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聴きみみ頭巾  作者: 玉美 -tamami-
回想
3/13

1

 あれは、二年前の夏だった。


 高校生になった僕は、新しくできた友人たちと一緒に、隣町の夏祭りに出掛けた。

 日が落ちた後、街灯にぶら下がった提灯に明かりが灯り、沢山の屋台と、沢山の人々で賑わうその通りで、僕らは意気揚々と祭りを楽しんでいた。

 そんな時、僕はそれに出会った。


 射的の屋台に景品としてあった、一際目を引く鮮やかな赤……



「君たち、射的してかない?」



 そう声を掛けられた僕たちは立ち止まって、誰が一番沢山景品を獲得できるか、という勝負事を始めた。


 今思えば、あの時から、運命の歯車は狂い始めていたのかも知れない。


 友人たちが次々と景品を獲得していく中、なぜか僕だけが一つも的に当てられなくて、途方に暮れていた。



「あれなら当たるかもね」



 お店の人がそう言って指さしたのは、鮮やかな赤い色。

赤い、頭巾だった。


 どこからどう見ても、的としては不向きなその形。

しなやかな曲線を持つその頭巾。



「あんなの、当たりっこないよ」



 そう言いつつも、その頭巾目がけて弾を撃つ。

 するとどうだ。

弾は頭巾に命中。

見事に下へと落下した。



「おめでとう。大当たりだ」



 お店の人はそう言って、その頭巾と一緒に、沢山のお菓子を僕にくれた。

 なんでもこの頭巾は、ここ数年ずっと射的の景品として出しているのに、今まで誰も撃ち落とせずにいたという。

 そして、こんな事も言っていた。



「君は幸運の持ち主だ。これはね、【ききみみずきん】と言って、あらゆる動物の声が聞こえる魔法の頭巾なんだ。これを被って、いろんな生き物と会話をするといい」



 お店の人の言葉に、友人たちは大笑いしていた。

 少しばかり恥ずかしくなったが、その時はとくに考えもせず、沢山のお菓子と一緒に、その赤い頭巾を家に持ち帰った。

 しかし、使い道のないその頭巾は、すぐさま襖の奥へとしまわれた。






 そして、今年の春。


 僕は高校三年生となり、受験生となった。

 将来のため、自分の夢のために、大学進学を志し、真面目に勉強に取り組んでいた。


 そんなある日、飼い犬のケンが散歩に行かなくなった。

 いつもの時間になって、僕が首輪にリードを繋いでも、家の外に出ようとしなかった。

 それが何日も続いて……、仕方なく獣医に家に来てもらったが、原因はわからなかった。



「歳でもないですし、見たところ病気でもなさそうだ。何か精神的なストレスで、散歩に行きたくないのでは?」



 そう言われた。

 けど、獣医にわからないことが素人の僕たち家族にわかるわけもなく、ケンは全く散歩に行かなくなってしまった。


 そして、僕は不意に、あの赤い頭巾のことを思い出した。

 沢山の物で溢れ返る襖の中を探って、その頭巾を見つけた。

 あらゆる動物の声が聞こえる、魔法の、ききみみずきん。


 もう夢見る歳でもないし、そんなおとぎ話みたいなことは信じない。

 けど、もし本当に、動物の声が聞こえるのなら、ケンの声が聞こえるかもしれない、そう思って……


 何故、そんな馬鹿げた思考に至ったのか、今となってはわからない。

否、わかりたくもない。

だけど僕は、その頭巾を手に取ってしまった。

それが全ての始まりだった。


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