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40話

「久しぶりにレクシアと一緒にお昼を食べたって、フィエは全然嬉しくなかったんだからね。レクシアなんかいない方が良かった、し?」


 レクシアの背後の何かに目を奪われたフィエの語尾が、不自然に疑問形になった。


 何かと思いレクシアが後ろを振り返ると、そこではイグザがエルキューザとファリンによって捕獲されていた。右腕をエルキューザに掴まれ、左腕をファリンに掴まれ、どう見ても捕獲されていた。そりゃあカフェテリアもざわついて当然だ。


「疲れたぞ。イグザが運動音痴で助かった。どれだけ苦労したか、事細かに語りたいところではあるが、それはまた別の機会にだ。お前たちはちゃんと二人で話せ」


 どうやらファリンとエルキューザは、レクシアのためにイグザを探して連れて来てくれたようだ。ファリンの手によって、レクシアは右手でイグザの右手首を掴ませられた。せっかく苦労して捕まえてきたのだから、絶対に逃がすなということらしい。


 気まずく沈黙したままのレクシアとイグザを尻目に、ファリンとエルキューザが笑顔でハイタッチしている。現実逃避にレクシアは考えた。こんなことができるまで、すっかりファリンとエルキューザが仲良くなったのなら良いことだと。


 レクシアの目の前でイグザは落ち着きなく目を泳がして、口をつぐんだままだ。このままずっと現実逃避しているわけにもいかない。でも何を言っていいか分からないままのレクシアは、とりあえず名前を呼んでみた。


「えっとイグザ?」

「うう、愛しい君が、君が邪険に扱われるのは見てられないよ。胸が痛いし、胃も痛い」


 一人で勝手に感極まったイグザは、レクシアの左手を両手で包んだ。レクシアはイグザの手首を掴んだままなので、互いの腕の位置関係が何だかややこしいことになっている。


「彼じゃなく僕を選んでくれるなら、僕は誰よりも君を幸せにしてみせるよ!」


 話の方もややこしくなっていた。興奮するイグザを見て、逆にレクシアは冷静になる。彼とは一体誰で、イグザは誰との比較をしているのか。思い当たる人物がレクシアには一切いないのだが。


「え~? どういうこと?」

「分かった。はっきり言うよ。君のことを好きになってしまった。必ず幸せにするから、彼よりも僕を選んで欲しい!」


 イグザはびしりとロギアを指差した。イグザの突然の公開告白に、周囲に動揺が走る。


 イグザに理解不能の言いがかりをつけられたロギアは、『え、俺?』と自分で自分を指差した。フィエはロギアとレクシアとイグザを見比べて、言葉を失っている。当然ロギアとフィエは混乱しており、もちろんレクシアも混乱していた。


 イグザはレクシアの返事を待っているようで、衝撃の告白以降何も言う気は無さそうだ。ロギアとフィエはこのカオスに巻き込まれただけで、この場をどうにかできるはずがない。外野は論外だ。


 つまりこの場の収拾をつけられるのは、恐らくレクシアだけ。とりあえずイグザがしているであろう、一番大きな勘違いを訂正しよう。他の話はそれからだ。


「わたしはロギアのことを何とも思っていない。ロギアはただの幼馴染」


 レクシアが視線を送ると、ロギアは一度頷き、フィエは何度も縦に首を振った。そんな三人の様子を見てイグザは。


「……へ? ………………やったーーーー!!」


 叫ぶイグザに周囲の注目が集まる。イグザの心から嬉しそうな笑顔に、近くにいた女子学生たちの頬が朱に染まった。


「は?」


 そんな一方で微妙にキレ気味なレクシアだ。心配したり不安になったり悲しくなったりしていたのが、今は馬鹿らしくて仕方ない。一人でハッピーになっているイグザに、レクシアは無性にイラッとしていた。


 昼休み終了間際の鐘が無情にも鳴り始める。今日は午後も授業があるので、このまま話し合いを続けることはできない。


「イグザ? 放課後、図書室、集合」


 笑顔だが目が笑っていないレクシアのドスがきいた声での宣言は、場を凍りつかせた。レクシアはこういうときに、キッカラン家っぽさが丸出しになってしまうのだ。


「ご、ごめんね、レクシア」


 慌てて謝るイグザを無視して、レクシアはカフェテリアを後にした。レクシアは一刻でも早く、この場を離れたかった。安堵のあまりに泣き出しそうだったから。


 レクシアが去った後のカフェテリアは、イグザを心配する声で溢れていた。レクシアがイグザに言い残したのは、完全に放課後のお呼び出しだ。ところが周囲の声を気にも留めず、呼び出しを食らった当のイグザはニコニコしているだけ。


 ここで一部の女子学生は、否応なしに理解してしまう。イグザが自分の意思でレクシアと一緒に居たことを。嘘偽りなくイグザはレクシアが好きなのだと。


 その後チョコミントの会のメンバーは、まるでお葬式のようになっていた。レクシアに呼び出されたイグザの無事を祈るしかできないし、イグザはレクシアのことが好きだしで、ダブルパンチだった。


 そして放課後となり、いつもの図書室である。


「使いはったらよろしいわぁ」


 察してニヤニヤ顔のラコットから、いつも通りに談話室の鍵を借り受けた。


 レクシアがイグザの腕をひっぱり、談話室内に連れ込む。ここなら誰にも聞こえない。ガラス窓もカーテンで塞げば、誰の目にも入らない。密室に二人きりは体裁が良くないが、そんなこと今はどうだっていい。


「全部話して」


 目が据わったレクシアが、イグザを壁際に追い詰めた。イグザの横の壁に手を付く様は、いわゆる壁ドンだ。


「話すよ。話すからドキドキするから、離れてもらっていいかな? やっぱりもう少しこのままでも。駄目だ、やっぱり離れて」

「はあ!? 姿を消す魔法にかこつけて、肩を抱き寄せて平然としてたくせに、今更この程度の距離で何!」

「だって今は、レクシアのことを抱きしめたくなっちゃうから!」


 それはまずいと、レクシアはイグザから距離を取った。イグザにだったら抱きしめられても構わないが、今は違う。全部なあなあにされそうで、それは絶対に駄目だ。


「とりあえず座ろう」


 レクシアの言葉を合図に、談話室内の定位置の席に着いた。腕と足を組み相手を威圧するレクシアと、椅子に座って小さくなるイグザ。イグザが恐る恐る話を切り出した。


「キッカラン辺境伯家は北方防衛の要だよね。そんな中で宰相とキッカラン辺境伯家が不仲だったら、どうなると思う?」

「それは色々と良くない」


 平均的な頭のレクシアでも分かることだった。


「でもわたしは実家に一切知らせてないし、今後も知らせる気はない」

「それもファリン様から聞いてたよ。それでもレクシア次第で、将来のキッカラン辺境伯家と宰相の関係はどうとでもなる。レクシアが休んでいた一ヶ月、もう毎日胃が痛くて仕方なかったよ。将来宰相になった時のために、少なくともレクシアから僕に対する負の感情は無くしておきたかった。あわよくばレクシアと友人になっておきたかった。それでレクシアのために何ができるか考えたんだよね。考えた結果、当て馬になろうと思ったんだよ。僕が当て馬になることで、ロギア・リオー伯爵令息との仲を応援できればとね」


 スタートは至ってまともだったはずが、ゴールは明後日の方向だった。レクシアの好感度を上げるまでは分かるとして、そこからなぜ当て馬にいくのか。好感度の上げ方が斜め上すぎる。


「なんでそこでわたしがロギアを好きってなるの。カフェテリアでも言ったけど、ロギアとわたしはそんな関係じゃない。ロギアはただの遠縁の幼馴染。ちなみにラコットさんとロギアは親戚同士」


 ラコットとロギアは同じ黒髪だ。ラコットが縁となり、レクシアはロギアやフィエと出会い幼馴染になった。


「そうだったんだね」

「どうしてそんなアホ……ではなく魔発想に至ったのか、もう少し詳しく」

「それはね――」


 ここで話は、レクシアが療養生活中だった時まで遡る。

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