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24話

 レクシアの決闘の申し込みから十日が経ち、ついに決闘の日がやってきた。レクシアとエルキューザの決闘が行われるのは、放課後の訓練場だ。


 レクシアは朝から何事も無く普段通り過ごすつもりだったが、周囲は全く普段通りではなかった。王太子と化け物一族キッカラン家の令嬢の決闘だ。その日のうちに学園中に広まったように、話題にならないはずがない。


 朝から興味本位で、他学年からも教室にレクシアの姿を探しにくる者もいたが、レクシアが睨むとすぐに退散していった。あいつらは暇なのかとレクシアは辟易する。レクシアとエルキューザのどちらが勝つか、賭けまで行われているらしい。


 周りに騒がしくされると、レクシアもだんだん落ち着かなくなってくる。そわそわと平静を交互に繰り返して、レクシアは放課後までを過ごした。


 王立学園の訓練場は、すり鉢状の闘技場を模したものになっている。放課後決闘が行われる訓練場の観客席は、多くの人々で賑わっていた。


 レクシア・キッカランといえば、キッカラン辺境伯家の深窓の令嬢だ。家族に大事にされるあまり、学園入学まで領地内から一度も出してもらえなかったとされている。


 レクシアは周囲に怖がられることが多いが、それはレクシア本人というよりは、レクシアの後ろにいる家族を恐れてのことだ。至宝のような扱いを受けていたレクシアに何かあれば、キッカランの悪夢と呼ばれる人物が黙っていない。


 真偽のほどは置いておいて、以上が学園内の大半の人々から見た、レクシア・キッカランという令嬢だ。


 人が溢れる観客席の一際見晴らしの良い席で、ファリンとイグザは今か今かと決闘が始まるのを待っていた。


「心配ですわ。レクシアさんは最低限と言っていたわ。レクシアさんに何かあったら、私、私」


 胸の前で握りしめられたファリンの両手は、かすかに震えている。


「ファリン様はどちらを応援するのかな?」

「当然レクシアさんよ」


 即答したファリンにイグザが意地悪く笑いかけた。


「殿下に少しぐらい痛い目を見て欲しいと?」

「違……いえ、そうかもしれませんわね……。レクシアさんが殿下に決闘を挑もうとしたのは、立ち上がった瞬間に分かっていたわ。でも私は止めなかったの。私はなんて悪い女なのかしら。レクシアさんは孤独だった私の学園生活を変えてくれたわ。だからレクシアさんならきっと、何かを変えてくれると思ってしまったのね……」


 ファリンは小さく唇を噛んだ。


「キッカラン辺境伯家の最低限が、普通の最低限のはずがないよ。レクシアさんが負けるはずない。僕らはレクシアさんを信じて待っていればいいよ」


 イグザは以前レクシアから、ハルバードが主武器なのだと聞いたことがある。ハルバードは斧槍とも言われる、扱いが難しい武器だ。使いこなすにはかなりのセンスが必要になる。


 レクシアは素手での格闘でも、久方ぶりに使うはずのロングソードでも、考えられないような強さを見せていた。レクシアの動きは門外漢のイグザから見ても、只者の動きではなかった。本領を発揮していない状態で、あの強さ。


「大丈夫、レクシアさんはとーっても強いからね」


 レクシアはまだ訓練場に姿を見せていない。イグザはあの煌めく深紅の髪を心待ちにする。レクシアが戦う姿を再び見られると思うと、イグザの胸は高鳴った。


 止められないこの胸の疼きの本当の意味を、今のイグザはまだ知らない。


 約束の時間が間近となり、訓練場に現れたレクシアは、いつもの両サイドに三つ編みを施した髪型ではなく、長い髪をポニーテールにしていた。ほっそりとしたうなじに見惚れている者も多い。大きな青紫色の瞳と長い髪、華奢な身体は人形のようで、レクシアは見た目だけなら大変愛らしいのだ。見た目だけなら。


 しかし真紅の髪が問答無用にキッカラン家を主張してくる。どれだけ愛らしい見た目であっても、レクシアはキッカラン家の娘なのだ。


 レクシアが魔物討伐で着ていたような服装なのに対して、レクシアの後に現れたエルキューザは眩いばかりの上下白の服だった。汚さない自信があるのだろうかと、レクシアは鼻で笑いたくなったのを何とか我慢した。


 互いに歩み寄ったレクシアとエルキューザは、訓練場の中央で相対した。


「攻撃魔法は禁止、強化魔法は可、勝負は相手が降参するか、審判の止めが入るまで、でよろしいですか?」


 レクシアがエルキューザに確認したのは、一般的な学園内決闘で使われるルールだ。後は同じ剣を使用するのが普通なのだが。


「女のお前にハンデだ。武器に関しては、お前が得意な武器を使って構わん」


 審判役の教師がお前正気かという目でエルキューザを見た。剣術の担当教師である彼は、レクシアの実力を知っているらしい。決闘する相手のことを甘くみて調べようとしないとは、エルキューザは本当にまだまだな奴だとレクシアは思う。


「わー、では殿下のお言葉に甘えまして」


 レクシアは完全に棒読みだった。レクシアはロングソードで戦えないことはないけれども、これで戦うのは若干面倒だと思っていた。楽できるのならば、楽できるに越したことはない。


 エルキューザの気が変わらないうちに、レクシアは亜空間に収納している、愛用の武器を取り出した。長い柄の先端に、斧と槍と鉤爪を合わせた部位が付いた武器ハルバード、斧の部分が一際大きく作られたそれを見て、エルキューザの顔色が変わった。


「何だそれは」

「知らないんですか? これはハルバードという武器です」

「そういうことではない」

「では、真ん中の兄のお下がりです?」


 ハルバードは重くて使いにくいからいらないと、レクシアが真ん中の兄にもらったものだった。重さを全く感じさせない動きで、レクシアはいかついハルバードを頭上で軽く一回しした。


 ハルバードは本来のレクシアの腕力では、振り回せない重さをしている。不可能を可能にしているのは、豊富な魔力を活用した常識はずれの身体強化だった。魔法の制御が苦手なレクシアだが、身体強化の魔法は自然と身に付いていたものだ。


 審判がレクシアとエルキューザから距離を取った。審判が十分離れたのを見計らって、エルキューザはレクシアに暴言を吐いてきた。


「貴様のような調子に乗った女を地面に這いつくばらせるのは、さぞ楽しいだろうな」


 いや、調子に乗っているのはお前だろう。イラッとし過ぎて、レクシアは逆に冷静になる。


「挑発ですか? 殿下ともあろう方が、そんな小物みたいなことを。にしても安っぽい挑発ですね。あははは、殿下は×××で××××ですか?」


 挑発してくるなら、挑発で返す。レクシアは観客や審判に聞こえないことをいいことに、人前で言うべきではないことを堂々と言い放った。これが本当の挑発だ、四の五の言わずにかかってこいと言わんばかりに、レクシアは嫌らしい笑みを浮かべる。


「貴様!」


 エルキューザはレクシアの挑発に安易に乗った。エルキューザが剣を構えたのを合図に、レクシアもハルバードを構えた。

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