点と点を線で無理やりつないで、絵にしたと言うべきか。


 もしかしてこの三人は三角関係!? この場を見せることで、どうにかしろと言うことか!? これでレクシアと黒髪の彼の仲を取り持てれば、レクシアの好感度が上がる!? 


 全部イグザの思い込みだ。この思い込みを天命だと思い、無駄な使命感にイグザは燃えた。


 これが謎の魔発想の真相だった。

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