初めてのアルバイト面接がめちゃめちゃ怖い
夢を追う女の子の話。
幼稚園から小学生、小学生から中学生、中学生から高校生。
それは歩いている間はながく感じられる道のりだけどいざ標識前まで来てしまうとあっという間だったと感じるものなのだ。この間に社会に揉まれたり揉まれなかったりして大人に近づいていく。うちの家は高校まではお小遣いがもらえたからアルバイトなんてしたことがなくて、高校を卒業してしまった今となってはやっておけばよかったなと後悔するばかりだ。いやでも怖かったんだよ社会にでるのも働くのも、まぁ夢を追っているあたり、とっくに片足は社会に突っ込んでるけどね!
そう、私には夢がある。声優さんになるという夢が。ただ、養成所に通う周囲のこたちほどの熱意があるかと言われると、困る。夢より大事なものは当然あるし、それは命だったり家族だったりなんだったり。そういうものを優先しなきゃいけないとき私はすっぱり夢を投げだすだろう。その程度の気持ちなのだ。でも夢は夢。
他のこたちのように燃え上がるような熱を持つわけではない。だからその子達から見れば私は甘いし頑張ってるようにもみえないし、努力だって足りないかもしれない。でも、これは私の夢。夢にかかるお金ってそうとうで、あっという間に飛んでいく。だから稼がなければならない。うん、無理。
今までは親が出していたくれたんだけどね、それはもう期待できないから。私の人生だしね。
なによりうちはあまりいい家庭環境ではないので…母親と父親、兄と姉、父のお母さん。私が幼稚園の頃はまだマシだったけど、小学校に上がった頃からはもう、だめだろうなと思っていた。私のあの頃の内心は"離婚"したほうがいいだろうに、だったから。
でも、一番の理由は私なんだってこともわかっていた。母の連れ子の姉と父の連れ子の兄二人。つまり父と母両方の血をひいているのは私しかいないというわけだ。あの家では私だけが二人をどうにか繋いでいる形あるものだった。言ってしまえば、私さえいなければ話はもっと簡単だったのだ。私さえ、生まれていなければ。これは幼稚園の頃からずっと思っていたことでもある。18歳になった今も思うことだけど。でも、母親には絶対に言えない言葉だ。だって傷つけてしまう。あの人はほんとうに優しくて、いい母親だから。いつだって「二人はままの幸いなんだよ」とか「まま夢だったの、育て方変えたらどうなるのかなーって二人で実験できたんだから」とか――いやこれは変わってるけど。でも「ままの宝物なんだからね」って本気でそう言って抱きしめてくれる人。父はどうしょうもない人なんだけどね。長兄は物静かでほぼ空気だし、私には害のない相手だけど、次兄はだめだ。悪いことを悪いことだと認識できていない。あれは病気だと思う。姉はいい人だ。私のいたずらに怒って、注意して、でも手をはなさないでいてくれる。多分、私の親はお母さんで、家族と言えるのは母と姉で。でも、お金を出して衣食住を整えているのは父親なのである。食事を作ってくれるのはお母さんだし、洗濯やらなにやらをしてくれているのはお母さん。だけど、お金という弱みが私達にはある。
「バイトしなきゃなぁ」
だからこそ、その弱みをなくさなければならないのだ。
養成所と電車代を稼がなければならないし、服やらなにやらも整えていかなければならない。だって夢が夢なんだもの。
そういうわけでアルバイトに応募してメールが来たわけです。返信とかいろいろ大変じゃない?心の準備欲しくない?
件名は変更しない。文章の最初は○○株式会社○○様、と。
その下には応募した○○ですと自分の名前。うわーこわー。もうほんとに怖い。だけどもっと怖いのはいざ面接までこぎつけて面接に行ったあとの、面接してくれた人の対応でした。なんかね、「ほうじ茶ラテを売るとしたら何円で売りますか」って聞かれて、よくわかんないけど有名なオシャンで陰の者にはきついなーって感じの、でもネット住民キラキラヲタ友がよく行く自由の女神さんのとこあるじゃん。あれ思い出して「千二百円ぐらい…?かなと」って答えたら「すばらしい!いや素晴らしいですね」って言われたんだよ。こわくない?私は怖い。
「今まで質問してきた人の誰よりも高い答えでしたよ」って。
なんかねー、自分の想定してるのとぴったりはまっちゃったみたいでね?こわかった。エリートっぽいんだよこの人。あんまり理想と現実の区別がついてなさそう。そんな気がする。偏見だけども。
それで話される内容とか雰囲気的に上品なカフェなのかなーって感じだったの。だから「上品な感じってことですか」って聞いたら急にピリつきだして。「違います」って強めに返されてね、えーじゃあ何なんだよ〜!!!こわ!!ひえーー!って思いつつ、「えーと、」ってなってたら「いい忘れていたんですがドッグランができるんです。なのでカジュアル寄りで〜」って言い出すんだ。その話されてなかったですよね!?カジュアルの要素突然じゃん!ねぇ!?なんで話してなかったのにそんな開き直っ…いや怒んなくて良くない!?こわ…………。
でもまぁ、トータル相手の理想に私、はまってしまったみたいでして。
良い印象バッチリもたれたみたいでして、アルバイト、採用されましたー!!いえーい(棒)
オープニングスタッフ募集だったからアルバイトが始まるのはまだ先なんだけども。というわけでアルバトはじまるまでは今まで通り養成所の方を頑張るとしますかねー。はーこわ。まだこわい。もうアルバイト不安でしかねぇ。
とかなんとかやってたんです。どうにか生きてたんですけど、いよいよバイトはじまっちゃった。もう無理だわ、まじで。絶対あの人エリート家系なんよ、できない人の気持ちがわからないタイプの人なんよ。いやいや偏見良くない良くない!そんなことないよね、私の目が曇ってるんだよ。色眼鏡良くない、まだ無色透明、色はこれから自分でちゃんと判断してつけていきましょう。着色料はいったんぽいぽいするんです。恐怖の研修期間一ヶ月ほど、そうしてバイトは始まりました。お客さんがすぐ入ってくることなくね?って思ってたけどリゾート計画ってことでわりときました、オープニング。忙しい!あれはこっちにあっちに、それはどっちに、まわりはみーんな年上だらけ、お客さんなんグループかを対応するのは私だけ。みんなそれぞれの席で対応するお客様が決まってるのです。専属に近いのです。なんでこれが初バイトなんや?
辞めたい。
でもお金欲しい。
でもやっぱり私にはむりそうなんですが!
働くのって怖いです!
かえりたい〜〜〜帰ってもつらい〜〜〜!!!
「もうむり…」
「どうしたの?」
はっと顔をあげる。駅のホーム、バイト前。
行きたくねぇなぁという気持ち全開で立ちすくむ私に声をかけてきたのは同じ養成所、同い年の美夜ちゃんでした。私と違って、ちゃーんと高校生の頃からバイトして一人暮らしもしてるのです。偉いね…偉いしすごいしなんていうか、努力できるっていいなぁ。
「ううん、何でもないよ。美夜ちゃんはなんでここに?」
「新しいバイトの面接」
「今のバイトやめるの?」
「うん。店長変わってからあんまよくないんだ」
そうなんだ、とかえして会話は終了しました。ゆうて私美夜ちゃんと仲良くないのです。さして話すことないのです。
嫌いとか苦手とかそういうのではなく、美夜ちゃんは私からみるとすごいな偉いな、いいなぁが全て。
私にできないことを「できる」のはすごいことで、だけど羨ましいとはまだ違って。妬みとか嫉妬とかそういうの、どっかにおいてきちゃったみたい。もうずっとわからないままなんだ。苦しくてどうにもならないのに生きるのをやめることもできなくて、いつだって泣き出したいのにそんなの嫌で、変わりたいのに変われなくて、努力したいのにできないの。
できないって何?そんなことなくない?
やる気がないだけだろう。
ほんとは夢じゃないんじゃないの。
やりたくないならやらなくていいよ。
お金の無駄だろ。
なんで目指してんの?
やりたいことならできるだろ。
そう、その通りなんだ。
やりたいことなのにどうしてできないのでしょう。私の「夢」であるはずなのに私はなんで何もしないでいられるの?ダンスは、歌は、セリフは?いつ練習したっていうの?明日やる課題なのにどうして夜まで何もしなかったの?ほんとうに、その通りで。
私はどうして何もしなかったのでしょう。
変わりたい。
じゃあ変われば?
でも変われない。変わらない。
じゃあやめれば?
やめたくない。
わがままばかり、意味もなく。
苦しい苦しい、いきたくない。やめたい。ねたい。
ずっとずっと、水の中でたゆたうだけでいられたらよかったのに。生まれてきたくなかった。生まれてきたくなかった。
夢の中で眠るままそのままがよかった。だけどそんなこと言えるわけがない。産んでほしいなんていってない?そのとおりだ。だけどそれって、私を産みたいと願われたわけでもないでしょう?お腹に宿ったのがたまたま私だっただけ。私を産みたかったんじゃなくて宿ったこどもを産むと決めてくれただけ。
ああだけど、私は生きるのが苦しくて仕方ない。
「紬稀ちゃん、なんかあったの?」
じわりと浮かんだものがバレないように私は首を振りました。平気だね、大丈夫だね、大丈夫。泣かない、泣かない。泣くことなんてない。
「いや、ただバイトやだなーって」
「あー、やだよね。私もねたいもん」
「そうだよねえ」
羨ましいわけじゃない。妬むわけじゃない。
じゃあなんだろう。
苦しいの、私が嫌になっちゃうの。
自分を嫌いになってもいいことないのに嫌いになってしまいそうだ。お母さんが宝物だというから嫌いになんてなりたくないのに。あの人のキラキラ光る大切なものを私の手で泥まみれにする訳にはいかないのに。だけどどうしたって、私は私の生き方をしょうさんできない。
「あ、私もうそろそろ」
「そっか、じゃあまた日曜日に!」
「うん、美夜ちゃんも面接がんばってね〜〜」
ばいばいと手を降って乗り込んだ車内。いつもの匂い、いつもの路線。どうにもならない私。
夢ってなんなんだろう。
わたしはどうしてこのゆめをえらんだの?
これがゆめじゃないならわたしはなにを。
「はたらくってこわいなぁ…」
「お腹痛いから帰っていいですか?」の主人公ちゃんと同じ養成所に通う女の子の話です。
*美夜ちゃん
一人暮らし、バイト漬けの日々。
夢の為ならがんばれる
*紬稀
実家ぐらし、初めてのアルバイトをはじめた。
人生が苦しい