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30話

「レクシアはんの大爆発えらい久しぶり見たわぁ」


 本を読んでいたはずが、ラコットには先程の大爆発をばっちり見られていたようだ。


「怪我は治しはったんやろ? ならええわ」

「うん、イグザ様の怪我はもう治した」


 自分が負った怪我に関しては、しれっと無かったことにするレクシアだった。イグザが何か言いたげだったが、そこは知らないふりをしてスルーだ。


 ラコットが座るベンチとは別のベンチに二人で座ると、イグザはとつとつと自分のことを話し始めた。


「僕は昔から胃痛が酷くてね。僕が治療魔法学と魔法薬学の授業を選んだのは、本当は消去法じゃなかったんだよ。どっちも胃痛をどうにかできないかなと思ったから。どちらを使っても全然効果なかったけどね」

「わたしのなら独学だから、もしかしたら効くかも。胃痛は今まで治したことないけど、ちょっとごめん」


 レクシアの手がイグザの腹部に触れる。レクシアの足元に淡く光る魔法陣が現れて消えた。レクシアがイグザの顔色を窺うと、イグザは驚きを隠せていなかった。あんなに悪かった顔色は一気に良くなっている。


「もう全然痛くないよ!?」

「イグザ様の役に立ったなら嬉しい」


 レクシアがにっこり笑うと、イグザは顔を伏せて先程よりも強くレクシアの手を握りしめた。


「また痛いの?」

「もう大丈夫だよ。特訓の続きをしないとね」


 強がって微笑むイグザは、たぶんレクシアに何かを隠していた。


「さっきのレクシアの爆発を見て、分かったことがあるよ」


 イグザはレクシアと手を握ったままだ。離す理由もないので、レクシアはそのまま手をつなぎ続けた。


「何?」

「レクシアが魔法制御が苦手な理由だよ。細かく説明すると、レクシアの頭がパンクしちゃいそうだから、簡単に説明するね。レクシアが使える魔法の一部の発動時間は、魔法陣が認識できないぐらい早いよね。魔法陣が見えるものでも、一般的な発動時間よりずっと短いよ。これはレクシア独自の特性と言っていいね。どうしてそうなったのかは、必要に駆られて短くならざるを得なかったからじゃないかな。それで使える魔法と同じように、使えない魔法を使おうとすると、魔法式構築と魔力変換に齟齬が生じることになるんだね。その齟齬のせいで一部の魔力は変換される前に、行き場がなくなる事態に陥って、その行き場のない魔力が弾けて爆発として観測されることになるんだよ」


 イグザから一気に説明を聞かされて、レクシアは理解が追いついていない。


「えっと、つまり?」

「要するに魔力に過度の圧がかかりすぎて、爆発してるってことだよ。だから出来る限りゆっくり丁寧に、を意識して魔力を操作してみて。初級魔法ならそれで爆発しないからね」

「担当の先生にそんなこと言われたことない」

「レクシアの特性を先生が理解してなかったからだね。先生の前で攻撃魔法以外を使った事ないよね? 僕のことを信じてとりあえずやってみてよ」


 レクシアは不承不承頷いてから、先程魔法を爆発させた場所に戻った。地面の穴はそのままになっているので、あとで塞がなければいけない。


 自分の言葉を裏付けるように、イグザはレクシアの近くに陣取ったままだ。よほど自信があるらしい。もしまた爆発しても身を挺して守ればいいかと、レクシアは考える。そもそも爆発させないという選択肢は、レクシアに存在しない。


 今度は二回深呼吸をしてから、レクシアはイグザに言われた通りに魔力を操作した。ゆっくり丁寧に。レクシアの足元に赤い魔法陣が現れ、掌に火球が生じた。ゆらゆらと不安定ではあるが、それは確かに火球だった。


「火球だ! 初めてできた」

「その不安定さだと、魔力操作で的まで飛ばすのは無理だと思った方がいいね」

「え!? じゃあここからどうするの!?」


 火球を出せるだけでは意味が無いのだ。魔法実技試験では的に当てるまでがセットになっている。


「レクシア、レクシアだからできるいい方法があるよ」


 勿体ぶるイグザにレクシアが催促の視線を送る。早くしてくれないと火球が維持できないのだが。


「腕力だよ。投げよう。投げて当てよう。魔法実技試験で腕力を使ってはいけない決まりはないよ。運動神経がいいレクシアなら、きっと大丈夫だからね」


 まさかの魔法関係ない手段。でもたしかにそれ以外に方法は無い。レクシアは意を決して、掌の火球を魔法訓練用の的に思いっきり投げた。


 レクシアが投げた火球は的に見事命中。方法はどうあれ成功だ。


「先生にはお手上げだったのに、イグザ様すごい! ありがとう!」


 レクシアは飛び跳ねて喜んだ。イグザに抱きつきそうになって危なかったのは、イグザには秘密だ。


「この調子で慣れるまで練習しようか」


 その後何度も何度も練習して身体に覚えこませた。練習の甲斐あってレクシアは、火魔法と水魔法を的にぶつけられるようになった。腕力に頼るという方法はともかくとして、次の魔法実技試験で合格はできそうだ。


 試験合格の目途がたち安心したレクシアは、地面に開いたままになっている穴に目をやった。ずっと視界にちらちら入るので、ずっと気になっていたのだ。


「……今ならいける気がする」

「レクシア、無理はしなくていいよ……? 僕が塞ぐからだいじょ」


 レクシアは土の中級魔法で、先程自分が開けた大穴を塞ぐつもりだった。ゆっくりと魔力を操作する。魔法陣が現れる。そして。そして。


 ドーンと爆音。派手な地響き。更に抉れる地面。吹っ飛んでいく何か。


 大失敗だ。


 レクシアの魔法音痴が、そう簡単に改善するはずがなかった。ただ今回は中級魔法による爆発であっても、レクシアは肋骨一本の犠牲で済んだので進歩はしているはずだ、たぶん。


「はぁ~、やっぱり駄目かあ」


 調子に乗るとろくなことにならないとレクシアが反省する。しれっと自分の骨折を再び魔法で無かったことにして、レクシアは自分の横を見た。そこにいたはずのイグザがいない。


「あれ!? イグザ!? ごめん!!」


 爆発に巻き込まれたイグザは、はるか遠くにかっ飛んでいた。レクシアは急いでイグザの元に駆けて行った。


 地面の大穴は結局イグザが塞いでくれた。

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