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35話

 レクシアとイグザは注文したアイスクリームを受け取り、丁度よく空いた外の二人がけのテーブル席で食べることにした。


「美味し~い!! 今まで食べた中で一番美味しい!」


 あまりの美味しさで、レクシアはびっくりだ。キッカランの屋敷で作ってもらっていたものも美味しかったが、それを余裕で超えてくるとは夢にも思わなかった。これ以上ないほど滑らかなアイスクリームに加えて、チョコレートの甘みとミントの清涼感が完璧なバランスだ。


「レクシアが気に入ってくれたなら嬉しいよ」


 アイスクリームを一口食べたイグザが大声を上げた。


「あ!」

「え! 何!?」


 イグザの急な大声に、レクシアは再びびっくりだ。


「大したことじゃないよ。僕は違う味を頼んで、レクシアとあーんで交換すれば良かったと、今気付いただけだから」


 イグザがあまりに真面目な顔で言うので、レクシアは思わず笑ってしまった。


 気を取り直して美味しいアイスクリームに舌鼓を打っていると、レクシアは人混みの中によく見知った顔を見つけた。


「あれ、ベクルール先生とアルミエ先生じゃない?」

「二人もデートみたいだね」


 一目でデートだと分かったのは、アルミエがベクルールの腕を抱いていたからだ。アルミエは強面をでれでれにして、幸せそうにしていた。


「本当に恋人だったんだ」

「ここでデートしてる時点で、二人とも周りに隠してないみたいだよね。アルミエ先生なんか植物園で何回も恋人だって言っちゃってたし」

「普通は腕を抱くのは逆じゃない? 普通は男性の腕を女性がでしょ?」

「あの二人はたぶん中身が入れか……ううん、やっぱり何でもないよ。憶測で物を言うのは良くないからね」


 イグザに訊いても教えてくれなさそうだったので、レクシアは早々に諦めた。レクシアが手元のアイスクリームに視線を落としていると。


「ところでレクシア、レクシアも後で僕と腕を組んでみない?」

「へ!?」

「なんて冗談だよ」


 真っ赤になった顔を上げたレクシアに対して、イグザは涼しい顔だ。一人で余裕あるイグザを、微妙に不満に思うレクシアだった。


 アイスクリームを堪能し終えた二人は、続けて祭りを見て回ることにした。


 学生街と呼ばれているこの周辺は、二つの大きな広場をつなぐ商店街を中心に成り立っている。二つの広場の内、片方には大きな噴水があり、もう片方にはいくつかの銅像が置かれ、それぞれ噴水広場、銅像広場が通称だ。


 レクシアとイグザは、アイスクリーム屋から銅像広場へと移動した。広場では複数の大道芸人や吟遊詩人が、それぞれの演目を観客相手に披露していた。そんな中、刃物を用いたジャグリングが行われている前で、レクシアとイグザの足が止まった。


「魔法なしでこれができるんだからすごいよね」

「何回か練習すれば私もできそう」


 感心した声を上げるイグザと、思ったことをそのまま言うレクシア。


「そんな感想になるのは、レクシアぐらいだよ」


 楽しげに言うイグザに釣られて、レクシアも楽しくなる。演目を終えて一礼したジャグラーに、二人は惜しみない拍手を送った。


 そのままいくつか他の大道芸を見た後、レクシア達は商店街の方に戻り露店や商店を見ることになった。


「レクシアはこういうのは着けないよね?」


 イグザが手にしているのは、花をモチーフにした髪飾りだ。若い女性に人気のアクセサリー店で、レクシアとイグザは髪飾りの売り場を眺めていた。


「自分で買おうとはあまり思わない」


 活動的なレクシアからしてみれば、髪飾りは落としてしまいそうだとつい思ってしまう。でもキラキラした可愛い物は、レクシアだって嫌いではない。


「プレゼントしてもいいかな?」


 蕩けそうなほど甘い笑顔を向けられては、レクシアは頷くしかできなかった。レクシアが頷くや否や、レクシアにどの髪飾りが似合うか、イグザは次々に当てては戻してを繰り返した。


「今日は夜蝶祭なんだから、蝶も捨てがたいよね」


 せっかく減らした候補がまた増えた。ああだこうだと言いながら、イグザが髪飾りを三つまで厳選した。レクシアはこの中からどれがいいか訊かれるのかと思いきや。


「それじゃあ他も見に行こうか」

「え? 三つから絞らないの?」

「高い物じゃないから、これぐらいプレゼントさせてよ」


 その後普段使いしても邪魔にならないようなリボンまで買ってもらい、レクシアの気持ちはふわふわと浮ついた。レクシアは家族以外の男性から、贈り物をもらうのは初めてだった。


 正確に言えば、幼馴染のロギアから誕生日プレゼントをもらったことはあるのだが、どちらかというと親戚枠なので、そういうのではないのである。


 レクシアがゆるゆるになっている頬を隠しもせずに、イグザと並んで通りを歩く中、気になる看板にレクシアの目がとまった。


「恐怖の館?」


 暗幕に囲われた空間で何かが行われているらしい。お祭りの出店に対して、館でも何でもないという突っ込みは野暮というものだ。


 レクシアが『恐怖の館』と書かれた看板に目を止めただけだった一方で、イグザは看板に大きく反応した。


「レクシア、入ろう。ぜひとも入ろう」

「イグザは怖い物が好き?」

「そういうわけではないけど、いやそういうことでいいよ」

「じゃあ入ろう」


 暗幕の中に入って二十分後、二人は暗幕の中から出てきた。レクシアは平然と、イグザは疲労困憊で。


「抱きついてごめんね。わざとではないし、こんなはずではなかったんだよ。ホラーは苦手じゃないはずなんだけどな」

「まあ思ってたよりは怖かったから」


 多少怖くはあったけど悲鳴を上げる程ではないとレクシアが思ったのは、イグザには黙っておく。ホラー小説も普通に平然と読むレクシアのホラー耐性が、イグザより数段上だっただけだ。


 暗かったおかげでイグザが何も分かっていなさそうだったことに、レクシアは心底ほっとしていた。中であったことを少し思い出すだけで、レクシアは顔が赤くなりそうだ。


 外に出て来た時は平然としていたレクシアだったが、暗幕の中にいた時はお世辞にも平然としているとは言えなかった。暗幕の中の暗い場所でイグザに抱きつかれたレクシアは、心臓が飛び出そうなほどにドキドキしていた。レクシアが恐怖を感じなかったのは、イグザに抱き着かれて恐怖体験どころではなかったせいもある。

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