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23話

 レクシアとイグザは休日の朝から、学園の植物園に来ていた。イグザの推察通りに、薬草採取の課題は一度だけでは終わらず、二回目の薬草採取の課題が出された。二人の課題の薬草は午前中の内に見つかったので、午後になった今はただの魔物退治の最中だ。


 レクシア達は植物園と言う名の森の中を分け入りながら、偶然出会った人々の手助けも行っていた。具体的には、大型の魔物に苦戦している男子学生の代わりに魔物を撃滅したり、怪我で身動きが取れない女子学生を治療したりした。


 イグザは助けた人達に、普通にお礼を言ってもらっていた。その一方でレクシアには、おどおどとしたお辞儀だけが大半だった。それでもレクシアは慣れているから、気にしないようにしていた。


 レクシアには分が悪い鳥型の魔物を魔法で燃やしながら、世間話のようにイグザがレクシアに話しかけてきた。


「そうそうレクシアさん、ファリン様の件で新情報をゲットしてきたよ」


 イグザの高火力魔法で燃やされた魔物は地上に落ちてくることなく、塵となって消えていく。先日アルミエが捕まえていた犬型の魔物を蹴り飛ばしてから、レクシアが返事をした。


「他の人が周りにいるかもしれないし後で聞く」


 レクシアが蹴り飛ばした魔物は、遥か彼方の空に飛んでいくことなく、塵となって消えていった。レクシアの身体強化の魔法制御は、だいぶ勘が戻って来ていた。前回のように一撃で仕留め切れなかったり、意味も無くぶっ飛ばしたりはもうない。


 周囲の魔物を完全に殲滅してから、レクシアとイグザは一息ついた。


「森の中で火魔法は危なくない?」

「対象を魔物だけに指定してるから、森林火災の心配はないよ」


 さすがはイグザだ。そんなところもしっかり考えていた。


 少し進んだところに開けた場所があったので、レクシア達は休憩を挟むことにした。岩に腰かけて持ってきた水でのどを潤すレクシアに対して、イグザは魔法で水を出して飲み口元を拭った。


 端正な顔立ちのイグザが行儀の悪い仕草をすると、レクシアはついつい見入ってしまう。ギャップ萌えというのか、イグザの魅力が増すように思えた。今日の服装も相変わらず、面白いぐらいに全く似合ってないけれども。


 レクシアの視線に気付いたイグザが、レクシアの隣に腰かけた。魔物がどこからともなく襲ってくる可能性もあるので、魔法で音を聞こえなくするのは得策ではない。イグザはレクシアが聞こえるぎりぎりの小声で、話を切り出した。


「それでさっきの新情報のことだけど、ファリン様の王妃教育の主導権を握っているのはビスホス公爵夫人だね。完全に牛耳って、我が物顔で支配してるみたいだよ。ビスホス公爵夫人なら、ファリン様を目の敵にしててもおかしくはないよね」

「どうして?」


 キッカラン家は辺境であることもあり、貴族社会の裏事情には正直疎い。レクシアもその例に漏れず、各貴族の細かい事情はよく知らなかった。


「ビスホス公爵夫人は現王の婚約者に選ばれずに、王妃になれなかった人なんだよ」

「ビスホス公爵夫人はそれだけで、選ばれたファリン様に意地悪いことしてるの?」

「それ以外にも理由はあるよ。ビスホス公爵夫人はプライドを投げ捨てて、ずっと王妃殿下にすり寄ってたんだよ。自分の娘を王太子の婚約者にするためにね。でも結局ビスホス公爵令嬢は、王太子の婚約者には選ばれずに、ファリン様が選ばれた。最終的にビスホス公爵夫人は王妃殿下に、ファリン様の教育係を任されることになったんだよ。彼女が狙ってたものは、全く手に入らなかったってことだね」

「それでビスホス公爵夫人は、ファリン様が憎くて仕方ないと」


 そこまで王家に執着する人物なら、何をしてもおかしくないようにレクシアには思えた。


「まあそもそもビスホス公爵令嬢自身は、全然乗り気じゃなかったみたいだしね。留学すると言い張った挙句、今は隣国にいるよ」


 強要されると反発したくなる気持ちは、レクシアも激しく共感したかった。もしどこかで知りあったら、ビスホス公爵令嬢とは友人になれそうかもしれない。


「もしかしてビスホス公爵夫人は、娘に反抗されたイライラもファリン様にぶつけてる? 八つ当たり?」

「かもしれないね」


 レクシアの中でビスホス公爵夫人の株がどんどん下がっていく。


「ファリン様に殿下の男色疑惑を吹き込んだり、殿下にファリン様のあんな不満を偽称したのも、もしかしてビスホス公爵夫人?」

「断言はできないけど、可能性は高いと思うよ」

「そっか。ビスホス公爵夫人なら、そりゃあスレノーラ公爵もどうにもできないか……。状況詰んでない?」


 レクシアの苛立ちが増した。


「こんなことになってる原因の一部は殿下なんだし、決闘で殿下のことはぼこぼこにしてやる!」


 エルキューザを決闘の場で伸してやろうと、レクシアは決意を新たにした。八つ当たりも若干入っており、人のことを言えないレクシアだった。


「そういえばレクシアさん、決闘前に鍛錬とかはやらなくていいのかな?」

「そんな付け焼刃みたいなことはしなくて大丈夫。だいたい鍛錬するにしても、わたしの相手をしてくれる人は学園内にいない。それなら今みたいに、魔物の相手をしてる方がずっといい」


 今の話をしてレクシアは大事なことを思い出した。


「あ! あ~、忘れてた。ここからは武器で戦うから、戦い方が変わる。連携に慣れてきたところで急にごめん」

「気にしなくていいよ。どんな戦い方でも対応してみせるね。でもどうして急に武器を?」

「決闘は同じ武器を使うのが普通だから、ロングソードかレイピアで戦うことになるはず。前に使ってたことはあるから、人並みに使えるとは思う。でもずっと使ってなかったから、勘は取り戻しておきたい」

「レクシアさんは普段何を使ってるのかな?」

「ハルバード。真ん中の兄からもらったやつ」


 岩から立ち上がったレクシアは、何もない虚空からロングソードを取り出した。


 レクシアは収納魔法で亜空間に武器を収納している。普通は収納魔法が使えるなら、何でも収納できるはずなのだ。しかしレクシアの場合は残念ながら武器しか収納できない。こんなところにも、レクシアのピーキーさがよく表れていた。


 取り出したロングソードを腰に装備して、レクシアはイグザを振り返った。


「探索を再開しよう」

「うん、行こうか」


 休憩を終えて探索が再開された。レクシアは軽く素早い動きで、魔物を見つけ次第倒していく。魔物の首を切り裂いて落とし、的確に急所を貫き、頭から胴体にかけてを一刀両断。武器を使っていなかった時と変わらず、そのほとんどがその一撃必殺だった。


「本当にロングソード久しぶりなのかな。久しぶりの動きには思えないよ?」

「うん、久しぶり」


 レクシアは納剣しながらも周囲の警戒を怠らない。集中していたレクシアの耳に、遠くの方から声が届いた。


「お~い」

「なんか聞き覚えがある声?」

「行った方が良さそうだね」


 イグザは何が起きているのか既に察したようだ。声がした方向にレクシア達が進んで行くと、樹上に人影を見つけることができた。木に引っ掛かる人物は、顔面凶器な見た目で……。


「イグザさ~ん、レクシアさ~ん、助けていただけると助かりますぅ」


 今回はさほど驚かなかった。


「あ、アルミエ先生だ。また?」

「まただね」


 凄まじい既視感だ。前回と同様に、アルミエはイグザの魔法で救助された。


「どうしてまた木の上に引っ掛かってたんですか?」


 地上へと帰還したアルミエにレクシアが尋ねた。


「珍しい毒草を見つけましてぇ」


 あ、これ前回聞いたやつだとレクシアは思った。


「アルミエ先生、少しは学習してくださいね」


 笑顔のイグザから容赦なく、アルミエに有無を言わせぬ圧がかかる。


「イグザさん、その恰好似合いませんねぇ」


 アルミエからイグザへの反撃まで同じだった。だが今回のレクシアは、爆笑に陥ったりはしない。がっつり凹むイグザをレクシアが慰めると、イグザは案外早く立ち直った。


「こうしてまた出会ったのも何かの縁ということで、私も一緒に行きますよぉ。愛しいルーたんのために皆で頑張りましょ~う」


 前回聞かなかったことにしたことを、もう一度聞かされたレクシアとイグザは、再び何も聞かなかったことにした。


 レクシアとイグザとアルミエの三名の活躍で、薬草採取という名の魔物討伐の課題は計二回だけで済んだ。手早く事が済んで、ベクルールはにこにこだ。しゃべらなければいいのにと誰もが思ったが、そんなことは口が裂けても本人には言えない。


「作った魔法薬を提出した奴から、今日は帰っていいぞ。あとイグザとレクシアはちょっと前に来い」


 授業終わりにレクシアとイグザは、ベクルールの呼び出しを受けた。何かやらかしたかとレクシアは不安になる。だがイグザが一緒なら悪い話ではないだろうと、すぐに思い直した。


「お前たちの活躍はアーたん、じゃなかったアルミエから聞いた。あいつはまた後先考えずに……。アルミエのことも助けてくれてあんがとよ。成績に加味しとくから期待しとけ」

「「ありがとうございます」」


 もちろんレクシアとイグザは、『アーたん』については聞かなかったことにした。自分たちが座っていた席まで戻って、レクシア達は帰り支度を始めた。


「前に来いと言われた時は何事かと思ったけど、頑張ったのが評価されるのは嬉しい。イグザ様は加味してもらわなくても成績優秀だから、付きあわせたのが何だか申し訳ない」

「気にしなくていいよ。ご褒美とかは元から期待してなかったし、レクシアさんとの魔物退治は楽しかったからね」

「わたしもイグザ様とで楽しかった」

「じゃあ帰ろうか」


 笑いあうレクシアとイグザは、仲良く二人並んで帰路に就いた。

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