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33話

 その後のことは得意げな顔のエルキューザが、訊いてもいないのに教えてくれた。もちろんファリンがいない隙を狙ってだ。レクシアとしては非常に気になっていたので、教えてもらえるならありがたいところである。


 結局王妃教育の件は、エルキューザが上手く立ち回ったおかげで、ビスホス公爵夫人は担当から外されることになった。抵抗はしたらしいが、公爵夫人一人が王家に逆らえるはずもなかった。その後独自に調査を行い、事態を重く見たビスホス公爵から、ビスホス公爵夫人には当面の外出禁止令が出されたそうだ。


 ファリンの王妃教育は、世間一般の目から見てもう十分なものだった。毎日の放課後から夜遅くまでの拘束は、ただの嫌がらせでしかなかったのだ。ビスホス公爵夫人の息がかかっていた講師陣は総入れ替えとなり、やることは復習程度の内容に変わった。頻度も月一、二回ほどに減った。


 時間に余裕ができたファリンは、エルキューザのために時間を使うことにした。ファリンに付き合ってもらい、エルキューザは勉強や鍛錬を頑張っている。その全てに付き合えている時点で、ファリンのハイスペックさがよく分かるというものだ。


 エルキューザは心を入れ替えて真面目になり、王太子としての自覚が出てきたともっぱらの評判で、人気や人望も回復してきていると言われている。


 相変わらずファリンは無表情気味だが、それでも以前よりはずっと表情豊かになった。いつか無慈悲な公爵令嬢と言われなくなる日も来るかもしれない。


 ファリンとエルキューザのことは全て一件落着した。この二人ならどんな苦難だって、乗り越えられるとレクシアは思う。


 筆記試験と実技試験も無事に終わり、レクシアはどちらも合格点を取れた。魔法実技の試験監督の教師に、『そうか……、投げるか……』と達観した目で言われたが、些細な問題だ。


 こうして何もかもが解決したかというと、いいや解決していない。レクシアとイグザの不思議な関係は未だに続いている。イグザの奇行の謎は解き明かされていないままだった。


 ファリンとエルキューザが二人で昼食を食べるようになったことで、ここしばらくレクシアとイグザは二人で昼食を食べている。


 婚約者同士でも、恋人同士でもなんでもない二人で、どうして昼食を食べているのだろう? 冷静に考えるとどうなんだ、これは? 本当にレクシアとイグザの関係は何なのだろう? 友人?


 最初の当て馬宣言を放置した結果、こんなところまでやって来た。レクシアの思考がぐるぐると無駄に回る。


 どうやらイグザは、ファリンに横恋慕してはいなかったらしい。元からファリンに否定されてはいたものの、レクシアの推測は外れたことが証明された。となるとあれは言い間違いではなく、イグザが当て馬になる話だった。


 レクシア達の座るテーブルの横の通路を女子学生が通った。女子学生は恨めしげな視線を、遠慮なくレクシアに投げつけてくる。レクシアが近くにいるとイグザに他の女子学生が近づけないので、イグザ好きな女子学生に恨めしげに見られるのは、最初の頃と変わらずだ。


 もしかして当て馬になると言いつつ、イグザはレクシアを女性避けにしていた? レクシアに危害を加えるような命知らずは学園内にいない。エルキューザに決闘で勝って以降、それはますます顕著になっていた。以前までレクシアの実家ばかりを恐れていた女子学生達は、今やレクシア自身も恐ろしい存在だと思うようになったらしい。


 レクシア以上の女性避けが、この学園にいるだろうか、いやいない。残念な結論でもレクシアはショックを受けない。受けていないとレクシアは思いたかった。


 アイスティーを飲みながら、レクシアは目の前にいるイグザを見た。チョコレート色の髪とミント色の瞳、レクシアはイグザを見るといつも思うことがある。それがぽろりとつい口から出た。


「チョコミントアイスが食べたい」

「レクシアはチョコミントアイスが好きなの? あれは好き嫌いが分かれるよね」

「好きか嫌いかで言うと好き」


 レクシアはチョコミントアイスの甘みがありながら、食べ物らしからぬスース―としたあの風味が好きなのだ。


「それは嬉しいね」

「イグザ様を見てると、チョコミントアイスが食べたくなる。あ~、無性に食べたい」


 ルダに頼んで買って来てもらおうかと、レクシアが算段している時だった。


「じゃあ明後日の休みに一緒に食べに行こうか? おいしいアイスクリーム屋さんを知ってるよ」

「行きたい!」


 イグザからの思わぬ誘いに、レクシアは即答していた。レクシアが王都に来たのは、王立学園への入学を機にしてだ。今までは休みの日でも外に出ることは少なく、王都にある店は全然知らなかった。


「そういえば明後日って確か祭日だっけ?」

「うん、そうだよ。ついでにお祭りも一緒にどうかな?」


 断るという選択肢はレクシアには無かった。レクシアは大きく頷き、イグザは嬉しそうな笑みを浮かべた。


 その日寮に帰ったレクシアは、さっそくイグザとの約束を侍女のルダに伝えた。


「ルダ、明後日の休みに、イグザ様と出かける」


 嬉しそうなレクシアに、ルダから指摘が入った。


「レクシア様、それってデートでは?」

「違うでしょ」


 レクシアはルダの言葉をすぐさま否定した。


「デートでなくても、イグザ様とのお出掛けは楽しみ」

「だからそれはデートでは?」

「違うでしょ」


 デートなのかデートではないのか、不毛な水掛け論はしばらく続いた。

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