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第一話 白騎士 目覚める刻(2)

「フィール。あれって、ガゼット……だよね」

 リーナの呟きが、止まっていたフィールの思考を再び動き出させた。

「あんなのが……何でデルラントに?」

「リーナ。聞いて」

 DGを運ぶ飛行機が発するエンジン音の中、フィールはリーナの両肩を掴み、言い聞かせるように言った。

「リーナは学校まで走って。そしたら先生たちの誘導に従って――」

 言い終わるよりも早く、爆発音が辺りに響いた。振り返ると、DG部隊が基地内へと投下されている最中だった。

「何で……」

「リーナ! 学校まで走って!」

 フィールは泣き顔になったリーナに強く言った。

「でも、でもでも! フィールは!? フィールはどうするの!? 一緒に来てくれないの!?」

 立て続けに起こる爆発音。基地からは煙が上がり始めている。

「僕も後で行く! 必ず行くから!」

 そう言ってフィールは全速力で基地の方へと走り出した。後ろからリーナの叫ぶような声が聞こえていたが、振り切る。邪魔な鞄は投げ捨てた。

「なんで、ガゼットなんてものがっ!」

 フィールの行く手から上がる煙は、その勢いを増す一方だった。


 *


『こちらアルファ1! 敵が! 数が多すぎる!』

『なんで中立国のデルラントに!? う、うわぁぁぁぁ!』

「おい! アルファ2、応答しろ! おい! クソッ!」

 第二世代型DG、ディーセントの中で、バルトレットは目の前のディスプレイに思わず拳を叩きつけていた。DGによる奇襲。それによってバルトレットたち基地勢力は完全に後手に回っていた。

「中立国相手にDGけしかける奴があるかよ……。これがオルガイアのやり方か!?」

 言いながらペダルを踏んで機体背部のブースターを起動させる。巨大な機械が基地を疾走した。

「セレン! 状況は!?」

『現在敵部隊と交戦中……。敵機体は、やはりフランカーです』

 予想していたものの、バルトレットは思わず愚痴た。

「フランカーでこの数とは……オルガイアの連中の気が知れないぜ」

 第三世代型DGフランカー。現オルガイア帝国の主力であり、バルトレットらが今搭乗しているディーセントの直接の後継機でもある機体。フォルムと武装はディーセントとほぼ同じだが、その性能はワンランク上をいっている。

「こちらバルトレットだ。遅れて悪かった。今から迎撃に入る」

 バルトレット機は眼前に見えた紺色の敵機体、フランカーに向けてブースターをより一層強く吹かした。


 *


 フランカーのマニピュレーターが持つアサルトライフルが火を吹く。連続で放たれる弾丸はその一つ一つが人間を肉塊にできる威力を持っている。

「そんなの……見え見えよ」

 その攻撃をセレン機は横へのブースト移動で回避。そのまま大きく回りこみながら自身もアサルトライフルを連射する。

 対する敵機も回避運動を取ろうとブーストを吹かした。しかしそれは間違いだった。

 上方向へのブーストでセレン機は大きく跳躍。左手でライフルを乱射しながらも、機体背部にマウントされている大型の実剣を空中で掴む。

 そうして、ちょうどセレン機の着地地点に移動してきた敵機を真上から切り伏せる。

 セレン機が離れた一瞬の後、爆散するフランカー。

「こちらセレン。敵一機クリア」

『こちらも一機クリアだ。まだまだいるからその調子で頼む』

 モニターの中でバルトレットが言った。

「了解。……戦闘を継続します」


 *


 フィールが到着した時、基地は見るも無惨に破壊されていた。人も物も、何もかも。それに区別はなかった。

「……うっ!」

 飛び散った血痕。瓦礫。そして少し前まで人間だったモノ。

 目の前に広がる虐殺と惨劇の跡。その光景によって突如として襲う嘔吐感。フィールは手で自身の口を抑え、両膝を付いた。こうしてる間にも遠くからは射撃音と爆発音が響いている。

「……くっ! なんで、こんな……!?」

 そこには故郷と同じ光景が広がっていた。六年前のあの日からフィールが忘れようとしていた光景。

 なんとかしなくては! フィールは漠然とそう思った。

嘔吐感をなんとか抑え込み、フィールは整備棟へと走る。


 *


「チクショー。ディーセントでこの数は流石(さすが)にちとキツイぜ!」

 バルトレット機は敵三機のライフルによる掃射を後退しながら回避する。複数相手だと撃ち返す暇もない。まるで弾丸の雨だ。

 すかさず物陰に機体を滑らす。

「おい、援軍はまだか!? このままだとこちらも持たねぇぞ」

『それがどうやら、他の基地も同じように襲撃を受けているようです。ですから援軍はまだ先になるかと……くっ!?』

「どうした!?」

『だ、大丈夫です。少し、被弾しただけですから……』

「無理はするな。いざとなったら機体は捨てて逃げろ。いいな!?」

『……わかりました。隊長も、ご無事で』

 セレンとの通信が切れた瞬間、敵の一機が隠れるバルトレット機を捕捉、機体内部に警報が鳴り響いた。

 バルトレットは咄嗟に機体を前進させ、ライフルを向けた敵機に体当たりをかます。

 それにより弾き飛ぶ敵機。素早くライフルを乱射してその一機を沈黙させる。と、そこへ残りの二機による攻撃が降り注いだ。

 バルトレット機はその攻撃をジグザグ走行の後退でやり過ごし、次の物陰へと機体を移動させる。

「ったく。今日はとんだ厄日だな、こりゃ」

 援軍無き戦い。おまけに機体の数と性能も向こうが上。つまりは負け戦。

 どうやら煙草を吸う暇もなさそうだ。バルトレットはそんなことを考えた。


 *


「機体状態は良好。各部制御も正常。よし! いける!」

 フィールは整備棟にて、搭乗員のいないディーセントに乗り込んでいた。

 機体の起動作業は完了。フィールはそれと同時に全味方機に通信を入れた。

「こちらフィールです。これより発進します!」

 そう言って機体を発進させようとした瞬間、バルトレットから通信が入る。

『新入りか!? なんで来た!? お前には無理だ! まだ補修教育が済んでないだろ。予備搭乗員たちはどうした!?』

 フィールは一瞬さっきの光景を思い出し、静かに言った。

「おそらく……戦死されました」

『くっ、何から何まで最悪だ! 新入り、お前は逃げろ!』

 途端、整備棟のすぐ外で起こる爆発。敵機が近づいているのだろう。

 その時、新たにセレンからも通信が入る。

『こんな状態じゃ、もう逃げるのも間に合わない。……発進しなさい。あなたは私が守ってあげる』

「あっ、はい! やってみます!!」

 フィールは機体のブースターに火を灯す。

『おい! ちょっと待て! 俺の話を――』

「フィール・ストライト、発進します!!」

 バルトレットの静止を振り切って一気に加速するディーセント。五メートルもの巨体が整備棟から躍り出た。

 フィール機の眼前にはフランカーが一機。敵を確認したフィールはペダルを深く踏み締め、いきなり最高速度で突進する。

 それに気付いた敵機はライフルを前に出すが、発見が僅かに遅れてしまったため、フィール機の接近を許してしまう。

 衝突するかに思われた二機。しかし、そうはならなかった。

 フィールが操縦桿を操ると、ディーセントはフランカーを避けるように回転。そしていつの間にか切られていたブースター。機体は慣性のままに滑っていき、そのままフランカーの背後を取った。

 青いディーセントは静かにライフルのトリガーを引く。

 立て続けに響く発砲音。至近距離で浴びせられる弾丸はフランカーの装甲を貫き、動力系統を破壊。

 マニピュレーターの指がトリガーから離れた時、敵機体は煙を上げながらその場に崩れ落ちた。

「……くっ、はぁ、はぁ、はぁ」

 暫し呼吸するのも忘れていたフィール。それは無理もないことだった。

 初めての実践。その緊張は凄まじいものだ。たったこれだけの動作の内に、体中の水分が全て無くなったかのような錯覚さえ覚える。自分の一つ一つの動作が人間を殺し、自らをも殺すかもしれないのだから。

 しかし、そんな僅かな感傷さえも戦場では許されない。

 機体内部に鳴り響く警報音。咄嗟にフィールは敵を探す。だが、遅かった。

 ライフルによる銃撃。思わずフィールは体を硬直させた。

 しかし、生命を絶たれたのはフィールではなく敵機の方だった。穴が開いたコックピットを引き連れて爆散するフランカー。その背後からセレン機が駆けつけてきた。

『大丈夫!?』

「は、はい。……なんとか。ありがとうございますセレンさん」

『礼ならこの戦いが終わってから言って。とりあえず、油断はしないで。只でさえこっちは性能で劣ってるんだから……』

 それに返事をする暇もなく新たなフランカーが姿を現す。敵機の銃撃をフィールとセレンはそれぞれ散開して、回避する。

『私の後に付いてきて。いい?』

「了解です!」

 二機のディーセントは敵機に向かって同時に加速した。


 *


「野郎ッ!」

 バルトレット機の銃撃により両腕を失ったフランカーが後退する。

 それも束の間、バルトレット機の背後からもう一機のフランカーが実剣を振り上げて迫ってきた。

 咄嗟にライフルを盾にする。当然ライフルは両断され、破裂。しかし、その短い時間で自身も実剣を背部から引き抜く。

 そして再度接近してきたフランカーを擦れ違い様に一閃。バルトレット機の背後でまたもフランカーが爆散した。

「くそ、もらっちまったか」

 見ると、機体の状態を示すモニターが、左腕部が中破したことを告げていた。今の斬り合いでやられたのだろう。

「まぁ、こんなんでも盾ぐらいにはなるか」

 実剣を再び背部へとマウントし、倒したフランカーのライフルを頂戴するバルトレット機。

 レーダーを確認すると、セレンとフィールの二機が囲まれているのが分かった。他の味方部隊も次々と撃破されている。戦力差は開く一方。

「……それでも、やるしかねぇだろ」

 ライフルを構え直し、バルトレット機は全速力で二機の援護に向かった。


 *


「セレンさん! 後ろ!」

『――くっ!?』

 セレン機は振り向くのと同時に実剣で、背後にいた敵機の頭部を切断した。そしてフィールがライフルの掃射でトドメを刺す。

 すぐにセレンはレーダーに視線を移す。自分たちの近辺に少なくとも六機のフランカーがいることをレーダーは告げていた。

『囲まれたわね……』

 この時既にセレン機は右肩とブースターが、フィール機は脚部を既に損傷していた。

『とりあえず、一旦隊長と連絡を――』

 瞬間、建物の影から一機のフランカーが突進してきた。

 セレン機は咄嗟にライフルを向けようとしたが、右肩の損傷の所為で機体動作の反応が遅れる。そのまま体当たりをくらい、背後の壁に激突してしまう。

「セレンさん!!」

 フィール機は急いでライフルを敵機に掃射するが、またも別のフランカーが横から実剣で斬りかかってくる。

 結果、右腕部がライフルごと両断されてしまう。

 フィール機も負けじと、残った左腕部で敵機の頭部を殴り飛ばす。しかし反撃として強烈な体当たりをもらってしまう。

「――ぐっ!」

 敵機はその状態からさらにブーストを吹かし、フィール機を倉庫のシャッターへと叩きつけた。二機の巨人はシャッターをいとも簡単に破り、その奥の薄暗い空間へと滑り込む。 機体内部に激しい揺れが起こる。次いで損傷を示す警報音。

「くそっ! 今の衝撃で、脚部が!!」

 モニターは脚部大破という結果をフィールに告げていた。これでは歩行もままならない。

 薄暗い倉庫の中、目の前のフランカーはゆっくりと立ち上がる。そして、こちらにライフルの銃口を向けた。

「まだ、……まだだあああぁぁぁッ!!」

 フィールはブースターをフルスロットルで起動。地面と機体との摩擦で火花が散る。

 傷ついたディーセントは脚部を無様に引きずりながらも、眼前のフランカーに最後の突進をかました。

 その衝撃で正面外部装甲がひしゃげ、両機共に正反対に吹っ飛ぶ。激しい音をたてて転がる両機。

「くそっ。……終わり、か」

 遂にカメラを残して、ほぼ全てのパーツが大破してしまった。モニター内は“システムエラー”の文字で一杯だ。

 見ると、更に三機のフランカーが倉庫内へと侵入してきた。これでは脱出しても意味はないだろう。

 先ほどからフィール機と格闘を繰り広げていたフランカー。それはボロボロになりながらも立ち上がり、機能停止してしまったディーセントの前に立った。

『なかなかいい戦いだったぜ……』

 突然、敵パイロットの声がフランカーの外部スピーカーから発せられた。同時に背部から実剣を引き抜く敵機。

『……悪く、思うな』

 敵パイロットはそれだけ言って、実剣を振り上げた。その瞬間だった。

 ――掃射!

 突如として、トドメを刺そうとしたフランカーに直上から弾丸が降り注いだ。敵パイロットは機体の爆発により、炎に呑まれる。

『敵だと!?』

 後方に控えていた三機の頭部カメラが攻撃の発射地点、つまりは天井を見上げた。

 その一瞬の後に倉庫の天井を突き破って、一機のフランカーが姿を現した。

 出現したフランカーは落下しながらもライフルを掃射。フィールの眼前にいる敵機を攻撃する。

 同型機の予期せぬ銃撃はまたも一機のフランカーを破壊し、爆散させる。

『なんだコイツ! 仲間じゃねぇのか!?』

『くっ! 撃て! 撃てぇ!』

 堪らず残った二機が応戦する。

 一方のフランカーはフィール機の目の前に着地し、後ろにある機体をまるで守るように、自らの装甲で迫り来る銃弾を受け止めた。

 その一瞬の後、背部の実剣を取りだし、相手に向かって勢いよく投げつける。

 応戦していた敵の一機はその実剣にコックピットを貫かれ、爆発。倉庫内に炎とフランカーの残骸がまたも飛び散った。

 それとほぼ同時に、最後の一機へとブーストを使って急接近するフランカー。

 敵機もライフルで攻撃するが、フランカーはそれを左腕部を盾にして凌ぐ。攻撃を受けた腕部が何度も小さく火を吹いた

 捨て身の接近に成功したフランカーは、大破寸前の左腕部をストレートパンチの要領で敵胸部に叩きつける。重低音と同時にフランカーの腕部がひしゃげ、敵機が派手に吹っ飛ばされた。

 そして間髪入れず、倒れた敵機にライフルの弾をお見舞いするフランカー。

 爆散する敵機。その炎が倉庫内の物質に燃え移る。

 炎は静かに広がっていき、薄暗かった空間を揺らめくオレンジの光で照らしだした。そうして炎はゆっくりとその勢いを増していく。

 燃え盛る戦場。その中で、大破したディーセントと片腕を失ったフランカーが向き合っていた。

 フィールはコックピットにて、ただただ呆然とその機体を見つめていた。敵であるはずのフランカーも、何をするでもなく沈黙を守っている。

 その時のフィールは逃げる、または脱出装置の起動といった選択肢の存在すらも思い出せないでいた。それどころか自分の命がまだ続いていることすらも信じられないでいたのだ。

 すると不意に、目の前に立つフランカーが呼びかけてきた。

『ディーセントのパイロット、外へ出ろ』

 おそらく女の声。それは透き通るような声だった。しかし同時に、有無を言わせぬような口調でもあった。

 フィールは再び自分の思考回路を呼び戻す。

 この距離では脱出装置を作動させてもライフルで撃ち落とされる。ましてやDG相手に走って逃げれる可能性はゼロだ……。そう、フィールに選択肢はなかった。

 機体背部のハッチを開く。そしてディーセントから降りて、外へと出たフィール。周りで蠢くオレンジの炎。そこから発生した生暖かい風が少年の皮膚を舐めた。

 フランカーの頭部カメラが生身のフィールへと向けられる。

『……やはり、な』

 フランカーは突然横を向き、次いで地面に片膝を付く体勢になる。

 その数瞬の後、フランカーのハッチが開き、コックピットが外部へと迫り出す。そしてパイロットがコックピットでゆっくりと立ち上がった。

 その時フィールは見た。炎の光を反射する銀色の髪と、自らを見つめる紅の瞳を……。

「見つけた……極微の、一点」

 フィールを見下ろす少女は、静かにそう呟いていた。

◎登場機体について

『ディーセント』

分類:第二世代型DG 生産形態:量産機

全高:五メートル

全世界で初めての量産型DGであり、実践投入されたのも今機が初めて。

全体的に角張った鋭角的フォルムをしている。頭部のカメラアイは一つで、起動時は赤く発光する。

オルガイア帝国の物はエバーグリーン、デルラント共和国に配備されている物は青に塗装されている。

武装はアサルトライフル×1、対装甲大型実剣×1、内蔵式機銃。

アサルトライフルは腰に、対装甲大型実剣は背部にマウント可能。内蔵式機銃はもっぱら対人戦用。腕部は当然マニピュレーターのため、上記以外の武器ももちろん使用可能。

名称は「まともな」という意味の「Decent」から。



『フランカー』

分類:第三世代型DG 生産形態:量産機

全高:五メートル

現オルガイア帝国の主力機体でディーセントの後継機。

そのため、ディーセントと似かよったフォルムをしている。しかしカメラアイは4つに増えており、ブースター出力を高めたため、背部は若干大型化されている。武装に関してはディーセントと全く一緒。

ディーセントのパワーアップ版と言っても差し支えない。

カラーリングは紺色。

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